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図書館で出会って  作者: 山之上 舞花
第1章 出会い編
13/43

13 夏期講習で その4

 沢渡(さわたり)の言葉を聞いて、朝に彼、吉田(よしだ)鷹広(たかひろ)のことを囲んだ女子達がそばに来た。


「え~、それってずるくない。私達のことは断って、お祭りにはいくんだ~」


 なんか理不尽な言いようだ。


「別にずるくないだろ。俺たちは男同士の友情を深めるんだからな」


 沢渡は彼女たちのことをあまりよく思っていないので、突き放すような言い方をしていた。


「それはこれから深めればいいじゃない。遊びの場なら、私達が一緒でもいいでしょ」

「そうよ、そうよ」


 女子達は引くつもりはないみたいだ。その様子を見て、田中(たなか)達もそばに来た。


「君たち、吉田君の立場を考えたまえ。転校してきて知り合いはこちらにいないんだぞ。たまたま高槻(たかつき)さんがそばに住んでいるという幸運があったけど、引っ越したばかりで、ついでに夏休み中というハンデがあるんだ。僕たちと友情を作りたいという、彼の気持ちをわかってあげられないのかい」

「えー、でも~」


 田中の少し強引な論法に、言い返せないようだけど、それでも不満であると訴える女子達。それを困ったように見ている彼の顔を見て、私は決心をした。

 机を叩くようにして立ち上がった私、高槻由真(ゆま)に周りの視線が集まった。


「それじゃあさ、みんないいかな? 来週の土曜日に花火大会に友達と行く人は、駅前に17時に集合すること。別にこれは強制じゃないよ。でも、せっかく同じところに行くのだもの。行きくらい一緒に行きましょう。さすがにクラス全員は来ないと思うけど、ある程度の人数がまとまって動くと、他の人の邪魔にもなると思うのよ。だから、花火大会の会場までを集まった人が一緒に行動をするの。会場に着いてからは約束したグループごとに別れて行動するでどうかな?」


 私の言葉にまだクラス内に残っていた人は、頷いたり「了解」や「わかった~」や「オッケ~」と、返してくれた。それを見て女子達もしぶしぶと頷いて、教室を出て行った。


 私達も鞄を持つと教室を後にした。

 校門で方角が違う片倉(かたくら)花南(かなん)会田(あいだ)結花(ゆか)と別れた。早乙女(さおとめ)琴音(ことね)とも途中で別れて、蕪木(かぶらぎ)路香(みちか)と彼と私の三人で歩いていく。


「お~い、待ってくれ~」


 後ろから声が聞こえたと思ったら、沢渡と田中、永井(ながい)小梁(こはり)が追いかけてきていた。

 何事かと思い立ち止まったら、彼らは追いつくとそのまま歩き出した。

 私達も促されてまた歩を進めた。


「そういえば蕪木のうちって、茶店だったよな。寄ってもいいか?」

「別に構わないけど、いいの? 寄り道なんかして」


 路香が怪訝そうに彼らを見ていた。


「大丈夫。理由ならあるからさ」

「そうそう」


 沢渡の言葉に永井が相づちを打つ。


「今日はさ、家に帰っても昼ご飯がないんだよ」

「俺なんて、夏休み入ってからずっとだぜ」


 沢渡が言い、永井が不満そうに続けた。

 つまり家にお昼ご飯が用意されていないから、路香のところで食べて行きたいということだろう。


「それにあいつらがついてきていたとしても、蕪木には逆らえないじゃん」

「おい」


 ニカッと笑う沢渡に、小梁が軽くわき腹をつついていた。

 軽く男子を見るようにしながら、路香は何気なく後ろを振り返った。

 私も振り返ろうとしたら、路香に腕を取られて引っ張られた。


「まあ、いいんだけどね。うちの売り上げに貢献ありがとう~。でも、あんたたちはお金を持っているの?」


 大丈夫だと、沢渡が胸を叩いた。そういえば沢渡の家は中学校のすぐそばだった。よく見れば、みんな鞄を持っていない。沢渡の家に寄って置いてきたのだろう。


 路香の顔を見ると少し厳しい顔をしていた。でも私の視線に気がつくとウインクをしてきたので、まあ、つまり、そういうことなのだろう。


 マンションへと続く丘の手前の道を右折した。そこから3分ほどで路香のご両親がやっている喫茶店がある。学校を出たのが12時35分くらいで、ここまで来るのに30分近くかかっているだろうから、もう13時は過ぎたことだろう。


 そんなことを思っていたら、肩のところにちょいちょいと触れるものがあった。

 横を見ると彼が少し困ったような顔で、私のことを見ていた。


「どうかしたの、吉田君」

「えーとさ、その、高槻さんはお金って、持っているの?」

「あっ!」


 彼に言われて気がついた。学校に行く時は余分なお金は持ってこないように言われている。なので、念のための小銭を少ししか持っていなかった。


「どうしよう」


 呟いたら、隣を歩いていた路香が笑い声をあげた。


「やーだ、心配しなくてもツケでいいわよ」

「……ツケって」


 彼がツケという言葉に不安そうな顔をした。でも、これはわかる。普通に中学生がツケで飲食するだなんて聞いたことがないもの。


「そんな顔をしないでよ、二人とも。ツケっていったって、由真のことだから帰ったらすぐに届けに来てくれるんでしょ。そういう子だって知っているからさ」


 路香がカラカラと笑ったら、彼がため息交じりに言った。


「僕は会ったばかりだけど」

「あら、私はこれでも人を見る目はあるつもりよ。由真が面倒をみる気になるくらいには、吉田君もいいやつなんでしょ」


 その言葉を聞いて、彼は複雑な表情を浮かべた。


「つまり僕ではなくて、高槻さんの信用ということか」


 ニヤリと笑う路香と困惑気味の彼を、私も複雑な心境で見つめたのだった。


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