13 夏期講習で その4
沢渡の言葉を聞いて、朝に彼、吉田鷹広のことを囲んだ女子達がそばに来た。
「え~、それってずるくない。私達のことは断って、お祭りにはいくんだ~」
なんか理不尽な言いようだ。
「別にずるくないだろ。俺たちは男同士の友情を深めるんだからな」
沢渡は彼女たちのことをあまりよく思っていないので、突き放すような言い方をしていた。
「それはこれから深めればいいじゃない。遊びの場なら、私達が一緒でもいいでしょ」
「そうよ、そうよ」
女子達は引くつもりはないみたいだ。その様子を見て、田中達もそばに来た。
「君たち、吉田君の立場を考えたまえ。転校してきて知り合いはこちらにいないんだぞ。たまたま高槻さんがそばに住んでいるという幸運があったけど、引っ越したばかりで、ついでに夏休み中というハンデがあるんだ。僕たちと友情を作りたいという、彼の気持ちをわかってあげられないのかい」
「えー、でも~」
田中の少し強引な論法に、言い返せないようだけど、それでも不満であると訴える女子達。それを困ったように見ている彼の顔を見て、私は決心をした。
机を叩くようにして立ち上がった私、高槻由真に周りの視線が集まった。
「それじゃあさ、みんないいかな? 来週の土曜日に花火大会に友達と行く人は、駅前に17時に集合すること。別にこれは強制じゃないよ。でも、せっかく同じところに行くのだもの。行きくらい一緒に行きましょう。さすがにクラス全員は来ないと思うけど、ある程度の人数がまとまって動くと、他の人の邪魔にもなると思うのよ。だから、花火大会の会場までを集まった人が一緒に行動をするの。会場に着いてからは約束したグループごとに別れて行動するでどうかな?」
私の言葉にまだクラス内に残っていた人は、頷いたり「了解」や「わかった~」や「オッケ~」と、返してくれた。それを見て女子達もしぶしぶと頷いて、教室を出て行った。
私達も鞄を持つと教室を後にした。
校門で方角が違う片倉花南と会田結花と別れた。早乙女琴音とも途中で別れて、蕪木路香と彼と私の三人で歩いていく。
「お~い、待ってくれ~」
後ろから声が聞こえたと思ったら、沢渡と田中、永井、小梁が追いかけてきていた。
何事かと思い立ち止まったら、彼らは追いつくとそのまま歩き出した。
私達も促されてまた歩を進めた。
「そういえば蕪木のうちって、茶店だったよな。寄ってもいいか?」
「別に構わないけど、いいの? 寄り道なんかして」
路香が怪訝そうに彼らを見ていた。
「大丈夫。理由ならあるからさ」
「そうそう」
沢渡の言葉に永井が相づちを打つ。
「今日はさ、家に帰っても昼ご飯がないんだよ」
「俺なんて、夏休み入ってからずっとだぜ」
沢渡が言い、永井が不満そうに続けた。
つまり家にお昼ご飯が用意されていないから、路香のところで食べて行きたいということだろう。
「それにあいつらがついてきていたとしても、蕪木には逆らえないじゃん」
「おい」
ニカッと笑う沢渡に、小梁が軽くわき腹をつついていた。
軽く男子を見るようにしながら、路香は何気なく後ろを振り返った。
私も振り返ろうとしたら、路香に腕を取られて引っ張られた。
「まあ、いいんだけどね。うちの売り上げに貢献ありがとう~。でも、あんたたちはお金を持っているの?」
大丈夫だと、沢渡が胸を叩いた。そういえば沢渡の家は中学校のすぐそばだった。よく見れば、みんな鞄を持っていない。沢渡の家に寄って置いてきたのだろう。
路香の顔を見ると少し厳しい顔をしていた。でも私の視線に気がつくとウインクをしてきたので、まあ、つまり、そういうことなのだろう。
マンションへと続く丘の手前の道を右折した。そこから3分ほどで路香のご両親がやっている喫茶店がある。学校を出たのが12時35分くらいで、ここまで来るのに30分近くかかっているだろうから、もう13時は過ぎたことだろう。
そんなことを思っていたら、肩のところにちょいちょいと触れるものがあった。
横を見ると彼が少し困ったような顔で、私のことを見ていた。
「どうかしたの、吉田君」
「えーとさ、その、高槻さんはお金って、持っているの?」
「あっ!」
彼に言われて気がついた。学校に行く時は余分なお金は持ってこないように言われている。なので、念のための小銭を少ししか持っていなかった。
「どうしよう」
呟いたら、隣を歩いていた路香が笑い声をあげた。
「やーだ、心配しなくてもツケでいいわよ」
「……ツケって」
彼がツケという言葉に不安そうな顔をした。でも、これはわかる。普通に中学生がツケで飲食するだなんて聞いたことがないもの。
「そんな顔をしないでよ、二人とも。ツケっていったって、由真のことだから帰ったらすぐに届けに来てくれるんでしょ。そういう子だって知っているからさ」
路香がカラカラと笑ったら、彼がため息交じりに言った。
「僕は会ったばかりだけど」
「あら、私はこれでも人を見る目はあるつもりよ。由真が面倒をみる気になるくらいには、吉田君もいいやつなんでしょ」
その言葉を聞いて、彼は複雑な表情を浮かべた。
「つまり僕ではなくて、高槻さんの信用ということか」
ニヤリと笑う路香と困惑気味の彼を、私も複雑な心境で見つめたのだった。




