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図書館で出会って  作者: 山之上 舞花
第1章 出会い編
12/43

12 夏期講習で その3

沢渡(さわたり)~、めんどくさがらないでくれる。指名はあんた」

「え~、おバカな俺より、高槻(たかつき)の方が説明役には適してるって」


 ひらひらと手を振って言う沢渡。私、高槻由真(ゆま)は、あきらめてため息交じりに説明を始めた。


「もう~。ええっとね、吉田(よしだ)君。5月に騒がれた爆弾騒ぎって、知ってる?」

「ニュースで見たあれかな?」

「そう、たぶん、それね。あの脅迫文のおかげで、まず全市で小中学校が1日休校になったの。実際にはそんな物はなかったんだけどね。そのあと、うちの学校を名指しで爆破予告がきて、色々調べたりなんだりで、もう2日休校になったのよ」

「大変だったんだね」


 吉田鷹広(たかひろ)の言葉に沢渡も私も、それから私の前の席で沢渡と同じく後ろを向いていた蕪木(かぶらぎ)路香(みちか)も、苦笑を浮かべた。


「最初は学校が休みだ~、って喜んだけどね。ほんと、どこのバカよ。こんなことをしたのは。ほら、学校って日数が何日の、授業時間が何時間のってあるじゃない。おかげでその分夏休みが短くなったんだけど、もう1日分が確保できなくて、この夏期講習になったのよ」

「じゃあ、1日遅く夏休みになったのはそれが原因」

「まあ、そういうことだ」

「あんたが偉そうにしないの」


 最後を掻っ攫って格好つけた沢渡に、路香の鋭いツッコミが入った。

 そしてチャイムと共に望月(もちづき)先生が入ってきたから、沢渡と路香は前を向いた。


 1時間目の数学が終わり先生が教室から出て行くと、今度は男子が彼の周りにきた。


「僕はクラス委員長をしている田中(たなか)宏和(ひろかず)というんだ。よろしく、吉田君」

「よろしく、田中君」

「まあ、高槻がついていれば大丈夫だと思うけど、何かあったら言ってくれ」

「うん」


 他の男子たちも彼に一言挨拶をして離れて言った。

 そうしたら、彼のぼやくような小声が聞こえてきた。


「大丈夫かなー。みんなの名前を覚えられるかな~」

「いや、無理じゃない」


 思わずツッコミを入れてしまった。

 そうしたら彼が私のほうを向いた。


「少しひどくない?」

「いや、だって、無理なものは無理でしょう。私だってクラス替えをして、全員の名前を覚えるまでに1週間かかったもの」

「1週間? それは早いだろ」

「いや、待ってよ。私はみんなとクラスは違っても、2年間同じ学校で過ごしていたんだってば。吉田君は知り合いが一人もいない状態で、覚えなきゃならないわけじゃない。それにね、今は夏休みでしょう。これから毎日会うのなら覚えられるだろうけど、次に会うのは夏休み明けになるでしょう。20日後までに、一回あったばかりの35人を覚えている方がおかしくない?」


 私がそう言ったら、沢渡が振り向いて言った。


「そりゃそうだ。高槻の言う通りだよ。夏休み明けに覚えればいいって。まあ、でも俺のことは覚えていて欲しいけど」


 ニカッと笑っていう沢渡に、目を瞬いた後、彼は少しいたずらっぽい目をして言った。


「ありがとう。そう言ってもらえると、気が軽くなったよ。佐渡島(さどがしま)君」

「ああ。……って、おい。佐渡島じゃねえって~」


 わめくように間違いを指摘する沢渡に、彼が笑顔を向けた。


「うん、わかっているよ、沢渡君」


 その答えに沢渡は目を見開いた後、(すが)めるようにして彼のことを見た。


「なんか……意外といい性格をしてんじゃないの、吉田って」

「えっ? そうかな」

「そうだよ」


 そしてチャイムが鳴って国語の先生が入ってきたから、沢渡は前を向いたのだった。


 今日は午前で授業は終わりだ。これから暑い中をマンションまで戻るのかと思うと、げんなりとする。

 帰り支度をしていると、片倉(かたくら)花南(かなん)がそばに来た。


「由真~、遊びの計画を立てようよ~」

「花南、わたしたちは受験生よ。それを忘れた発言をしないの」


 路香が花南に苦言を呈している。


「みっちーまで、ひどい~。受験生でも息抜きは必要だと思うな~」

「息抜きならいいけど、花南はちゃんと勉強しているの?」

「してるよー。だって、そうしないと、来週の花火大会に行っちゃ駄目だっていうんだもの」


 花南は頬を膨らませながら言った。

 そういえば花火大会は来週の土曜日だったと思いだした。


「だからね、由真。花火大会に一緒に行こうよ~」

「花火大会か~。それならいいかな」

「やったー! それじゃあさ、浴衣の着付けをお願いしていい?」

「えー、ずるい。私も一緒に行きた~い。そして由真、私に浴衣を着せて~」


 花南だけでなく、早乙女(さおとめ)琴音(ことね)までそばに来たと思ったら、お願いをされてしまった。


「別に着付けるのはいいけど、みんなの家を回ることはできないよ」

「それならさ、うちが一番駅に近いから、うちに浴衣を持って集まって、由真に着せてもらえばいいじゃない」


 会田(あいだ)結花(ゆか)までが話に加わってきた。でも、この申し出は助かる。

 移動しなくていいのなら、時間を決めて集まってもらって、そこからみんなで行けばいいわけだし。


「吉田、来週の土曜日の予定ってなんかある?」

「えーと、別にないけど」


沢渡が彼のほうを向いて言った。


「それじゃあさ、俺らも花火大会に行かねえか」

「えっ、いいの」

「もちろん。委員長の田中と永井(ながい)小梁(こはり)が一緒なんだけどさ」

「えーと、他のみんながいいのなら、行ってみたいかな」


 彼の言葉に沢渡が大声を出した。


「田中~、永井~、小梁~。花火大会にさ、吉田も一緒でいいか」

「おう!」

「いいぜ!」

「了解!」


 三人から返事をもらった沢渡がニッと笑った。


「だってさ。行こうぜ」


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