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図書館で出会って  作者: 山之上 舞花
第1章 出会い編
11/43

11 夏期講習で その2

 他のクラスの人たちが居なくなるのを見ていたら、片倉(かたくら)花南(かなん)が興味津々という顔をして訊いてきた。


「それで、実のところはどうなの?」

「なにが?」

「本当はいい感じになっているとか、ね」

「ないって、それは」

「ほんとう?」

「ほんと」

「ほんとうに~?」

「花南、しつこい!」

「花南は黙ってな。話にならないから」


 私、高槻(たかつき)由真(ゆま)蕪木(かぶらぎ)路香(みちか)に言われて、やっと花南が黙った。


「大体はわかったけど、もう一つ聞きたい。彼はうちのクラスに入るの?」

望月(もちづき)先生の話だと、そうらしいけど」


 路香の質問に首を傾げながら答えた。

 でもこれは、先生に連れられて彼が教室に来るまでは、わからないものね。


「確定じゃないの?」

「人数しだいって言ってたよ」

「そっか。わかった」


 その時、クラスの男子が机と椅子を持って入ってきて、空いていた私の左隣に置いたのだった。



 チャイムと共に望月先生が彼を連れて教室に入ってきた。


「みんな、席に着け」


 席についていなかった者が、慌てて自分の席に戻る。

 彼は緊張をしているみたいだ。顔が少し強張っていた。


「転校生を紹介する」


 そういって先生は名前を黒板に書いた。


吉田(よしだ)鷹広(たかひろ)君だ」

「吉田鷹広です。よろしくお願いします」


 彼はぺこりと頭を下げた。


「あー、中途半端な時に紹介することになったが、仲良くするように」

「せんせ~い、ほんと、中途半端すぎ~。なんで今日からなんですか」


 お調子者の男子が先生に質問をした。


「あー、榎本(えのもと)先生が参加したらどうかと……」

「先生、聞こえません。差し支えなければ教えてください」


 先生がぼそぼそと小声で答えていたら、別の男子が手をあげてから聞いた。


「吉田は夏休み前に転校手続きは済んでいて、一昨日学校に来た時に榎本先生が夏期講習に参加したらどうかと言ったんだ。校長に訊いたら、もううちの学校に籍がある事だから、参加するのはおかしくないってことになって、ここにいるわけだ」


 望月先生は苦笑を浮かべながら言った。


「へえ~」

「他はいいな。じゃあ、吉田、一番後ろの高槻(たかつき)の隣に座ってくれ」

「はい」


 先生の言葉に彼は私のほうを見た。その顔がホッとしたように緩んだのが見えた。

 彼が歩いていくのを、みんなが目で追っていた。

 彼が席に座ると、みんなは前に視線を向けた。

 それを見て、私は小声で彼に話しかけた。


「視線が痛いっしょ」

「うん。なんで?」

「噂がね」

「噂?」

「うん。まあ、後でね」


 SHRが終わるとクラスの何人かが、彼の周りに集まってきた。

 というか、全員女子だったけど。


「ねえ、吉田君。どこから来たの」

「隣の県だよ」

「ねえ、何で夏休み前に転校してきたの」

「うちの学校は前の週に終わっていたから」

「ええ~、いいな。夏休みが早いなんて」

「でも、2学期が始まるのも早かったはずだけど」

「なあ~んだ。そうなんだね」

「ねえ、由真と家が隣なんですって」

「まあ、偶然ね」

「今日も一緒に来たんでしょ」

「……まあね」

「ねえ、今度この辺案内してあげるから、一緒に出掛けない」

「……いや、特に困ってないから」

「いいでしょ。案内してあげるよ」

「必要ないから」

「ちょっと、何それ。案内してあげるっていってるじゃん」


 彼は困ったように周りを見た。

 女の子達は自分たちは正しいことをしていると思っているのだろう。

 彼の都合などを考慮していない言葉に、私は口を挟もうとした。

 そうしたら、先に路香が口を挟んだ。


「そんな、突然言ったって困らせるだけよ。吉田君にも都合があるでしょ」

「でも、路香」

「でもじゃないでしょ。それより、もうチャイムが鳴るから席に戻った方がいいよ」


 路香の言葉に彼を囲んだ女子達は渋々席に戻っていった。

 女子達が彼の周りからいなくなると、彼の前の席の男子が話しかけた。


「俺は、沢渡(さわたり)和馬(かずま)って言うんだ。よろしく」

「よろしく」

「吉田と高槻っていつから話すようになったんだい」

「え~と、いつ……からだっけ?」


 沢渡は邪気の無い目を彼に向けている。

 答えようとした彼は、視線をさまよわせてから、目線で私に訊いてきた。


「えっと、一昨日が……あれで……3日前?」

「ああ、うん、そうだね。3日前だね」


 彼も記憶を辿れたみたいで、頷きながら言った。


「あれ。引っ越してきたのは、終業日前だろ。引っ越しのあいさつで知り合ったんじゃねぇの」

「沢渡、忘れてるようだけど、私はその前の金曜に早退して、すぐに九州に行ったんだからね。彼が引っ越してきた時には、居なかったんだから」

「そういえばそうか。じゃあ、どうやって、って、愚問か」

「そうね」

「隣の部屋なら顔を合わすよな」


 沢渡は納得したのか、一人頷いていた。

 それを私と彼は見ながら、チラリとお互いに目を向けた。


「そうだ、沢渡君。訊きたいことがあるんだけどいいかな」

「俺? いいけど、何?」

「この学校ってなんで夏期講習なんてあるの?」

「高槻に訊いてないの?」


 不思議そうな顔で沢渡は私のことを見てきた。


「訊いてないよ。今、はじめて思ったんだ」

「そっか。まあ、普通の公立中学で夏期講習なんてものがあればおかしくおもうよな」

「ここって進学校じゃないよね」

「そう、普通の公立中学校」

「じゃあ、なんで」

「日数調整のため」

「はっ?」

「高槻、任せた」


 良い感じで沢渡が説明していたと思ったら、急に丸投げされてしまったのだった。


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