1 図書館で 前編
短編 図書館で を連載にしました。
2019/1/10改稿しました。
それに伴い、タイトルも変更いたしました。
2話以降は削除の上、投稿をし直します。
前後編に分かれたので、本日は2話目も投稿いたします。
暑い日差しを避けることができる図書館の中に入って、私こと高槻由真はホッと息を吐いた。
図書館の中はクーラーが効いていて、暑い中を歩いてきた身体にはとても心地いい。
借りていた本を返却したあと、いつものようにテーブル席へと向かう。
(あっ、いた)
テーブル席に座っている、彼を見つけた。
これで、彼を見かけるのは3回目だ。
私がこの図書館にはじめて来た時に、彼を見つけたのは偶然だった。
お腹の大きな女性が2歳くらいの男の子と図書館に来ていて、その女性がカウンターで本の貸し借りの手続きで目を離した隙に、どこかに走り出そうとした男の子を捕まえていたのだ。
捕まえたというと語弊があるけど、男の子に話しかけて気を引いていたことは確かだ。
最初は男の子の兄かと思ってみていたけど、女性が手続きを終えて彼のそばに行き、頭を下げてお礼を言っているのを見て、勘違いに気がついた。
その後、彼はテーブル席の空いているところに座り、筆記用具を取り出して勉強を始めた。
それから私は図書館に来ると、何故か彼を探してしまう。
といっても、まだこの図書館に通うようになって3日目だけど。
なんで気になるのかわからないまま、私は二つ離れたテーブルの空いていた席に座り、今日も参考書を広げたのだった。
いつものように2時間ほど受験勉強をし、終わると本を借りるために本棚へと向かった。
借りたい本が見つかりカウンターに向かうと、カウンターのところに彼がいた。
そばに近づくと話している声が聞こえてきた。
「図書館カードの落とし物です。テーブルの下に落ちていました。名前は……たかつき? かな。名前のほうは、よしまさです」
「違います。たかつきゆまです。そのカードは私のだと思います」
私は驚いた。カードを落としたことに気が付かなかったこともだけど、名前を読み間違えられたことに。
それから、自覚する前に言葉が滑り出たことにも。
「君のなの?」
彼が私の方を向いて、訊いてきた。私が頷くとカードを差し出してくれた。
「待ってください。何か身分証みたいな物を持っていますか」
図書館員の女性が聞いてきた。本人確認ということだろう。
「学生証でいいですか」
私は学生証を鞄の中から取り出した。彼も促されて手に持った図書館カードを渡した。女性は端末を操作して、何やら確認をしたみたい。
「はい。確認しました」
そう言って女性はカードをカウンターに置いた。それから私の手元に視線を向け訊いてきた。
「そちらは借りる本ですか」
「はい、そうです」
「では、少し待ってくださいね」
女性は本を受け取ると、カードと本のバーコードを読み取り、貸し出しの手続きをしてくれた。
「はい、いいですよ。返去日を間違えないでくださいね。それから、今度はカードを落とさないように気を付けてください」
「はい」
カードと本と貸し出し票を受け取り、鞄にしまう。それから私は向きを変えて歩き出そうとして、立ち停まった。
少し離れたところに彼はいた。私は深く息を吸い吐いてから、彼に近寄った。
「カードを拾ってくれてありがとう」
「いや、たまたま目に入っただけだよ」
「何かお礼を」
「カードを拾ったくらいでお礼なんていいよ」
「でも・・・」
私の言葉に彼は、何か思案するように顎の下に右手を当てた。
「じゃあ、喉が渇いたから何か飲まない」
「はぁ?」
「ジュースでも買ってあそこで」
彼が指さした先は飲食ができるスペース。この図書館には喫茶スペースが併設されていて、持ち込みもOKだったりする。
「もしかして時間無い?」
「あ、大丈夫です」
「じゃあ、ちょっとだけ付き合って」
軽い調子で言われたので、戸惑ってしまった。それぞれ自動販売機で飲みものを買って席に着く。お礼として彼の分を払おうとしたけど断られてしまった。彼はプルタブをあけると、ゴクゴクとコーヒーを美味しそうに飲んだ。
(ほんとうに喉が渇いていたんだ)
一気に飲み干してしまいそうな勢いの彼に、私は紅茶を手に持ったまま驚きの目を向けていた。飲み終わり、ジッとみられていたことに気がついた彼は、若干気まずそうに話しだした。
「悪いね。引き留めるようなことをして」
「あ、いえ。でも、お礼が」
「あー、お礼は話に付き合ってもらうことで、チャラにね」
「はぁー」
「実は聞きたいことというか、教えてもらいたいことがあるんだ」
彼はテーブル越しに身を乗り出してきた。
彼の最初の印象は軽くは見えなかったから、結局彼もナンパ男かとちょっと幻滅した。
「なんでしょうか」
私は少し引き気味に愛想笑いを浮かべた。
「あのさ、引っ越してきたばっかりで全然この辺のことを知らないんだ。良ければ教えてくれない」
「へっ?」
おもわず、変な声が出てしまった。
恥ずかしい、勘違いだ。
(やばいな~、自意識過剰は直さないと)
黙ってしまった私に慌てたように彼が言い出した。
「ごめん。もしかしてナンパと間違えた。ここに来るようになってから、何度か君を見かけたし、もしかしたら同い年くらいかなと思ったんだ。知り合いになれたらいいなと思っていたし、これはいいチャンスだと思ってさ。ちょっと強引だったのは認めるから、仲良くしてくれないかな」
読んでいただきまして、ありがとうございます。
この話は出来うる限り、週1ペースで投稿したいとおもっています。
よろしくお願いいたします。