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手紙が届いたようです

唐突だが君は自分の住んでいる世界とは別の世界――異世界を信じるだろうか。

鏡写しの世界――それとも異人種が存在する世界? 

異世界と聞けば想像する世界は人それぞれ。

異世界なんて妄想の産物だと。都市伝説だと鼻で笑い、異世界の存在を否定するものもいるだろう。

けれど。

本当に異世界が存在しているとしたら?

パラレルワールドが存在していて。そこには自分の姿にそっくりな人物がいて。

アニメやゲームで見るような耳の尖った種族や獣耳が生えた少女がいるとしたら。

楽園だと叫ぶものもいるだろう。気味悪がるものもいるだろう。

所詮は妄想だと笑われるのが一般的だ。

今、若者たちの間で囁かれている都市伝説がある。


『突然家の中に宛先差出人不明の手紙が置かれている』

『その手紙は異世界から贈りものである』

『手紙を開封するとどこか別の場所に飛ばされる』


などと手紙に関する都市伝説が出回っている。

都市伝説は所詮、人の願望から生み出された、根拠のない噂話である。

噂話が一人で出歩き誇張されて広まるなどよく起こることである。

都市伝説はそうやって作られた。

けれど、都市伝説が全て存在しているならば?

人面犬がのを走り。道端であたし綺麗?と問いかけられ。ベッドの下に刃物を持った男が隠れていたり。

そんなことはありえない。

ありえないことはありえないのだ。

空想が、妄想が現実を浸食することはありえない。いくら願っても叶わないことは叶わない。

そう、現実は現実リアルで空想は空想イメージなのだから。


けれど、もし――異世界が存在するならば君は望むだろうか。

現実における――友人を家族を財産を世界を全てを捨ててまでも異世界を望む価値はあるのだろうか。

もしいかなる代償を払う覚悟があるならば――








     

      ★☆★☆★☆






時刻は午後四時。

本来ならばまだ陽の光が照らしているのだが、薄暗い部屋に少女はいた。

陽の光を遮るように占められたカーテ。暗い部屋に浮かんでいる幾つものディスプレイ。床を這いずりまわるように繋がれている配線コード。山のように積まれているゲームのパッケージ。

そこに少女は佇んでいた。

少女の名前は東雲しののめ 白羽しろは

年齢は十三歳。引きこもり・コミュニケーション障害・いじめられっ子。

社会不適合者である。

彼女の妖しく光る金の瞳はとある一つのディスプレイに向けられている。


「……眠い」


白羽の視線が向けられているディスプレイには将棋盤――それも36×36マスに区切られている大局将棋の盤面が映し出されていた。

局面は終盤――一方的な試合だ。かたや402枚の駒殆どを失っておらず、かたや402枚の駒の殆どを失っていた。

誰もが声を揃えて言うだろう彼女――白羽の勝利であると。

コンピューターのプログラムは常に最善手を打とうとするが彼女にはまるで相手になっていない。

行動パターンを完全に把握していれば負けることはない。理論上は可能であるが一体何人の人間が実行可能なのか。

それほどまでに東雲 白羽と呼ばれている少女は天才なのだ。

白羽が最後の一手を打つと同時に、暗く閉ざされていた部屋に眩い光が差し込む。

「白羽ぁぁぁぁぁああ!!兄ちゃんを慰めてくれぇぇぇえ!!」

1つの影が白羽を押さえ込むように覆いかぶさる。


「にぃに……おかえ、り……」


それに動じることなく、飛び込んできた影を愛おしそうに抱きしめる。

白羽に『にぃに』と呼ばれた人物は東雲しののめ くろ


「白羽ー……聞いてくれよ……兄ちゃんなぁ……」


年齢は十八歳。友達なし・元ひきこもり。元社会不適合者である。

黒の胸に顔をうずめている妹を愛おしそうに抱きしめる。

その様子はまるで――


「うんうん……だいじょうぶだ、よ」

「あぁ……こんなクソゲーやめてしまいたいよ」

「ダメ……一人はい、や」


落ち込んだ表情を見せる黒に。

ぎゅっと、黒の胸に顔を埋めたまま、抱きつく力を強めて、言う。


「ん……元気で、た?」

「うむ、妹成分補充完了しましたことよ」

「なら……にぃに……ゲームし、よ」

「おう、いつものやつな」

「う、ん」

 

どこからともなく携帯ゲーム機を取り出す兄妹。

抱き合ったままではゲームができないと判断したのか一度離れ、黒の膝に白羽が座る。


「にぃに……タブレットPCに新作のゲームの広告きて、た」

「あいよー。あとでチェックを入れとくわ」


薄暗い部屋にポチポチ、とボタンを押す音が鳴り響く。

それ以降二人の間に会話はなく、それであってもお互い言いたいことはわかってると言わんばかりの二人の兄妹を幾つものディスプレイが照らしていた。






      ★☆★☆★☆



「ちょっ……死ぬ死ぬ死ぬ!早くヘルプヘルプ!」

「……足で操作は……むりがあっ、た」

「いいから早くって――つかずるいぞ、妹よ。こっちは夜飯まだってのになに優雅にカップ麺食べてんだの、しかも戦闘中に!」

「……にぃにも…食べ、る?」

「んー今はいらね。つか、早く助けろって!」

「……無理。今は…手が離せな、い」

「だー早く食えよ……ってか今何時?」

「まだ……夜の1、時」

「世間一般では夜中の1時をまだ、って言わないぞ、妹よ」


と、ネットゲームに興じる兄妹。

同じ部屋の中にいるのに視線も合わせずに会話する二人。

部屋は十八畳程度だろうか。中々に広い。

だが、無数のゲーム機や複雑に散乱したコード、はたまたは開封されたゲームパッケージに占領されたそこに、本来の広さは見受けられない。

最先端技術のLEDディスプレイが放つ淡い光と遮光カーテンから落ちる月の光が照らす部屋で二人は生活している。


「……」

「……」


以後二人の間に会話が交わされることはない。





      ★☆★☆★☆




定型文だが一つ。

『こんな噂を聞いたことはあるだろうか?』と。


ある日突然、家に差出人不明の手紙が一通届くという。

その手紙は文字通り、『突然』届く。郵便受けに入っているわけでもなく、手紙自身が移動したと言わんばかりに突然現れる。

その手紙を開封したものは――




      ★☆★☆★☆

「もぅ……む、り。ちょっと…ね、る」

「ちょ、待て!お前に今落られたら回復担当が――」

「……にぃにが二つ操作…すればい、い」

「そうですね!両手両足で操作すればできますね――ってそれは死んじゃう!俺が主に!」

「……がんばって」

「待って!本当にお前が落ちると俺が死んじゃう――キャラも現実リアルも!」

「……すぅ」

「うぉぉぉぉおおお!やったろーじゃないか!!」


何やら覚悟を決めた兄を他所に、兄の膝を枕にして寝ようとする妹の目の前に。

――パサッと。

突然、空中から手紙が舞い落ちる。


「にぃに……てが、み」

「両手両足でキャラを操作している兄ちゃんに何を要求しているのかしらんが、むりだ!」


両手両足で携帯ゲーム機二台を器用を操作し。

二人のキャラを操作し、獅子奮迅の活躍を見せる兄は余裕なさげに答える。


「どうせ宗教勧誘とか手紙だろ、ほっとけ!」

「……友達から…か、も」

「友達?誰のだよ」

「……にぃに、の」

「はは、おかしいな。愛しの妹から心を豪快に削り取る口擊をくらったぞー」

「私のって……いわないことを……察してほし、い」

「じゃあ、やっぱ勧誘の手紙だろ――うおッ死ぬ死ぬ!」


白羽の兄―黒には彼女はおろか友人すらいないいわゆるぼっちに届く手紙候補に妹以外のカテゴリーが存在する訳もなく、その説は却下される。

もっとも、それは妹――白羽も同じことだったが。


「ぐおぉぉ足攣りそ」

「……この手紙…上から落ち、てきたけど……にぃにのじゃない、の?」

「だーからー知らないって言ってるだろ?ってか、寝ないならて伝えって!」


苦悶に喘ぐ兄を無視して、目の前に落ちてきた手紙を掴んで見つめる白――浮かび上がる疑問。

白の頭上には手紙を置けるような台のようなものはない。

それなのに、この手紙は頭上から落ちてきた。

――一体どこから?


「……あ」


何かを思い出したかのように、パソコンに向き直る白。

どうやら、本当に一人2キャラを操って、討伐に成功したらしき兄の勝利の咆哮を背景に『都市伝説』と検索をかける。


「……あった」


画面に映し出されている『差出人不明の手紙』について。

それは、最近になって有名になった都市伝説であり、内容は至ってシンプルなものだった。

『差出人不明の手紙が突然家に届く』

ただ、それだけだった。


「……にぃ、に」

「なんだい?兄ちゃんに物理的な意味での縛りプレイを要求した鬼畜な妹よ」


兄の皮肉めいた言葉が聞こえてないのか、パソコンのディスプレイを兄に見せる。


「うん?それ、今有名になってるやつじゃん」

「にぃに……どうおも、う?」

「都市伝説なんて所詮は伝説だろ――気になるならその手紙を開けてみるといい」

「……うん」


黒の言葉を聞いて白羽が手紙を開けようとするが。


「……うぬぬぬ」


――開かない。

引きこもりの白羽の力があまりにも弱すぎるわけではなく、まるで開けられることを拒んでいる封筒を開けることができない。

その様子に見かねた黒が。


「白羽、兄ちゃんに貸してみろ」

「……は、い」


白羽から手紙を受け取り開封しようと試みる。

すると、先程までかたくなに拒んでいたはずの封筒がいとも簡単に開けられる。

まるで黒に開けられることを望んでいたかのように。


「……なんだよこれ」


手紙の内容を見た黒が表情を歪める。

問題は開かない封筒にもあったが、本文が異常だった。

本文には。

ただ一言、書かれていた。


【悩み多き異彩の少年少女に告げる。その彩を試すことを望むのならば友人を、家族を、財産を、世界の全てを捨て――我らの箱庭に来られたし】


少し、いやかなり奇妙な文面だ。

そして最後に見たことのない文字の羅列。

ぱっと見た感じ規則性が見られるので適当ではないことは確かだろう。


「……いたず、ら?」

「いたずらにしちゃ力を入れすぎだろ――ま、いたずらだろうけど」

「ふぁふ……おやす、み」

「ちょちょ、待て――ん?」


黒が再び手紙に視線を移すと先程まで書かれていたはずのものが全て消えている。

そして、再びこう記される。


【さぁ君たちの人生はこれからだ】


手紙に文字が浮き上がるのと同時、ブレーカーが落ちたのか部屋が暗闇に包まれる。

そして――


「な、なんだ!?」

「……ッ」


刹那――

部屋全体にノイズが走る。

家が軋むような音、放電をするようなはじける音。

慌てて周りを見渡す兄と何が起こっているか分からずに呆ける妹。

そんな二人を他所に、ノイズはだんだんと激しくなり。

ついには、テレビの砂嵐のように。

そしてどこからか。

いや――間違いない。

手紙から音声が帰ってきた。


『そう、不貞腐れる事はない。君たち二人の人生は始まったばかりだ。今日ここで生まれ変わる――』


そして。

白く染まる視界。

視界を白く染めている原因が陽の光だと理解するまで時間を要し。

光になれつつある瞳に飛び込んだ景色で黒は理解する。

そこは上空だった。


「うぉおおおおお!」


狭い部屋から突然一気に広がった広大な空間。

そして、視界に広がった景色の異常さ。

――何度見ても島が空に浮かんでいる。

――何度目をこすっても、頭を振っても空を飛んでいるのはドラゴンで。

どこかのゲームや小説に登場しそうなファンタジーの世界。

どう考えても地球の景色ではなく。

けれど、それよりも。

体を包む謎の浮遊感が、落下によるものだと気づき絶叫が。


「あ、死ぬんじゃねこれ」


という確信に変わるまで時間を要さなかった。

黒に遅れること10秒程度だろうか。

ようやく事を理解した白羽が涙を浮かべ、今にも涙腺が決壊しそうな表情で兄に抱きつき。


「……にぃ、に」


精一杯の、囁くような声で兄の名を呼ぶ白羽。

しかし、兄に返答をする、なんて余裕はなかった。


「これどうすんだよ!って地面が迫って――」


恐らく意味はないことがわかっているが白羽の手を包み込むように自分を下にする。

そして、声にならない声で悲鳴を上げる白羽。


――――そうして二人の意識は闇へと飲まれた。




―――――…………

――………


「…う、うーん………」


土の匂い――目を覚ますと黒は地面に倒れていた。

うめきながら体を起こす黒。


「な、なんだったんだありゃ……」


――夢にしちゃ出来すぎだ。

そう思いながらあえて口にしない黒。


「ん…ゆ、め……?」


黒に遅れて起き上がる白羽。

――フラグを立てないでおくれ。

そう思いながら立ち上がる黒だがとあることに気づく。


「うをおおお!」


自分が崖っぷちにたっていたことに気づいて慌てて後ずさる黒。

崖から見える景色を一望する。


そこにはありえない風景が広がっていた。

空に浮かんでいる島、その周りを飛んでいる龍。

先ほど落下するときに見た景色そのものだった。

――つまり夢などではない。


「な、妹よ」

「……な、に?」

「人生なんてやめてしまいたいと何度か思ったが」

「……う、ん」


兄弟の片割れ、黒の絶叫が響き渡る。


「な、なんなんだよこれはぁぁぁぁああ!!」


そうして二人の意識は再び闇に飲まれた。





      ★☆★☆★☆





『こんな噂を聞いたことはあるだろうか?』


――悩みを抱えた者のもとに一通のメールが届くという。

手紙には短い本文と――見慣れない文字が書かれているだけ。

そしてその手紙を開封してしまうと――別の世界に連れて行かれるという。




異世界に誘われる――『都市伝説(つくりばなし)



 

あなたは信じますか?信じませんか?



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