誰にだって悩みはある
「山田さん。
また伝票間違ってますよ」
金曜日の18:00。
そろそろ退社しようかと
パソコンを閉じかけた山田貴章に、
パートの玉置華子が声をかけた。
「あっ。すみません・・・」
いそいそと立ち上がり、
斜め前席の玉置に近づく山田。
20代後半くらいだろうか。
白い肌に黒いロングヘアーの美人だ。
それもあって、距離を感じる。
「付箋貼ったとこ、直しておいていただけますか?
二重線引いて、訂正印押してくださいね。」
「はい・・・毎回すいません」
『「6」に丸』『税抜き額で記入』と
簡潔なメッセージの書かれた
薄黄色の小さな付箋が2枚貼られた伝票を受け取る。
「じゃぁ、すみませんけど、私はこれで」
玉置が帰った後
訂正した伝票を玉置の机に置いて
山田が今度こそ帰ろうとした時ー
「あ、きーちゃん。まだいたんだ。」
セーラー服の少女が、入ってくる。
「きーちゃんは止めてくれよ。桃香社長」
照れながら言った山田は、別に冗談を言ったわけではなく
そのセーラー服の中学2年生、松田桃香は
本当に『株式会社ドリームメイカー』の社長だった。
「名前に社長ってつけないよ」
「そっか」
言いながら、桃香は机のPCを立ち上げる。
夏の夕焼けが入り込みオレンジに染まった壁が
一部だけ、電子的な青に照らされる。
「何。今から仕事?」
「仕事っていうか。
メール見るくらいだけど。」