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翌朝。
目が覚めると目の前に温かくて柔らかいものがあった。無意識に顔を擦りつけて手でやわやわと揉む。揉みながら、顔をすりすりして懐いているとガシッと頭を掴まれた。
「……何してやがる」
「揉んでる」
軽く目の据わったケディに手で顔を押しのけられる。顔は離されたが、手はおっぱいから離さない。アーチャは一晩ですっかりでかいおっぱいの虜になっていた。
ケディが布団をガバッと剥いだ。
途端に体が冷気に襲われる。暖炉は完全に火が消えているようで、白息が出る。寒くて上半身を起こしたケディに擦りつく。
「風呂入って飯だ」
「今日はアンタが作ってよ」
「分かってら」
アーチャを跨いでケディがベッドから降りる。そのまま風呂場へと向かうケディを見送って、剥がされた布団をかけ直し、布団の中で丸まる。朝食を作り終えたケディに起こされるまで、ずっとうとうとしていた。
朝食を食べて風呂で温まると、ようやくシャッキリした。二日酔いにもなっていないクリアな頭で、ふと考える。
「なぁ、一週間休みだろ?」
「あぁ。不本意ながらな」
「何する?」
「酒飲んで寝る」
「以外は?」
「何もしねぇよ。外にも出られねぇしな」
「ふーん」
まぁアーチャも暇だし、酒に付き合うか、と自堕落な生活を送ることを決意する。
たまには良かろう。
ケディが早速台所から酒瓶をいくつも持ってきた。一応グラスも持ってきている。
アーチャは煙草をふかしながら、ケディからグラスを受け取った。ケディが瓶の口を開けて自分のグラスに酒を注ぐ。ついでにアーチャのグラスにも酒を注いでくれる。
「どうも」
「あぁ」
煙草を一度口から離してグラスに口をつける。そのまま香りのいいキツめの酒をちびちび飲む。ケディは一息で飲み干して、二杯目を注いでいた。
特に話すこともない。
二人は無言で昼過ぎまで、ひたすら酒を飲んだ。
ーーーーーー
昼食を干し肉とチーズで適当に済ませ、酒をだらだら飲んでいると、風呂場のドアが開く音がした。ひょっこり顔を出したヒューが室内に充満している酒と煙草の臭いに顔をしかめた。
「昼間から飲んでるんですか?」
「正確に言うと朝からだな」
「……それどうなの?」
「いいじゃねぇか。やることねぇし」
「たまには昼酒もいいよな」
「……はぁ」
ちびちび飲んでる中年二人を見て、ヒューが呆れたようにため息を吐いた。
ヒューが台所に向かい、自分用の水をコップに注いできた。今は椅子が二脚しかないため、立ったままコップに口をつける。
それをチラリと見上げると、ヒューが少々困った顔をしていた。
「ケディ。体調は?」
「特に問題ねぇよ」
「そう。あのド変態は監視つきで術の解除方法を開発させてるから」
「おう。一週間で出来なかったら、本当に切り落とすからな」
「いいんじゃない?」
「ふん」
ケディが鼻で息をして、グラスの酒を飲み干した。そして、また新たにグラスに酒を注ぐ。アーチャもちょうど飲み干したので、空のグラスを見せて追加の酒を催促する。
注いでくれた酒をまたちびちび舐める。朝からずっと飲んでいるから、いい加減酔いが回って眠くなってきた。
アーチャは大きく欠伸をすると、グラスの酒を一息で飲み干し、椅子から立ち上がってベッドに移動した。そのまま布団に潜り込む。室内は暖炉のお陰でそれなりに暖かいが、布団の中は冷えている。
「人間湯タンポの出番だ」
まだ酒を飲んでいるケディに声をかけると、怠そうに振り向いた。
「一人で寝てろよ」
「布団の中つめてぇんだよ」
「そのうち温もるだろ」
「今冷たい」
「……しょうがねぇな」
面倒くさそうに頭を掻くと、ケディが酒を飲み干して椅子から立ち上がった。そのまま、のそのそとベッドに近づき、布団をめくって潜り込んでくる。横になったケディの柔らかいおっぱいに顔を埋める。酒臭いがお互い様だ。
自由な中年二人にヒューがまたため息を吐いた。
「……ケディ。解除方法が見つかり次第、すぐ解除するからな」
「おうよ。当たり前だ」
「仕事の方はまぁなんとかするよ」
「頼んだ」
「……アーチャに不埒な真似するなよ」
ケディは布団から手を出して、ヒューに向かってヒラヒラと手を振った。それにまたため息を吐いて、ヒューは砦へと戻っていった。
「不埒な真似されたの俺じゃねぇか」
「なんのこと?」
おっぱいを揉みながら懐くアーチャを見下ろしてケディがぼやく。はぁ、と酒臭いため息を吐くと、いつものようにアーチャの腰に腕を回した。いつもより軽いそれに違和感を覚えながらアーチャはそのまま眠りについた。