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アーチャの叫び声が室内に響いた。
目の前のケディは煩そうに眉間に皺を寄せている。そんなケディをよくよく観察する。
髭はないし、輪郭とか顔の作りが若干女性的になっている気がするが、ぶっちゃけそんなに変わっていない。いかついオバサンって感じだ。
エロ小説とかにありがちな突然美女になったりはしていない。
顔から視線を下ろし、ぱつんぱつんにでかい乳を見る。
(でけぇ)
思わず目の前の乳を両手で鷲掴んだ。
ふにふに揉むと、柔らかい感触がかえってくる。そのまま無言でケディの股関をガッと鷲掴んだ。
「……なにしやがる」
ケディが額に青筋を浮かべて、アーチャの頭をがっちり片手で掴んだ。そのままギリギリ絞められる。
頭が痛いが、それどころではない。
……なかった。
混乱で頭が回らない。
今朝までは男だったはずだ。
なのに何故女の体になっているのだ。
「ア、ア、ア、アーチャさん……あの……」
おろおろした声を出すヒューに目を向けると、顔を赤くしたり青くしたりと忙しない。
横にいたバルトも同様である。ウィルも途方にくれた様な顔をしている。
ケディに踏まれている上に、無意識にアーチャも踏んでしまっていた変態だけが何故か嬉しそうである。
「……誰か説明」
絞められているからだけではなく、頭が痛くなってきたアーチャは助けを求めた。
ーーーーーー
ヒューの話を纏めると次の通りだ。
・変態が自分を女体化・アーチャを男体化させる魔術を開発した。
・その実験中にたまたま部屋に来たケディにその魔術がかかった。
・解除の条件は今のところ異性と性交渉することだけである。
「……馬鹿なの?」
なんだそのエロ本の設定みたいなやつ。
いくら魔術の発展した国だからといって、やっていいことと悪いことがある。
思わずゴミを見る目で変態を見たら、嬉しそうに目を輝かせた。アーチャはそれから目を反らした。
「つーか、事情は分かったような、分からんような……まぁ微妙なとこだけど、どうすんのよ」
「……どうしましょう……」
ヒューが情けない声を出した。
当の本人は無言で眉間に皺を寄せたまま、未だに踏んでいる変態にぎりぎりと体重をかけている。ぐぇぇぇ、と蛙を潰したような呻き声が聞こえる。が、無視する。
「この街男娼とかいねーの?」
「探せばいるかもしれませんが……」
「じゃあ、探して一発ヤってくれば?」
「……ふざけんな」
ハスキーな低い声がケディから聞こえた。
額に青筋が立ったままだ。かなり恐ろしい形相である。
「でも現状、解除の条件それだけなんだろ?」
「誰が男とヤるかボケ」
「つーかよー、そもそもなんでこんな下らない魔術開発してたわけ?」
足元の変態を見下ろすと、嬉々として語りだした。
「そんなもの!アーチャと楽しむ為に決まっているだろう!道具で弄られるのも好きだが、どうせならアーチャのモノで!」
「ねーよ、そんなモノ」
「無いならつければいいだけの話だ」
「簡単に言うな変態。第一、何でアンタまで女になる予定だったわけ?」
「女の方が穴が多いじゃないか」
「最低」
「何でだ。それにお互いの解除の為という大義名分ができるだろう」
「馬鹿なの?ねぇ馬鹿なの?」
心底憐れんだ目で変態を見てしまった。
嬉々として語っていた変態は不思議そうな顔をしている。そんな顔するお前が不思議だわ。
「……明日までに別の解除方法を作らなかったら、てめぇのモノを切り落とす……」
ケディが地を這うような低い声で言った。足はギリギリと体重をかけ続けている。
「ふ、副団長に踏まれても、うれしくない……」
「あ?」
完全にキレている。
顔がヤバい。目の前に立っているアーチャの顔がひきつった。
「あ、あしたまで、とは、無理で、すよ」
踏まれて苦しいのか、とぎれとぎれに変態が応えた。その応えに更にケディが力を入れる。
「ぐぇぇぇ……」
「無理も糞もあるか。やれ」
「む、りで、す……せ、せめ、て、い、いっしゅう、かん……」
変態の顔色がかなりマズイことになっている。
ヒューに目配せすると、流石にヒューもマズイと思ったのかケディを止めた。
「ケ、ケディ……一旦変態から離れよう……あとアーチャさんからも手を離して」
ケディはヒューをチラリと見ると、大きく舌打ちしてアーチャの頭から手を離した。そして、一度大きく足をあげ変態を強く踏むと、一歩下がった。
「ケディ。一週間だけ待とう。それで出来なかったら去勢なりなんなりしていいから」
「……ちっ」
ヒューの言葉に舌打ちで返したケディは不機嫌そうに頭を掻いた。
アーチャはそんな彼らを見ながら、腹筋に力を入れていた。
俯いて衝動に必死で耐える。
(なんだこの面白い状況!!)
アーチャはあまりの愉快な出来事に笑いだすのを必死でこらえた。