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変身

ガタガタと窓が揺れる音で目が覚めた。

隣からは髭熊の鼾が聞こえる。ベッドの中から窓を見上げると、暗くてよく分からないがどうやら吹雪いているようだ。


(あんま酷くならなきゃいいが)


雪があまり降ると雪降ろしが大変だし、そもそもこの古い家の耐久性が心配になる。

吹雪が過ぎたらケディに屋根の雪降ろしをさせることを決意して、ベッドから出る。

途端に冷たい空気に襲われた。白息を吐きながら冷えきった室内を横切り、暖炉に火を起こす。火が起きたら、無造作に薪を放り込んで火を大きくした。

椅子に掛けておいたショールを羽織り、暖炉の火に手をかざす。

じんわりと温かいが、室内全体が暖まるまでもう暫くかかりそうだ。

テーブルの上に置いておいた煙草を取り、火のついた薪を使って煙草に火をつける。

深く吸い込み、細く長く煙を吐き出した。

今日の朝食担当はケディである。が、完全に目が覚めてしまったので、手持ち無沙汰だし、作ろうか悩む。

煙草を吸いきるまで考えて、アーチャは立ち上がった。


チェストから厚手のワンピースを取り出して、寝巻きから着替える。寝巻きの洗濯は今日はいいだろう。暖炉を一日中つけているとはいえ、今日は洗濯物が乾く気がしない。

寝巻きを適当に畳んでチェストの上に置いた。


髭熊の鼾を聞きながら台所へ向かい、冷たい水で顔を洗う。暖炉の前で少し温まった体がまた一気に冷える。

少し寒さに震えながら、何はともあれお湯を沸かそうと、鍋に水を入れて火にかける。

今朝は干し肉と芋のスープでいいだろう。確かベーコンと卵があったから、ケディにはそれを焼けばいい。

冷たい手を動かして手早く下拵えをし、簡単な朝食を作っていく。

料理が出来上がって部屋に戻ると、だいぶ室内が暖まっていた。髭熊は相も変わらず鼾をかいて眠っている。


アーチャは水仕事で冷えきった手を無言でケディの首に当てた。

瞬間、ビクッとしたケディが目を開けた。



「……何しやがる」


「朝飯」


「もうちょい、まともに起こせよ」


「めんどい」



ケディが頭を掻きながら起き上がった。

アーチャは再び寒い台所に戻り、お盆に皿をのせてテーブルに運び、皿を並べた後はお茶を入れた。アーチャが動いている間に顔を洗っていたケディが戻ってきた。

食事のセッティングも終わったことだし、椅子に座る。

祈りを捧げるケディを待つことなく、アーチャは先に食べ始めた。熱いスープが体に沁みる。



「今日、私が作ったから、明日はアンタね」


「おう」



祈りを終えたケディも食べ始める。粗野な外見からは想像できない程、食べ方だけは上品だ。

早々と食べ終わったアーチャはその様子をなんとなく眺めてた。



片付けをケディに任せて、アーチャは暖炉の前を陣取って本を読み始めた。もう何度も読んでいるから内容は完全に頭に入っているが、本を読む以外することがない。

惰眠を貪るのもアリかもしれないが、今はそんな気分じゃない。



「行ってくる」


「んー」



身支度を整えたケディがアーチャに一声かけて風呂場の方へ向かっていくのを、生返事で返す。パタンと風呂場からドアを閉める音がしたから今日は風呂場からの出勤なのだろう。

外は吹雪だし、当然と言えば当然である。

アーチャはそのまま昼食まで暖炉の前で本を読んでいた。











ーーーーーー


適当に昼食を食べて片付け、暖炉の前で一服していた時の事である。

バタンっと大きな音がして、急ぎ足と思われる足音が部屋に響いた。

何事かと思って、音のする方を見ると、慌てた様子のウィルがいた。



「アーチャさん!大変です!」


「なにが?」


「兎に角来て下さい!」



暖炉の前に座るアーチャに近づくと、ウィルは急かすようにアーチャの腕を取り、立ち上がらせた。


(なんなんだ?)


疑問に思うが、焦った様子のウィルは無言でアーチャの腕を引いて風呂場へと向かう。

それに着いていくしかないアーチャは半ば引きずられるようにウィルと移動し、気づけばヒューの執務室にいた。


そこには頭を抱えたヒューとバルト、何故か縛られて右頬が腫れている変態、後ろ姿だがケディの姿があった。室内の空気は何故か重い。



「何事ー?」



とりあえず、ゆるーく声をかけた。

部屋にいた全員がアーチャを見た。変態は嬉しそうに全身縛られた状態でうねうねと気持ち悪く動き、アーチャに近づこうとした。

その変態の背を無言でケディが踏んだ。



「で、どうしたのよ」



再び声をかけると、ヒューが青い顔で口を開いた。



「あの……ですね……」


「うん」


「……その……ですね……」


「うん」



言うか言わまいか躊躇しているヒューに若干イラッとする。言いたいことがあるなら早く言え。



「実は……ケディが女になりました……」


「………………」


「………………」


「………………は?」



あり得ない発言に一瞬、何を言ったか理解できなかった。信じられない思いでこちらに背を向けるケディを見る。

普段と変わらないように見せかけて、服が若干だぼついている気がする。背も多分だけど低くなっているし、体も丸みを帯びている気がする。

アーチャは無言で変態を踏むケディの正面に立った。



……髭がない。胸元が膨らんでいる。




「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」



アーチャは腹の底から叫んだ。


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