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やっちまった。


それだけがアーチャの頭のなかを占めていた。

ベットの中で恐る恐る振り返ると、むさ苦しい、もっさりと生えた胸毛が見えた。そこから目線をあげると、鼾をかいて眠る髭熊もといケディの顔があった。


慌ててもぞもぞと毛布の中で着衣を確認しようとする。


全裸だった。


おまけに、あんなところに違和感がある。


(マジかよぉぉ!!)


アーチャは二日酔いでガンガン痛む頭を抱えた。







ーーーーーー


暫く、ベットの中で頭を抱えて唸っていたが、そんなことしていても仕方がないと、アーチャは動き出した。

ベットの下に落ちている服を適当に掴み、裸の上からシャツだけ着て、凍えるように寒い部屋を突っ切って風呂場へと向かった。


そのまま熱いシャワーを浴びた。

シャワーを浴びながら、痕がついてないか確認する。幸い、痕はついていなかった。しかし、股の間からアレが流れ出ていた。思わず舌打ちする。

身体をよく洗い、しっかり温もってから、タオルを巻いて、風呂場を後にした。


部屋に戻ると、髭熊の鼾が聞こえた。

それを無視して、手早く服に着替え、火が消えていた暖炉に火を入れた。火が起こると、続けて何本も薪を放り込み、火を強めた。


台所に行き、冷たい水をちびりちびりと飲む。窓の外を見れば、雪がちらついている。アーチャは部屋に戻ると、チェストの中から厚めのストールを取り出し、肩に羽織った。


(さて、どうしたもんか)


アーチャは部屋の中央で腰に手をあて、暫し悩んだ。

そしておもむろにベットに眠る髭熊にエルボーをかました。



「げふっ」



我ながら体重ののったいいエルボーである。見事に髭熊の鳩尾に入ったようだ。

内心、自画自賛しながら、噎せる髭熊を冷めた目で見た。



「おはようございます、この野郎」


「あぁ?んだ、いきなり……」



髭熊が起きて、現状を察した様である。



「あー……あぁ。やべっ」



髭熊が起き上がって、頭を掻いた。







ーーーーーー


事の起こりは昨夜である。

仕事を終え、帰っている途中、街外れで酒瓶を大量に抱えたケディと遭遇した。


報告等があるということで、家に招き入れ、そのまま2人で酒を飲みつつ話をすることになった。



「王都でもまだそんなに動きがねぇ。陛下側に事が発覚したら自分達の首が危ないからな。慎重にならざるをえないんだろう」


「まぁ、そらそうだろうな」


「冬の間は恐らく問題ない。王都からチュルガまで馬で1ヶ月半はかかる。途中、豪雪地帯もあるから、早々には来れんだろう」


「なるほど。そういや、ヒューを王にしようという動きはないわけ?アイツも一応王族だろう?」


「ヒューは王位継承権を放棄している。第一、ヒューは先代陛下の前妻の子だ。先代王妃の子ではないし、そもそも母親が平民だからな。仮に王位につくことがあっても反対派が多いだろうな」


「あ?そうなの?」


「あぁ。先代陛下自体、元々王位につかれるはずじゃなかったんだよ。兄君が2人いて、本人はディリア騎士団の団長をしていた。その時に、平民のヒューの母親を見初めて、周囲の反対を押しきり結婚した」


「へぇ」


「ただ、兄君2人が病気と事故で相次いで亡くなってな。王にならざるをえなかった。王は異世界からの花嫁と婚姻するのが慣例だから、ヒューの母親とはその時離婚したんだよ」


「本当、下らねぇ慣例だな」


「全くだ。まぁ、だからヒューはチュルガ生まれのチュルガ育ちなんだわ。本人も王位に興味はない。女無用の剣術一筋男だからな」


「だが、ボンクラ共に見切りをつける奴等は、例え剣術馬鹿でも比較的マシなヒューを放っておくか?」


「さぁな。それは俺にも分からん。そもそも陛下方の後見の貴族どもは陛下を傀儡にする気満々だからな。反陛下の連中はそれを良しとしない者達の集まりだ」


「ふぅん」



アーチャは相槌をうちながら、ケディが持ってきた酒を飲んだ。



「旨いな、これ」


「だろう?それなりに値が張るが旨いんだよ」



それからはあっという間に話題が酒に移り、酒にまつわる話をしながら、ケディが持ち込んだ酒を次々と飲み干した。


その後、何故かそういう雰囲気になり、気がつけば朝だった。


アーチャはシャワーを浴びて少しスッキリした頭で、無かったことにすることに決めた。責任をとってもらう程のことではない。単なる接触事故のようなものだ。


ケディにそう告げると、唸りながら、暫し考えていたが、『アンタがそう言うなら』と了承した。


ケディを風呂場に追いたて、アーチャは諸々のシミができているシーツをベットから引き剥がし、洗濯すべく外の洗い場に丸めて持ち込んだ。

洗濯場は風呂の裏に当たるので、ケディがシャワーを使う音を聞きながら、雪もちらつく寒いなか、洗剤をいつもより多目に入れて、ごっしごっしと力一杯シーツを洗った。


洗ったシーツを風呂場にまだいた全裸のケディに絞ってもらい、部屋干し用のロープにかけた。


そして、空になった酒瓶を一ヶ所にまとめ、テーブルの上を布巾で拭いた。


これで酒瓶をケディに持ち帰らせたら、証拠隠滅完了である。


アーチャは腰に手をやり、ふぅと満足げなため息を吐いた。





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