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ガディのあまり広くない店で、アーチャはテーブルの間をひたすら動き回っていた。

皆、寒いから早く家に帰りたくて、結果同じような時間に店に訪れるため、とても混むのだ。


外に出れば雪もちらついているというのに、アーチャはうっすら汗をかくくらい、動き回っていた。


目まぐるしく動いていると、常連の一人から声がかかった。



「アーチャ、客だぞ」


「はーい。いらっしゃいませー、ってアリアちゃん!?」


「こんばんは」



そこにはアリアがいた。

おっさんだらけの店内において、地味ながら可憐な彼女は浮いていた。酔っぱらいのおっさん達は美人が気になるのか、チラチラ彼女の方を見ている。



「アリアちゃん、こんばんは。ご飯は食べた?」


「まだです。ガディさん、でしたか。彼のご飯は美味しいと聞いてたので、食べてみたくって、思いきって来ちゃいました」



おずおずと、御迷惑でしたか?と伺ってくる彼女を笑い飛ばして、奥の席に案内した。



「何にする?今日のおすすめはカラン鳥のシチューだよ。お芋たっぷりの」


「それでお願いします」


「はーい。ちょっと待っててね」



笑顔で応え、踵を返してガディに注文を伝えに行く。



「シチュー、一つ!それから胡桃のパンとクインの実も」


「おう!」



然程待たずに料理を盛った皿が出てきた。それを両手に持ち、アリアの元へ向かう。



「はい!お待ち。パンとクインの実は私からのサービス」


「えっ!?あ、あの……悪いです、そんな、突然お邪魔したのに……」


「いいの。こんなおっさんだらけの場所に折角来てくれたんだもの。こんだけ野郎しかいなかったら、入るの勇気いったでしょ?その勇気を称えると共に来てくれたお礼って感じ?シチューもだけど、パンも美味しいのよ。食べきれなかったら持ち帰りにもできるから、是非食べてみてちょうだいな」



アーチャはニカッと笑った。

つられてアリアも控えめに笑った。



「では、いただきます。アーチャさん。ありがとうございます」


「いえ、こちらこそ。ごゆっくりどうぞ」


「はい」



スプーンを手に取るのを見ると、アーチャは再びテーブルの間を行き来した。

合間にアリアの所へ行って、軽く近況を話したりした。

店にもウィルの母親にも慣れ、毎日楽しく働いているそうだ。それが嘘や社交辞令でないことは、随分と明るくなった顔で分かった。

その事に安心した自分がいた。


アリアは全て食べきり、美味しかったと言って笑って帰っていった。

今度は一緒に酒でも飲もうか、なんて言って、笑顔で別れた。








ーーーーーー


アーチャは本日休みだった。

そして、心底憂鬱な日であった。


あの変態との面談日である。


(何も寒いなか、わざわざ来なくていいのに……)


肺の奥から振り絞る様な大きな溜め息が口から出た。


手持ちぶたさに煙草を吸っていると、ドアがノックされた。

アーチャはくわえ煙草のまま、億劫そうにドアを開けた。

なんとも耳障りな軋む音がした。


この雪もちらつく寒いなか、変態ことシャリー・フォレットが頗る上機嫌な、爽やかな笑顔でドアの前に立っていた。



「久しいな、ご主人様」


「それ止めてください。あと一月前にも会ってます」


「私は毎日会いたいのだが」


「……勘弁してください」



(いや、もうマジで)


早くもげんなりした気分になりつつも、彼を家の中に招き入れる。



「お茶と酒、どちらがいいですか?」


「ふむ……グラッパはあるか?」


「ありますよ、安物ですけど」


「では、それを」


「はいはい」



アーチャは貯蔵庫にグラッパというキツい蒸留酒を取りに行った。ついでに自分も飲もうと、グラスは2つとった。


アーチャの一部屋しかない部屋に戻ると、ベットの上で優雅に寛いでいる変態と目があった。

思わず溜め息が出た。



「はい、グラッパですよ」


「あぁ」



テーブルの上にグラスを置いて、無造作に酒を注ぎ込む。

グラッパ特有の粗っぽい果実のような香りが鼻を掠める。


一つを変態に手渡し、もう一つを手にとって椅子に座る。



「ふーん。本当に安物だな」


「質素な暮らししてますんで」



安物だと言った割に、さっさと飲み干しておかわりを要求してきたので、注いでやる。



「件の騎士団の件でかなり懐は暖かいのだろう?」


「まぁ、それなりに。とはいえ、いつまで働けるか分かりませんから、貯めとくに越したことはないでしょう……私も結構いい歳なんで」


「……そういえば、ご主人様はいくつだ?」


「41です」


「……すまない。よく聞こえなかったのだが」


「41です」


「……41だとっ!?」


「えぇ、まあ」


「冗談だろう!?……31の間違いだろう?」


「いや、本当に41です」


「ババァではないか!?」


「確かにババァですけど、人から言われると腹立つわー」


「私の母親と殆ど一緒ではないか!!」


「……ちなみに母君はおいくつで?」


「確か、今年で42歳だ」


「わー、本当にほぼ一緒だー」



アーチャはなんとも言えないしょっぱい気持ちになって、思わず遠い目をした。


41、嘘だろう……等とブツブツ呟いている変態を余所にアーチャも酒を飲み干した。

喉が焼けるようなキツい刺激がたまらない。


このまま、実年齢に引いて、さっさと諦めてくれないかなぁ、と思いながら、自分のグラスに酒を注ぎ足した。







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