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拘束されたシャリー・フォレットは、目の前の厳しい顔をした騎士団の面々に対し、飄々とした様子を崩さなかった。時折、アーチャの方へチラチラ視線をやる程度には余裕があった。
「シャリー・フォレット。誰の命令だ」
「そんなもの、貴方方とて察してらっしゃるでしょう?殿下ですよ、王太子殿下」
「命令の内容は?」
「ヒュルト・マクゴナル・トゥーラ騎士団総長、あ、今はディリア騎士団長でしたか。貴方の殺害です」
「……あの場で俺を殺すことは簡単だったはずだ。何故、殺さなかった」
「殺してはつまらないと思いまして。ついでに言うと、私は宮廷魔術師の端くれですからね。流石に貴方のご友人の魔術師長殿を敵には回したくない」
「だが、殿下の命を受けたのだろう?」
「そりゃ、近々王となられる方から命令されたら受けざるを得ないでしょう?」
「……俺をこのような姿にしたのは?」
「私はスカートまでは穿かせてませんよ?」
「……そこに触れるな。何故、子供の姿にしたのかと聞いている」
「新しく考えた魔術を試したかっただけです」
ふざけているのか、本気なのか、その飄々とした佇まいからは判断が難しかった。
「俺の殺害の命令は遂行できていないだろう?殿下のその後の命はどうなっている」
「同行した者が私以外皆死にましたからねぇ。不本意ながら、その旨を殿下にお伝えしましたよ。しなかったら私まで死んだものとして扱われるでしょうから。それは些か具合が悪い」
「殿下はなんと?」
「苛立っておいででしたよ。ただ、一先ず人前に出られない姿にしたとは報告しましたから、少しは溜飲も下がったご様子ではありましたね」
「……そうか」
シャリー・フォレットの証言により、血の半分繋がった弟であり、次期国王である男から命が狙われていることが確定した。
ヒューは幼い顔を苦々しくしかめた。
「国王陛下のご様子は何か聞いてあるか?」
「良くないということは耳にしてますね。近々王太子殿下の即位式が行われるそうで」
「そうか」
「実は貴方の殺害命令は継続中なのです」
室内が一気に殺気だった。
「しかし、ある条件を呑んでくださるなら、貴方方に危害を加えることはしないと約束しましょう。勿論、トゥーラ騎士団長にかけた魔術も解いて差し上げます」
「条件とはなんだ」
「一つはこちらの領地で私を保護してくださること。私も裏切り者や反逆者として殺されたくはありませんからね。もう一つは……」
そこで、シャリー・フォレットはアーチャの方を見た。
「アーチャを頂きます」
「駄目だっ!!」
「ざけんなっ!!」
ヒューと同時に叫び声を挙げた。
人前でなに言い出すんだ、この変態!
「一つ目の条件は兎も角、アーチャを貴様のような奴にやれるかっ!!」
「ふんっ。アーチャは私の、私だけのご主人様です。本来なら他人に許可をとる必要などない」
「ご、ご主人様だとっ!?」
「アンタまだそんなアホなこと言ってんの!?」
「私をこんな体にはしたのはアーチャだろう?責任はとってもらわねば困る」
そこで、全員がアーチャの方をみた。
アーチャの背にたらりと汗が流れた。
ヒューが恐る恐るアーチャに問いかけた。
「アーチャ。あの、どういうことですか……?」
「アーチャは私を新しい世界へと連れていってくれた素晴らしい私のご主人様だ。僕として、側に侍ることは当然のことだろう?」
変態が嬉々として語りだした。
お子様に聞かせられないような、赤裸々で破廉恥な内容をだらだらと垂れ流し始めたシャリー・フォレットを横目に、騎士団の者達はアーチャに何とも言えない視線を向けた。
アーチャは急速に頭が痛くなってきた。
(とりあえず誰かこの変態を黙らせてくれっ!!)




