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篤美が風呂から上がり、朝食を食べ終えたヒューが入れたお茶を飲みつつ、ぐったりしているところにウィルがやってきた。

濡れた風呂場を通ってきたからだろう。彼の背後の床には足跡が薄く残っていた。

ウィルは風呂場より続く廊下から篤美達がいる居間に足を踏み入れたとたん、鼻の頭に皺を寄せた。

ついでに未だに青い顔でお茶をすすっている篤美とアリアをみて、器用に片眉をあげた。



「おはようございます。とてつもなく酒臭いんですけど……」


「おはよう、ウィル。昨日凄かったから。本当凄かったから」


「この様子じゃ、そのようですね」



呆れたように、でもどこか面白がるようにウィルが笑った。

何か言おうにも、風呂上がりにも関わらず酒が殆ど抜けていない篤美に、そんな気力はなく、挨拶がわりに彼に力なく手を振った。



「来たところで悪いけど、あの人達に薬作ってくれないかな?」


「分かりました。あの様子じゃ、ちゃんと話ができるか、分かりませんしね。材料を取りに行くので、少々お待ちくださいな」


「うん。頼んだよ」



来たばかりのウィルが引き返していく。

アリアの方に視線をやると、彼女は青白い顔のまま、虚ろな目付きでお茶をちびりちびりと飲んでいた。







-------


それから小一時間経った頃にウィルが戻ってきた。

手にはどす黒い緑色の液体が並々と入った瓶を一本下げている。



「お待たせしました。僕の部屋の前でバーム先生に会いまして。彼も二日酔いで死に体だったものですから、ついでに医務室で作ってきました」



やけに楽しそうな笑顔で、瓶をヒューに渡した。

本人はコップを取ってくると、そのまま台所に消えた。



「これを飲んだら一発ですよ!……色んな意味で」



ヒューが瓶を抱えたまま、複雑そうな笑顔でぐったりしている女二人に話しかける。

コップを二つ手にして戻ってきたウィルにヒューが瓶を手渡す。と同時に自身の鼻をつまんで、窓際まで移動した。


ウィルが持ってきたコップに、どす黒い、どこまでもどす黒い緑色の液体を注いだ。

どろっとした液体が瓶から出てくるたびに強い刺激臭が部屋の中に満ちていく。

苦い様な、薬臭い様な、嗅いでいるだけで口の中に苦味を感じ、反射で唾液が出てくるような、ついでに目にツーンとくる、そんな臭いだ。

ドロドロのヘドロの様な不吉な色と臭いがする液体が並々と注がれたコップを手渡される。



「え、いや……これ、飲むの?」


「……目、目に沁みる……」


「我が家直伝の薬です。これを飲んだら二日酔いなんて一発で吹っ飛びますよ!」


「え、マジで飲むの?二日酔いどころか、なんか違うもんまで吹っ飛びそうなんだけど……大丈夫!?これ本当に飲んで大丈夫!?」



どう好意的に見ても、ヘドロか毒物にしか見えない。

篤美がただでさえ青い顔を困惑と耐えがたい臭気に歪めて、テーブルの側に立つウィルを仰ぎ見るが、彼はグッといけ、とばかりに、ものすごく爽やかな素敵な笑顔で無言でコップを傾ける動作をした。

アリアの方に視線をやると、青を通り越して白い顔をしており、涙目で無言で首を左右に小刻みに振っていた。彼女の涙が溜まった瞳は雄弁に語っていた。無理!これは無理!、と。

窓際のヒューは鼻をつまんだまま、気の毒そうにこちらを見ていた。


狭い室内に沈黙が続く。


顔を盛大に引き攣らせて、手の中のコップを見る。

ひたすらどす黒い嫌な色の緑色が眼球を色んな意味で刺激する。

思わず、ごくっと生唾を飲んだ。

近くに立つウィルから妙なプレッシャーを感じるのは気のせいだろうか。

否、気のせいではない。その証拠にアリアの視線がウィルと手の中のヘドロ的薬物を何度も往復している。



「大丈夫ですよ。実家でも騎士団でも二日酔いが出るたびにあげてますから。飲んでも死にはしませんよ。むしろすっきり爽快です」



ものすごくいい笑顔で促される。

思わずヒューに救いを求めて縋るように彼を見るが、申し訳なさそうに視線を反らされた。



素敵な笑顔のウィル。

気の毒そうな、申し訳なさそうな表情で鼻をつまんだまま窓際に立つヒュー。

白い顔で涙目のアリア。

同じく青白い顔で顔を引き攣らせている篤美。






篤美は二度と深酒をしないと誓った。



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