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しばらくヒューを中心に、お菓子だの洋服だの(別にお気に入りでもない、小道具用に悪ふざけで購入した)可愛いぬいぐるみの話をしていると徐々に彼女の顔が落ち着いてきた。

二杯目のお茶を飲み干す位には一生懸命お話しする小さな女の子(に見せかけた30間近の成人男性)に薄く微笑むくらいの余裕はできたようである。

何があったかは知らないが、中々に順応性が高いというか、あまり人見知りしない質なのか、はたまた非日常感に色々麻痺しちゃってるのか(目覚めていきなり砦にいるって分かったら、そりゃ誰でも呆然とするわな)、何にせよ結構なことである。

そろそろヒューの街で仕入れた女の子的な話題が尽きかけ、いい加減辛そうだ。さっきからちらちらこっちを見てくる。

見ていて面白いから華麗にスル―しているが。しかし何時までもヒューの道化っぷりを眺めているわけにもいくまい。話を進めるためにもヒューに助け船を出してやることにした。



「さてと……ヒュー。お茶のお代わりを持ってきてくれるかい?」


「はーい(た、助かった……!)」



助かったと言わんばかりに笑顔でバタバタとポットを持っていった。

幾分穏やかな顔になった彼女に目を向ける。



「騒がしくすまないね。全く誰に似たんだか、おしゃべりな子でね」


「……いえ……可愛らしいお孫さんですね」


「ありがと。そう言ってもらえるとあの子が喜ぶよ」



緊張を少しでもほぐすように笑顔を向けると、ぎこちなくではあるが微笑み返してくれた。笑うととても可愛らしい。

心中で若い女の子にきゅんきゅんしていると、ヒューが出たとき同様バタバタと戻ってきた。



「お茶、持って来たよ」


「ありがと」


「うん」



三杯目のお茶を入れる。夕飯もまだなのですきっ腹にお茶だけが溜まっていく。

なんとなく空腹を意識すると、ものすごくお腹が空いてきた。気を抜くと腹の音が鳴りそうだ。ウィルが夕飯を砦でだすと言っていたが、この状況じゃ難しかろう。

いっそ家に持ってきてもらって食べながら話した方がいいのではないだろうか。



「ねぇ、お腹すいてない?」


「あ……えっと……少し……」



唐突にそう聞くと、恥ずかしそうに俯いた。



「ん。じゃあ、少しだけ話したらご飯食べようか。私もお腹すいてるのよ。ご飯は人数多い方が楽しいし、付き合ってもらえたら嬉しいわ」


「あの……えっと……はい」



少しはにかみながら肯いてくれた。可愛い。顔がしまりなく緩むのが分かる。


(若い女の子はいいわねぇ。こっち来てから主にむさいおっさんか若造かおばちゃんくらいしか交流なかったし。かーわいいー)


断っておくが篤美は断じてそっちの人ではない。ただ女の子が好きなだけである。もちろん観照的な意味で。

集団の女の子は苦手であるが、単一の女の子は好きだ。女というものは往々にして群れると面倒なものである。特に中学・高校生時代のしょっぱい思い出から女の子の集団は軽くトラウマであったりもする。

どの女性も一度は経験したことがあるだろう。女同士故の付き合いの面倒くささを。女の子の集団の中で埋没しすぎることなく浮き過ぎることなく自らの立ち位置を維持することにどれだけ気を使うことか。

衣服や化粧などの流行をそこそこ押さえ、周囲の男性でよさげな子の把握や付き合っている子たちの把握。それを踏まえたうえで突出するでもなく遅れるでもなく周りに合わせる。

でなければ集団内の即異分子として排斥される。女同士故に即暴力に訴えることは少ないが、地味な精神的にくるねちねちとした嫌がらせが襲いかかってくる。

少なくとも篤美が過ごした学校はそんなところだった。

元々淡白で縛られたくない気質ではあるが、一日のほとんどをそこで過ごす学生時代はさすがに排斥対象にされた方が面倒なので、かなり気を使って日々を過ごしていた覚えがある。

大学に進学して、学部の男女比が男に傾いていたときは喝采を叫んだほどである。人づきあいが楽で仕方がなく、気の合う友人たちと連れ立って馬鹿なことばかりして少し遅い青春を謳歌したものだ。

話が些か逸れた気がするが、集団の女の子は苦手だ。嫌いともいっていい。しかし女の子は好きだ。

可愛いし、柔らかいし、いい匂いがするし。

こう並べると変態くさいが事実なのだから仕方あるまい。

久々の可愛い女の子に篤美の顔がだらしなく緩むのも仕方がないことなのである。




閑話休題





「じゃあ、名前と年齢を教えてもらえるかな?」


「あ、はい。アリア・バークレーです。えっと歳は21です」


「アリアさんね。いい名前だね」


「……ありがとうございます」



はにかみ笑い、かーわいいー。

内心萌え悶えながらそんなこと面に出さず話を続ける。



「お家はどちら?」


「タムリの布商です」


「タムリっていうと、チュルガのお隣の?」


「はい」


「あぁ、確かに貴女が倒れていた道はタムリにも繋がっているわね。……何があったか話せる?最近盗賊も出てるらしいし、場合によっては騎士団のお仕事になるみたいだから」


「……はい」



そういうと顔を曇らせ俯いた。

ふと彼女のカップを握る手を見ると軽く震えている。落ち着くように彼女の手をそっと握り優しく微笑んで見せる。

伏し目がちにこちらを見た彼女は意を決するようにひとつ深呼吸をした。



「……今日、私の結婚式だったんです」


「うん」


「夫になる人はすごくいい人で……本当に大好きだったんです」


「そう」


「……けど……」



アリアが泣くのを堪える様に唇を咬み、俯いた。



「……式の最中に他の人を愛してるってその人と一緒に出て行ってしまって……それがよりにもよって私の弟で……」



アリアの瞳から涙がこぼれ落ち、彼女と繋いだ手に落ちる。


(うーわー、泥沼。ていうか弟と彼氏ができてたとか……)



「……あ、たま真っ白になっちゃって……気づいたら森の近くを歩いてて……帰らなきゃって思ったけど……」



ぼろぼろと声もなく大粒の涙を流す。声をあげて泣き叫びたいだろうに、それを自分の身体の中に押し込めるように唇と噛み締めて涙だけをこぼす。

隣に座っていたヒューはなんと声をかけたらいいか分からないのだろう。狼狽したような顔をしていた。

篤美とて予想の斜め上をいく様な彼女の事情に何と声をかけたらよいか、分からなかった。

ただ、一人身を震わせて声もなく涙する彼女を見ていられなくて彼女の頭を抱える様に抱きしめた。

一瞬身体を固くしたアリアはすぐに身体から力を抜き、篤美にその身を預ける様に、静かに嗚咽を漏らした。






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