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すっぱーーんっと実にいい音が室内に響いた。



「だっ」


「いてぇっ!」


「あんたら喧しい」


「すいません……」


「おいおいだからって叩くこたぁ……あ、すいません」



若干薄い頭頂部を撫でながら医者が睨みつけてきたが、篤美が心底『お前ら馬鹿か?』といった目線で蔑みながら睨みつけたら大人しくなった。

篤美から目を反らして頭を撫でながら静かになった。若干額に汗を掻いているようだが気のせいだろう。そんなに痛くしてもいないのに……。

ヒューは少ししょぼんとしている。

ウィルは音が鳴らない様に拍手をし、ケディは相も変わらずニヤニヤしていた。



(なんだ、この微妙な空間)



面倒くせぇなぁ、と思いながら座っていた椅子に戻る。



「で、あの子の身体に問題ないことが分かったけどこれからどうすんの?このまま砦に置いとくの?その場合他の人間にバレんようにしなきゃいかんが」


「……そうですね。現状正規のルートから入ったわけじゃありませんし、バレたら面倒ですよね。でも事情を聴いて何らかの対応を行わなければなりませんし……」


「何にせよ彼女が目覚めてからですよね。いっそ、この人を抱えてもう一回正面から入り直すとか?」


「じゃあ、頼むわ」


「え、僕ですか?別にいいですけど、ここからどうやってまず見つからない様に外に出るんですか?」


「窓から降りて見つからんように塀を越えて正面に回る」


「無理です。僕の身一つならともかく、意識のない彼女を連れてじゃ無理です」


「んだよ、だらしねぇ」


「いやいやいやいや、どう考えても無理でしょ」


「ここアンタらの砦でしょ。融通利かせらんないわけ?」


「んー、こういうとこはうちの国、結構厳しいんですよね。ヒューのことは病気ってことで現状伏せることができてますが、こういう一般業務の類は色々手続きというか書類の段階があって、ヘタに小細工すると監査にばれるんですよね」


「発見者の聞き取り記述と騎士団長の承認印は問題ないとして、それを受ける管轄の奴がこの場にいないのが問題なんだよ」


「じゃあ、何故砦に連れてきたんだい」


「いや、つい……」


「思わぬ事態に気が動転してまして……」


「アンタら何目を反らしてんだ。うっかりか?うっかりなのか?」


「……すいません」


「おいお前らなぁ、今寝てる主な要因が疲労だぞ。いっそバルトに回復魔術かけさせて目覚めさせたらどうだ?」


「おいおい、そんな乱暴な……」


「医者の言う事じゃないですよ」


「それで目が覚めるなら別にいんじゃない?事情を聞くにせよ、ここから場所を移すにせよ、意識があった方が楽じゃない」


「アーチャさんっ!?」


「別に身体に毒ってわけでもないんでしょ?けちけちしないでさっさとやっちゃってよ。私ら明日も仕事だし」


「まぁ、確かに身体に悪いわけじゃないんですけど……あんまり頻繁に回復魔術をかけると自己治癒能力が低下しちゃうんですよね……」


「どうせ今回こっきりでしょ。気にすんな」


「そうだ。別に一回や二回かけたくらいじゃ対して変わらん。気にせずかけちまえ」


「……バルト、お願い」


「……はい」



どこか呆れたようにこちらを見る若造たちに釈然としないものを感じる。問題ないって医者のお墨付きをもらったのに一体何なんだ。












‐‐‐‐‐‐

バルトが回復魔術をかけると、寝ていた彼女は数分もしないうちに目を覚ました。

本当に疲れて寝ていただけみたいだ。

目覚めた彼女を驚かせない様にヒューを残し野郎どもはカーテンの向こうに追いやった。

ぼんやりと目をパシパシさせる彼女に声をかける。



「や、お嬢さん。気分はどうだい?」


「……ここは……」


「チュルガの砦だよ。森の近くで行き倒れてたから連れて来たんだ」


「……チュルガ……何で……?」


「それはこっちが聞きたくてね。事情を話せるかい?私はアーチャだ。この子は孫娘のヒュー。飲めるようだったらお茶でも飲みながら話しましょ。喉、乾いてない?」


「……あ、はい……いただきます」



伏し目がちに小声で返事をする彼女を助けてベットに座らせる。ヒューが予め準備しておいた三人分のお茶を取ってきたので、それを受け取りベット脇の小さなテーブルに乗せ、ポットから人数分のコップにお茶を注ぎ入れる。

爽やかな甘い香りが広がり、どことなくほっとしたような気配を感じた。

まだ少し顔色が悪い彼女にお茶を渡し、自分たちもさっさと飲みだす。



「本当はこういうの聞くのって騎士団の人達がするらしいんだけど、むっさい男に囲まれんのって嫌でしょ?少なくとも私は嫌だし、心配だから請け負っちゃったのよ。少しずつでいいから貴女の事聞かせてくれると嬉しいわ。あぁ、勿論無理はしなくていいからね」



少しでも安心させるように優しく笑いかける。

ぼんやりとしていた彼女は、俯いてしまった。地味ながらよくよく見れば整った顔立ちの可愛らしい女の子なのに、今はどんよりと暗い顔をしている。



「…………」


「お姉ちゃん、クッキーもあるよ!」



ヒューは存外子供の振りが上手い。今も事情を知らなけりゃ可愛らしい無邪気な子供にしか見えないだろう。

目覚めて彼女の目を初めて見たが、髪よりも少し明るめな茶褐色な瞳はどこか暗く、目覚めた直後はぼんやりとしていたが、今は落ち着きなく怯えるようにきょろきょろしている。

そんな彼女はヒューの姿を目にすると、どこかほっとしたように顔の強張りを少しだけ解いた。

ヒューは無邪気な子供を装い、元気に話しかける。……意外と芸達者なのは結構だが、子供ぶりっ子が得意な騎士団長ってどうなんだ、と正直思う。

彼女の緊張がある程度解けるまでの間をヒューに任せ、篤美は茶をすすった。



(やれやれ……長くなりそうだねぇ)




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