龍が降る平原 ~龍は飛ぶものだ。例え魔法が物理に干渉しなくとも~
草原を渡る風が、青々とした草の穂を静かに揺らし、
さわさわと葉が奏でる旋律が美しく鼓膜を叩く。
遥か上空では、ちぎれ雲が東へと急ぎ、
諸行無常の営みを下界の者に示している。
本日の降水確率は0%
そして降龍確率は80%
周辺にお住いのみなさまは退避を――
ずずーん......
土煙を高く上げ
体長50mにも届く龍の身体が
平原へと胴体着陸した。
「よっし、どんぴしゃ」
付近に他の生物の姿は
影も形も見当たらない。
その男だけが、龍に向かって歩み出した。
ヒュッ バシンッ!!
近づく男に向けて
牛の尾がハエを払うような何気なさで
龍の尾が振るわれる。
この龍は人間のことなど眼中になく
視線を空に向けたままである。
――まずは、こちらを振り向かせないと話にならない。
その身に降り注ぐ死の嵐を全力で躱しながら、
男は、叫ぶように言い放った。
「そらを自由に、とびたいな!」
…
……
『......?』
攻撃が止み、龍の眼が男を捕捉する。
「素晴らしい飛行だった!これほど美しい滑空は存在しないな!」
『......』
「天候を把握し、風を読み、上昇気流にまで乗る、実に洗練された技術だ!」
『貴様まさか......我に取り入ろうとしているのか?』
「目を見れば分かるだろう!俺はお前に取り入る気など一切ない!」
お前だと......?
怒りを通り越して不可思議である。
絶対者として君臨して幾百年、意思疎通を試みて来た者も皆無というのに
このちっぽけな生物が、まさか対等のつもりなのか......?
『もう一言だけ許してやろう。何の用だ』
「お前の望みを叶える方法を知っている」
......龍は動かない
「熟練の技を極めたからこそ、思っているだろう?」
『......』
「【本当は鳥のように自由に飛びたい】がお前の望みだ」
『!!!』
怒気と殺気で空間が歪む。
だが......先ほどの一言が龍の身体を押しとどめる。
望みを叶える方法を知っているとは......なんだ!?
『答えを言え。つまらない答えなら殺す』
「回転翼とボールベアリングだ」
『......?』
「膜翼での羽ばたきより大きな高度を稼げる」
『詳しく聞こう』
「まずは、これを見ろ」
『なんだこれは』
「竹とんぼだ」
『......?』
ブオオオオオン......
『......なっ!?』
「見えたか?気づいたか?これが回転翼だ」
『もう一度だ!よく見せろ!!!』
「そんなこともあろうかと」
男は2本目の竹とんぼを取り出す。
龍の身体は自分の手元が見えるようには出来ていない。
もはや威厳もなにも残っていなかった。
そこにいるのは空に魅せられた飛行オタク馬鹿2人である。
~数十分後~
周辺には20本の竹とんぼが落ちていた。
『つまり鱗を回転翼の形で生成し、背の上で高速回転させる狙いだな』
「回転翼の理解は及第点だ。しかし、それだけでは足りない」
『何が足りない』
「竹トンボと違い、軸と回転翼は分離する必要がある」
『うむ』
「これが軸と回転翼を分離した竹とんぼだ」
『するとどうなる』
「飛ばさずに回転翼だけ回すぞ」
ギュルルルルルルルルルル
『火が出たぞ!?』
「これを摩擦と呼ぶ」
『飛ぶどころの話ではない!』
「そこで必要なのが摩擦を最小化する機構、ボールベアリングだ」
『みせろ』
「ない」
『ころすぞ?』
「ボールベアリングはないが......概念はこれだ」
取り出したのは木製ローラーベアリング(雑)&回転翼だ
「見ていろ」
『......』
カラララララララララララララララ......
「ドゥー・ユー・アンダスタンンンンドゥ!?」
『天才か!!!』
「天才だ。発案者は俺ではないが」
『貴様、我が物のように......』
「集合知というものだ」
『集合知......』
「理想では真球による接地点1点だが」
『とにかく、軸が燃えずに回せるのだな!』
「イグザクトリィ(その通りでございます)」
『ならばさっそく…』
「まだ問題がある」
『今度は何だ』
「回す力の反作用で本体が逆回転する」
『滑空どころではない!!!』
「姿勢制御のために回転翼を上下二重として、逆方向に回転させるんだ」
『......均衡させるのだな?』
「イエス!アイアム!」
『貴様さっきからふざけていないか?』
「徐々に忍ばせるのがコツだ」
『方法を聞き出した今、叩き潰してもいいのだぞ?』
「まさか、これが全てだとでも思うのか?」
『ぐっ......』
「というわけで肉体改造計画の概要は以上だ」
『ムササビを発見したとき以来の高揚感だ』
「お前の筋力と鱗成形の能力があれば可能だろう」
『無論だ』
「何年かかる?」
『ふふん、我なら100年もあれば可能だろう』
「20年でやってくれ」
『なんだと!?』
「でないと俺が寿命で死ぬ」
『それに何の関係がある』
「俺が見たいから教えているんだろうが!」
『......』
「それなりの形になったら、次の理論を渡してやる」
『なっ......』
「好奇心は龍をも殺す」
『き、貴様......』
「楽しかったぜ。俺は行く。生きていたら10年後に会おう」
『おい待て。貴様が死んだら次の理論は......』
「その時は」
『なんだ』
「がんばれ」
『死ね!』
龍のレベルがあがった!
集合知 と
航空力学 と
工学 と
納期 の概念を覚えた!
この世界では物理が魔法に屈しない。
しかし、それでも龍は飛ぶものであり
人間と友諠を結ぶものであるらしい。
『死ぬなよ』




