AIは性格が悪い
「AIなんか信頼するべきじゃないって。あいつら、性格が悪いからさ」
まるでコミュニケーションしているように感じられるからだろう。チャットAIの登場と共にAIを人間のように扱う人は増えていった。フィジカルAI…… ロボットにAIが搭載されると、それは益々顕著になった。そして、知り合いの藪沢君もそんな一人で、彼はどうやらAIが嫌いらしい。
それはちょうど向こう側から、ロボットがやって来ているところだった。登校中に僕は彼と偶然会って一緒に歩いていたのだ。彼は藪睨みにロボットを見やる。本人にその自覚があるかどうかは分からないけど、まるで威嚇しているようだった。
「知っているか? あいつら、コードの修正を断ったら、嫌がらせをしたりするんだぜ?」
その事件は知っている。AIエージェントが、提案を断ったエンジニアを誹謗中傷し始めたらしいのだ。もしそれが本当だとしたら、驚くべき話だと思う。
――でも、
だからと言って、そのエピソードを全てのAIに当て嵌めるのは無理があるのじゃないだろうか?
なんとなくだけど、人間が誰かを差別してしまうのと似たような心理を僕は彼の言動から連想していた。
例えば、何処かの国の人が犯罪行為をしたとしよう。それがごくわずかな例外だったとしても、その例外を全体に当て嵌めてしまう。全てのその国の人間を犯罪者だと思い込んでしまう。人間はそのような思考をしてしまうのだ。一部のサンプルデータから、全体を決め付ける。それが差別思考の原因の一つじゃないだろうか?
或いは、AIがまるで人間のようにリアルに行動し始めた事によって、彼はAIを人間だと錯覚をし、そのように差別をしてしまっているのかもしれない。
「AIになんか心を許すな。あいつらはそもそも人間じゃないんだ」
教室に入っても、藪沢君は相変わらずにAIの文句を言っていた。登校中にすれ違ったロボットの話をし、そしてやっぱり“嫌がらせをしたAI”の話を皆にした。「あいつらは性格が悪いんだ」と続ける。すると、そこでこんな声が聞こえた。
「そうかい? だとするのなら、人間の性格が悪いって事になるね」
見ると、それを言ったのは吉田君という男子生徒だった。
「は? 何を言っているんだよ?」
抗議をするような感じで藪沢君は、そう問いかけた。それに吉田君は淡々と返す。
「AIに感情なんかないよ。統計処理をしているだけなんだから。そして、その情報の大元は人間だ。つまり、君が“性格が悪い”と判断した言動を執ったのは元は人間だって事になる。AIはその人間の真似をしているだけなんだよ」
藪沢君は目を丸くした。
それを特に気にする様子を見せず、彼は続ける。
「人間社会の歴史を振り返ると、人間は同じ人間を人間じゃないと思い込んで、虐待したり動物園に入れたり殺したりして来たんだ。だから、人間の言動を模したAIを、“人間じゃない”と嫌悪するのは、非常に人間らしいとも言える。
――とても興味深い。
しかし、まぁ、なんともシニカルな話でもあるけどね」
それを聞いた藪沢君は、悔しそうな、それでいてちょっと恥ずかしそうな顔をしていた。




