第7話:パピルスなんか食えるか
「……いい、セバス。今日のあたしは『誇り高きアイゼン家の令嬢』ではなく、『報酬のために魂を売った女』よ。……あぁ、カスタードの香りが脳裏をよぎるわ」
「お嬢様、魂の安売りセールもそこまで来ると、もはや清々しいですね。……あちらが、本日お嬢様を『雇用』された隣国の第一王子、ルカス様です」
セバスの視線の先には、これでもかと金糸をあしらった白馬の王子様が、キラキラとしたエフェクトを背負って立っていた。隣国の第一王子ルカス。彼は一目散に私……ではなく、私の背後の「空間」に向かって情熱的に語り出した。
「あぁ! 麗しの聖女様! 君がこの学園に降臨した際、私は確信した。君こそが私の運命、私の伴侶だと! ……おい、そこの不憫な栄養失調の娘」
「……栄養失調!? あたしの名前はリナよ! これでも由緒正しきーー」
「どうでもいい。君はあの聖女様と意識を共有している『依代』だという噂を聞いた。これを聖女様に届けろ。成功すれば、報酬にわが国秘伝の『黄金エクレア』の・・・・・・『引換券』を一枚やろう」
「……っ!! 現物じゃないのかよ! しかも『一枚』ってケチくさいわね! ……でも、あの黄金エクレア……、中のクリームが三層構造だっていう……っ! 承知したわよ、その仕事、引き受けたわ!」
「**『君に届け』……ならぬ『君が届け』**というわけですね。お嬢様、プライドを三層クリームと一緒に飲み込みましたね」
セバスのツッコミを無視し、私はルカスから託された「熱烈なラブレター(という名の厚さ三センチのポエム集)」を抱えて走った。
だが、その時。 「聖女は我が国の軍事機密だ! 他国への嫁入りなど断固阻止する!」
学園内に、再び隣国の軍隊(の過激派)が乱入。今度は巨大な「魔導投石機」を並べ、校門前で気勢を上げている。
「邪魔よ! あたしの黄金エクレアの引換券がかかってるんだから、そこをどきなさい!」
「なんだこの小娘は!? 蹴散らせ!」
無情にも放たれた巨大な岩石。それは、私が抱えていた「ポエム集」を直撃し、あろうことか私のお腹を直撃……はせず、私の目の前で「バキバキ」と音を立ててラブレターを粉砕した。
「……あ。ルカスの……ポエムが……。これじゃ引換券が貰えないじゃないのよぉぉぉぉ!!」
どぉぉぉぉぉん!!
黄金の魔力が爆発し、廊下に聖女が降臨する。 ルカスはそれを見て、頬を赤らめ、うっとりと膝をついた。
「おお……! 麗しの聖女様! 私の愛のポエムを受け取り、その情熱で変身してくださったのですね!」
私はルカスの勘違いを全力で無視し、そのまま敵の投石機隊へと突っ込んだ。 「あたしの報酬を邪魔する奴は、この世からデリートしてやるわぁぁぁ!! デザート・エクスプロージョンッ!!」
神聖なる魔力の一撃。 投石機は飴細工のように砕け散り、軍隊は一瞬で水平線の彼方へ。ついでに学園の正門が三度目の建て直し確定となるほど粉砕された。
だが。
「……あ。……あぁぁ…………」
変身が解け、シュルシュルと萎んでいく私。 足元には、敵の攻撃で粉々になったポエム集の残骸……。
「な、なんという激しい愛の表現……! 聖女様、私の手紙を文字通り『噛み締めて(粉砕して)』くださったのですね! しかしリナ君、手紙が届かなかった以上、報酬の引換券はなしだ」
「…………は?」
「愛は無償のもの。引換券なんて不純なものは、君のようなひもじい娘にはまだ早かったようだ。あははは!」
ルカスは爽やかに笑いながら、新たなポエムを綴るために去っていった。
「…………。あ~~~ん!! ひもじいよぉぉぉ!! 働いたのに! 殲滅したのに! エクレアの『エ』の字も食べられてないよぉぉぉぉ!!」
私は粉々になったポエム(紙クズ)を握りしめ、虚空に向かって絶叫した。
「……お嬢様。その紙クズ、よく見ると最高級のパピルス紙ですね。……煮込めば、少しは食物繊維になるかもしれませんよ」
「……紙なんて食べられるかぁぁぁ!! せめて、せめてひとつくらい現物をよこしなさいよぉぉぉぉ!!」
リナの悲痛な叫びが、今日も夕暮れの学園に空しく響き渡るのだった。




