第2話:ファンクラブ設立
「……セバス、見て。あの木の実、いかにも『栄養あります』って顔をしてるわ。あたしの鑑定眼(空腹による執念)によれば、あれは食べられるはずよ」
「リナ様、それは魔導学園の鑑賞用植物『マンドラゴラ・モドキ』です。食べれば三日は腹痛でのたうち回ることになりますよ」
私は今、空腹のあまり学園の植え込みと対話していた。 昨日の「ババロア事件」のせいで、私のおやつはセバスによって没収されたのである。非人道的だ。これだから鉄の心をもつ執事は困る。
そんな中、学園の廊下では異様な熱気が渦巻いていた。
「見たか昨日の光を!」「ああ、あの神々しい双丘……いや、お姿!」「我らが学園に降臨した救世主、聖女様だ!」
……聖女様。 まあ、確かに昨日の変身したあたしは、自分でも引くほど美しかった。胸もバインバインだった。 でもね。
「ねえセバス。みんな『あの美少女はどこだ』って騒いでるけど、目の前にその本人が、餓死寸前で震えてるってのに誰も気づかないわね」
「当然でしょう。お嬢様の今の姿は、あの聖女様の『影』にすら届かない、ただの枯れ木のようなものですから。誰が『平原』と『山脈』を同一視しますか」
「言い方ぁ!!」
その時だった。 「どけ! 聖女様への入会希望者はあちらに並べ!」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには全身に包帯を巻き、車椅子に乗ったカイル・ド・ヴァルドがいた。昨日の今日で元気なやつだ。
「カイル様、聖女様を讃えるための『お供え物』が集まりました! 購買部の最高級ザッハトルテ、全て押さえてあります!」
「よろしい! 聖女様が再び現れた際、この甘美なる捧げ物で我らの誠意を示すのだ!」
私の耳が、ピクリと跳ねた。 最高級、ザッハトルテ。 しかも、全部。
「……セバス。今、あの包帯男、なんて言った?」
「『買い占めた』と言いましたね。お嬢様が昨夜から楽しみにしていた、唯一の希望を」
私の目から、光が消えた。 変身のトリガーは「怒り」と「空腹」。 今、その両方が、臨界点を突破した。
「……あたしのザッハトルテを、自分用のお供え物にするなんて……そんなマッチポンプ、許されるわけないじゃないの……ッ!!」




