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第9話『ならば残された問題は朝陽を見つけ出すという物だ。』

山瀬佳織との取材の後、俺は世界中の情報を漁り、奇跡の尻尾を捕まえた。


そしてそれは、ほぼ間違いなく真実であると確信を得る事が出来た。


ならば残された問題は朝陽を見つけ出すという物だ。


ここまで来たならもはやなりふり構わず、直接的な手段を取る事も出来るが、まだその時ではない。


とりあえず、河合風香と佐々木紗理奈との取材の約束が出来た以上、まずはこちらから探るべきだろう。


そう考えた俺は、配信の準備を始めるのだった。




そして迎えた当日。


俺はいつもの様に笑顔を作りながら、カメラの前でしゃべり始める。


「こんばんは。突撃取材二十四の杉原です。そして本日のゲストはこのお二方! ご挨拶をお願いします!」


以前は河合風香の頭が大分おかしい言動に振り回されたが、今回は人間と対話出来る上に河合風香の翻訳が出来る佐々木紗理奈が居る。


問題はない。はずだ。


「イエイ! 河合風香だよ! みんな待ってたよね? まぁ当然か! 私の事、みんな大好きだもんね!? 私はそんなに好きじゃないけど。好きって言っても良いよ!」


【だ ま れ】


【挨拶すらまともに出来んのか】


【挨拶終わったからもう喋らなくて良いよ】


「あ。今回はねー。私一人だけじゃないんだよ。はい! 私の弟子! というより実質妹の紗理奈ちゃんだー! はいっ、拍手ー!」


「あ、佐々木紗理奈です。今回は」


「いやー今日も可愛いね。最高じゃない!?」


「風香ちゃん! 私、まだ喋ってる。お口チャック」


「はい!」


「えっと。ごめんなさい。改めてこんばんは。佐々木紗理奈です。今回は、よろしくお願いします。風香ちゃんはちょっと元気だけど、怒らないでくれると嬉しいです」


「……! ……!? ……!!」


【ちょっと元気? 妙だな】


【しかし口を閉じてても煩いって相当だろ】


【でも紗理奈ちゃんが居ると大人しいな】


【これで大人しいのか(戦慄)】


「いや。今回も元気ですね。オジサン。圧倒されちゃいましたよ」


「そうですね。年々元気が増えてて。昔はこんなじゃなかったんですけど」


なんて、佐々木紗理奈と話をしていると佐々木紗理奈の横に座っていた河合風香が何やらアピールをしている。


指を口に持って行って、横にズラす仕草。


あぁ、喋らせろという事か。


「えっと? 風香ちゃん。どういう意味」


「んー!! んー!? んんー!!!」


「もうふざけてないで。ちゃんとお話しして」


「プハァ! 許可が出た。ちゃんと話をしろという許可が……ふふふ」


【解き放たれた獣】


【終わった】


「先ほど佐々木さんから伺いましたけど、河合さんも昔は大人しかったとか」


「そうかなぁ? 昔と変わった所なんて、大人のおねぇさんになった事くらいじゃない? うふーん」


【オロロロロロ】


【放送事故止めろ】


【黙って動かなければそれなりに可愛いのに、動くからなこの汚物】


【キッッッッッッツ】


「なんか散々な言われ様だなぁ。ねぇ紗理奈ちゃんはどう? 私、理想のお姉さんみたいになってきたでしょ?」


「ううん。全然」


「えぇー!?」


【一刀両断で笑う】


【真顔の紗理奈ちゃんなんて滅多に見れんぞ】


「今の話だと二人には何か理想とする人が居るんですかね? 目標と言うか」


「うん。います。私の」


「いるよー! 私はねー! 河合風香さんっていう凄く美人で格好良くて! 最高の」


「風香ちゃん! 座って。私が話終わるまで待て。だよ」


「ワン!」


【調教師紗理奈】


【始まったな】


【さす紗理奈】


【俺も調教されてぇわ】


【変態は檻にでも入ってそのまま海に沈んでくれ】


「えっと。改めて。私のお母さんが、その憧れの人です」


「へぇ。良いですね。その様子じゃあ親子仲は良さそうだ。でも、ちゃんと甘えてるかい? 子供の仕事は親に甘える事だよ」


「それは、多分、大丈夫」


「本当かなぁ。話をしてきた感じだと佐々木さんはあんまり自己主張しなそうだから。オジサン心配になっちゃうよ?」


【まぁ確かに】


【そんな感じに見えるな】


「大丈夫です。今度の休みは向こうの家に行くので、そこでまた、甘えます」


「それは良かった。存分に甘えてくると良い。っと、しまったな。勝手にこんな事を言ってしまったが、そのお母さんが怖い人だったら心配だ。大丈夫かい?」


「それは、大丈夫。朝陽さん……すごく優しいから」


「そうか」


【良いじゃん】


【最高か】


【癒し空間が、ここにはある!!】


【画面端の汚物が蠢いてなければ最高なのになぁ】


【見るな。左目を閉じろ】


今度の休みか。


なるほど。では、朝陽の居る場所まで案内してもらおうか。


俺はそんな考えを奥底にしまい込んで、配信を続けていく。


当然だ。


ここで終わっても、ここから流れを変えても不審だからな。


あくまで自然に会話の中の一つとして流し、配信を続けていく。


これが大事だ。


「さて……佐々木さんの話も聞けたし。そろそろ、そっちで黙っている人の意見も聞いていこうか?」


「私ね!! 仕方ない聞かせてあげましょう!」


「……よろしくお願いするよ」


「私の理想は当然。私! 何故か。それは簡単! 私の理想はあくまで私の将来へ続く線の先にしか存在しないのだから、私以外の誰を理想にしてもそこにはたどり着けない! ならば、私は私を最も理想として、走り続ける必要がある……これが風香の道、フウカロード……!」


【風化しろ。そんな道】


【笑った】


【もうコイツの優勝だろ】


【座布団十枚持ってきてー】


「なるほど。貴重な意見をありがとう」


「いえいえ。この程度容易い事ですよ」


「ねぇ。風香ちゃん」


「何かな! 紗理奈ちゃん」


「風香ちゃんってなんでそんな元気になっちゃったんだっけ? 大学の時まではまだ普通だったでしょ?」


「んー。気になる?」


「うん。気になる」


「そっか……なら話さなきゃいけない時が、来たみたいだね」


【なんだ】


【突然シリアスな雰囲気始めるじゃん】


【どうせシリアルだろ】


「そう。あれは私が大学を卒業して働き始めた頃の事。変な客からクレームを付けられて、最初は丁寧に対応してたんだけど、どうやっても向こうが態度を変えないから、もうどうでも良いかなー。って思ったんだよ」


「それで?」


「こうなってた」


【なんでやねん!】


【つまりどういうことだってばよ】


【めんどくさい客に真面目に接客するのが嫌になったから自由にやり始めた。って事でしょ?】


【いや、なんでめんどくさい客以外にもその態度なんだよ】


【だって、河合風香だから】


【うーんこの説得力】


「だってだってー。めんどくさい客も、なんか口ばっかりで美味しいご飯も作れないレトルト以下の自称料理人も、みんな最初は普通みたいな顔してくるんだよ? なんか最初から真面目に対応してたらバカみたいじゃん!」


【まぁ言わんとする事は分からんでもない】


【しかし普通の客はたまったものじゃないな】


【そもそも問題。発言に棘がありすぎて敵を作りすぎなのが問題なのでは?】


「棘? 棘なんて無いでしょ」


【多分一番の原因はこれだと思うの】


【お前の発言は多くの料理人を苛立たせてる。それが多くの敵を作って、こうした連鎖になってると自覚しろ】


「何が料理人だよ。大して美味しくも無い料理作って高いお金請求してる詐欺師が料理人なんて名乗って欲しくないね!」


【発言が! 刺さる!!】


【鋭すぎだろ】


【これを何でもない奴が言ってるなら流せるのに、河合風香とかいう天才が言うから問題になるんだよな】


【そもそもお前の言うまともな料理人って誰だよ】


「いっぱい居るじゃん」


【具体的に】


「具体的に? そうねぇ。国内だと、有川弘松さんとか、折原哲弥さんとか。あの辺りの人たちはまともな料理人だよ。海外だとアルバーノ・ デレッダさんとか、ドゥニーズ・アロンさんとか、ガリーナ・ポルトノフさんとか。パッと思いついただけでもこれだけ居るけど」


【伝説とか神とかばっかり召喚してんじゃねぇよ】


【おかしいな。料理人なんて殆ど知らないのに半分くらい分かるんだが】


【まぁ、確かに全員河合風香と同じくらいのレベルの超人ばっかりやな】


【もしかして同等以上の腕が無いと、料理人として認識できない方……?】


【化け物が人間を見て、判断しようとしてるのがそもそも間違いなんだって】


【もっと一般人の目線になってくれ。一般料理人が全員廃業しちまう】


「一般人って。私も一般人なんだけど」


【黙れ逸般人】


【一般の意味を辞書で五万回調べてこい】


「ふぇーん。みんなが虐めるよー。紗理奈ちゃーん」


「よしよし」


「ぐへへ」


【何も反省していない!】


【早く人間になって欲しいですねぇ】


【それは世界が平和になって欲しいな。というくらい無謀な願いだから】




俺はそれからごく普通に配信を終わらせて、彼女たちと解散した。


無論、適当なゴロツキを何人か雇い、佐々木紗理奈の家を、そして動向を見張らせる事は忘れない。


ようやく朝陽に会える。


俺は長く苦しい時が終わる予感に笑みを深めた。

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