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第7話『いや、天王寺君。久しぶりだね。元気してたかい』

無事連絡も取れ、最近映画で賞を受賞したからという理由をもって天王寺颯真への取材を行う。


まぁ、理由が適当なのは向こうも分かっているだろう。


こんな物は建前だ。


こっちは有名な奴を出して視聴者稼ぎたいし、向こうは宣伝がしたい。


互いに利害が一致しているからこそ特に腹の探り合いや、面倒な主導権の奪い合いなんて物は起こらない。


という訳で何らトラブルもなく当日を迎えた。




そしていつもの様に準備をして、いつもの様に配信を行う。


今回はそれとなく例の事件を聞き、駄目そうなら山瀬佳織に確認するだけだ。


まぁ、そこまで正直に何かが出てくるとも思えないしな。


「こんばんは。突撃取材二十四の杉原です。そして本日のゲストはこの方! ご挨拶をお願いします!」


「はい。天王寺颯真です。よろしくお願いします」


「いや、天王寺君。久しぶりだね。元気してたかい」


「えぇ。お陰様で。杉原さんに呼ばれることもなく役者に専念出来ましたよ」


「ハッハッハ。これは手厳しいな!」


なんて当たり障りもないスタートを決め、和やかに話を進めてゆく。


そして適当にコメントを絡めながら話を転がしていった。


「今回の映画はどう? ぶっちゃけ」


「ぶっちゃけても意見は同じですよ。最高です。この僕が出てるんですから」


「言うねぇ」


【しかしまぁ事実】


【天王寺絡むと駄作少ないもんな】


【どうしようもない奴は天王寺も、今回はまぁ、そうね。くらいのテンションになるし】


【いつかの映画じゃん。主役に天王寺、ヒロインに山瀬佳織置いて失敗した奴】


【もうその二人でどうしようもないなら、若手にはどうにも出来んだろ】


【ベテランでも救出できないだろ。あんなの】


【脚本がもう少しまともだったなら】


【いや、監督が暴走しただけだろ。なんでも脚本のせいにするな】


「らしいけど、実際の所、どうだったの? 例のアレ」


「ノーコメントですね」


「ま。そらそうか」


「ただ、まぁ全部が全部駄目って事は無いです。佳織とは十分に満足できるレベルで演じる事が出来ましたし。確かにエンディングはまぁ、アレでしたが、そこに至るまでの過程とかは見所色々ありますよ」


「ほぅほぅ。具体的には?」


「そうですね。土砂降りの雨の中立ち尽くしてる佳織を、僕が後ろから抱きしめるシーンがあるんですけど、その時の僕らの手の動きとか、結構お気に入りですね。良い演技が出来たと自負してます」


【出た!!】


【アレはマジでヤバかった】


【名作映画だったら絶対有名になってるシーンだよな】


【切ないねんあそこ。想い合ってる二人がさ。向かい合えないから手だけは、心だけは繋がってるって絵で表現してるの、控え目に言って気持ち悪い】


【なお。監督はあのシーン見て悲恋のが面白んじゃね? って考えエンディングを変更した模様】


【無能】


【原作者はキレ過ぎて、四時間近くお気持ち呟きをした模様】


【そらキレるだろ】


【しかもあれエンディングが勝手に改変された事、原作者は知らないで試写会行ったんでしょ? 俺が原作者なら気が狂うで】


【お気持ち呟きの中でもその雨のシーンは語られてたね。原作超えた。最高だった。こんなシーンが表現出来るのに、なんでって】


【まぁ雨のシーンは天王寺と山瀬がアドリブでやった事。エンディングは監督が勝手にやった事】


【おや。互いに勝手にやってるのに、これは……】


【原作へのリスペクトがあるか、無いかの違いじゃないですか?】


【てか原作だと二人って結ばれるんか? 原作知らんねん。映画見て頭おかしくなっちゃったから】


「あー。俺も原作はまだ見てないんだよね。どうなの? その辺りは」


「そうですねぇ。まぁ僕が語った所で原作の魅力は半分も伝わらないと思うので、是非原作を読んでもらいたいんですが。僕こと、浩之が海に出て遭難する所までは一緒なんですけど。その後、ヒロインであるめぐみは天の使いにまた会うんですよ。それで浩之を助けたいと願うなら寿命を半分寄こせって言われて、めぐみはすぐに頷くんです。「私が一人で生きる四十年より、浩之と生きる二十年の方が私にはずっと輝いて見える」と言って」


天王寺が語っている内容を聞きながら、俺も本の内容を思い出していた。


まぁ元より奇跡で困難が解決するという展開には賛否両論あったし、その辺りが監督は気になったんだろうなとは思う。


「そして浩之は帰ってきて、めぐみの告白と寿命をささげた事を聞いて、めぐみと共に生きていく覚悟を決め、めぐみの両親の元へ行くって感じですね。まぁ最終的に二人はハッピーエンドとなりますが、詳しい所は本を読んでくださいね」


「ありがとう。天王寺君」


「いえいえ」


【なるほどねー】


【監督は安易な奇跡を嫌ったって感じ?】


【寿命の半分を持っていかれて何が安易な奇跡なのか】


【でも監督にはそう見えたって事でしょ。呟きでもそう言ってたし】


【だからって、突然チャラ男生やされて、そこに嫁がされためぐみよ】


【浩之も助からんし。めぐみは浩之に貰ったガラクタの指輪を捨てられず抱えて妊娠の報告を聞いて倒れる】


【最悪のバッドエンドで笑う】


【なにわろてんねん】


「あ。ちなみにあの気絶は演技じゃないですよ。あ、いや演技にはなるのか」


【どういうこっちゃ】


「あのシーン。佳織があまりにもめぐみに乗りすぎて、ショックを受けて気絶してしまったっていうシーンなんですよ。浩之さんに申し訳が無いと、でも子供には罪が無いんですと起きてからもやや混乱してましたね」


【地獄じゃん】


【誰が得するんだよこの映画】


【いや、寝取り趣味がある人には最高の映画らしいぞ。レビューも最高評価付けてる奴居るし】


【えぇ……】


【佳織ちゃんの演技がガチすぎて最高とか。抜けるとか。そういうコメントばっかり】


【それで謎に評価高いのか】


【原作者も佳織ちゃんも救われねぇな】


そろそろいいタイミングかなと俺は、それとなくその話題を振ってみる事にした。


「まぁ作品は見る人が好きに見て、好きに評価するものだからね。仕方ない所もあるよな」


「そうですねぇ」


「ところで、天王寺君は、奇跡とかってどう思う? 代償を払って何か叶えたい事とかってあるかい?」


「何も無いですね」


「ハッキリ言うねぇ」


「当然じゃないですか。僕は自分の努力でここまでの力を付けてきた。それで奇跡なんかに頼ったら、これまでの自分が全て否定されてしまうじゃないですか」


「なるほど。潔癖だねぇ」


「杉原さんは違うんですか?」


「俺かい? 俺は奇跡が貰えるんなら欲しいさ。何であれ。どんな手段を使っても最後に手に入れた物が正義だろ。地位だって名誉だって、金だってさ」


【それはそう】


【杉原は現実的だなぁ】


【奇跡を願ってるのに現実的ってのが何とも妙だけど】


「まぁこんなオジサンに奇跡の女神なんて降りてこないだろうけどね! ハッハッハ」


【悲しい】


【女神もどうせなら美少年が良いからな】


【女神の癖にルッキズムの奴隷かよ】


「そうだねぇ。そう考えると、天王寺君なんかは女神様の加護に与れるかもしれないぞ?」


「女神なんて、そんな良い物じゃないと思いますけどね」


「お。なんだなんだ。その言い方は。まるで女神様に会った事があるみたいじゃないか。オジサンにも奇跡を分けてくれよ」


【そうだそうだ。ズルいぞ天王寺!】


【宝くじの一等をくれ!】


「会った事なんてありませんよ。変な言葉捕まえないでください」


「なんだ。会った事ないのかー。残念だな。明日の朝記事は決まったかと思ったんだが。『天王寺颯真! 女神との密会! 山瀬佳織との関係は!』みたいな記事でさ」


「止めてください。ありもしないネタで記事を作るのは。まったくもう」


「ハハハ」


「まったく。その貪欲さがあるなら奇跡なんて要らないでしょ。存分に人の生き血をすすって下さい」


「しょうがないな。そうさせて貰うよ」


そうか。


お前は本当に会った事があるのか。天王寺颯真。


実在するのか。天野という名の男は。


それが分かっただけでも、今回の取材には意味があった。


俺はそう強く確信するのだった。

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