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第4話『まずはここで佐々木紗理奈に繋がる為の足掛かりを作る。』

俺は前回の配信の流れから、河合風香への出演依頼をする。


とは言っても、まだ今回は準備運動だ。


まずはここで佐々木紗理奈に繋がる為の足掛かりを作る。


そして、二回目の出演依頼でいよいよ佐々木紗理奈と河合風香を呼ぶのだ。


その流れであれば、佐々木紗理奈への接触もそこまで疑われないだろう。


上手く行けば、佐々木紗理奈から朝陽を配信の場に呼ぶことが出来るかもしれない。


そこまでいかなくとも、自然に取材という扱いで接する事も叶うだろう。


順調だ。全ては、順調に進行している。


俺はそう確信しながら、出演を了承した河合風香と日程の調整をする。


そして、配信の準備に取り掛かるのだった。




そんなこんなで時間は流れ、配信の当日。


俺はいつもの様に配信の準備をするスタッフを眺めながら台本を確認していた。


すぐ近くには河合風香が座っている。


特に緊張している様には見えなかった。


まぁ、その方が助かるがな。


等と考えながら時間を過ごし、いよいよ配信が開始された。


「こんばんは。突撃取材二十四の杉原です。そして本日のゲストはこの方! ご挨拶をお願いします!」


「はい! どもども! 河合さん家の風香ちゃんです! 是非風香ちゃんって呼んでくださいね」


「ご挨拶ありがとうございます。河合さん」


「……」


なんだ。あからさまに無視されている。


まさかと思いながら、先ほど河合風香が言っていた言葉を口にした。


「えっと、風香ちゃん?」


「はい。なんでしょうか!」


「あ、いえ。自己紹介ありがとうございます」


「なんてことは無いですよ!」


「では今回、風香ちゃんをお呼びしたのはですね」


「ちょっと待ってください!」


「はい? 何でしょうか」


「私たちほぼ初対面なのに、風香ちゃんって呼ぶのは少し距離を近づけ過ぎでは無いでしょうか!」


「……」


「でしょうか!」


「そうですね。河合さん。私もそう思っていた所です」


【ヤバすぎ―!】


【これが招待された配信ですることか!】


【何? この人、怒らせるために来たの?】


【いや、マジで適当に今考えてる事口にしてるだけだと思うぞ】


【かなり適当な性格だからな。あの立花光佑が頭を抱えるレベル】


【モンスターじゃん】


俺はとりあえず深く息を吐いて、冷静さを取り戻す。


怒りに呑まれてはいけない。


ここはまず信頼関係を構築する所から始めるのだ。


「河合さんは、一流の料理人として活躍されているとのことですが、いつ頃から料理を始めたのでしょうか。何か切っ掛け等もあれば教えていただけますと幸いです」


「切っ掛けですか。やはりアレですね。妹の誕生日に家族で少し高いレストランに食べに行ったんですよ。そこで出てきた料理を食べた時ですね」


かなりまともな理由だなと思いながら俺は頷く。


警察や医者を目指す人間が子供の頃に助けられた経験があるとか。


スポーツ選手の活躍を見て、自分もと思ったりとか。


美味しいご飯を食べて、それを自分も作ってみたいというのは、ごくありふれた子供時代に思える。


しかし、そんな俺の思考を河合風香は粉々に打ち砕いた。


「あぁ。それで自分も店で食べた様な美味しいご飯を作ってみたいと思ったという事でしょうか」


「いえ。なんかあんまり美味しくないなと思ってたんですけど。妹は凄く喜んでいたので、この程度で良いなら自分は妹にもっと好かれるのでは!? と思い、料理を学び始めましたね」


「うーん」


【言い方ァ!】


【この女、人間の感情を持ち合わせていないのか?】


【そこに無ければ無いですねぇ】


【しかし悔しいが河合風香の飯は旨い。何度でも食いたくなる】


【天才で人間の感情分からないとか、もう化け物じゃん】


【世界が生んだ悲しきモンスター】


「なんか酷い言われ様だなー。あ。でも実際に作ってみたら、自分のご飯もそんなに旨く出来なかったんですよ」


「それで、その店の凄さを知ったとかでしょうか?」


「あー、いや。調味料って凄いんだなって」


【え? 今の何の話? どういう話?】


【いや、俺にもサッパリ】


【結局ディスられて終わってるやん。その店の料理人!】


【こういう発言ばっかりしてるから炎上が続くんだろうなぁって】


【料理人の癖に火の扱い下手すぎだろ】


【いや、全部燃やしてから考えるタイプの料理人なのかもしれん】


中々に厄介なタイプの人間だなと感じながら俺は進行する。


「ここで、河合さんにいくつか質問があるので、お聞きしても良いでしょうか?」


「はい。何でも大丈夫ですよ」


「河合さんがご自身のことで一番自信をもって、これは凄いと言える物は何でしょうか?」


【料理一択だろ】


【料理の才能以外の全てを捨てて、その才能だけで生きてきた女だぞ】


【いや、得意料理とかそういう話じゃないの? 一応料理以外も聞ける様にしてるけど、番組の優しさだろ】


河合風香は少し悩んだ後、自分でも納得したような顔で言い切った。


「やっぱり人望ですかね。私って人に好かれやすいんですよ」


「……?」


【???】


【言われた言葉が意味不明過ぎて杉原固まってんじゃん】


【もう放送事故だろ】


【むしろ何があって、そう思ってるんだよ】


「いやいや。だって私が出演すると、紗理奈ちゃんのお料理教室が視聴者増えるんだよ? それに、店にだって、毎日凄いいっぱい人来るし」


【そら。お前の腕が目当てなだけだろ】


【旨い飯作れるなら人格は関係ないからね】


「えー? おっかしいなぁ。人格に問題があるって、紗理奈ちゃんは私大好きだし。立花君とは親友なんだが? その辺はどうなのよ!」


【その二人に嫌われるって人類には不可能なレベルなので】


【そんな二人にギリギリな時点でお察しだろ】


【やはり人格は底辺レベル】


「はぁー!? 煩いんですけど!? 料理は愛情って言葉知らないの? つまり、私の料理が美味しいって事は私が愛情深いって事で、聖女みたいな人間だって事でしょ!? 頭悪いの―!?」


謎にコメントと喧嘩をし始めた河合風香を放置し、俺はどうしたものかなとその行く末を見守る。


正直話をするだけで非常に疲れる。


こんな事なら最初から疑われたとしても佐々木紗理奈を呼ぶべきだった。


彼女なら少なくとも会話が出来た。


今は後悔ばかりだ。


【料理は愛情ってスパイスレベルの話だろ】


【むしろ河合風香の愛情が入って神レベルの食事が人間に認知できるレベルまで下がっている説を推したい】


【愛情を捨てろ。河合風香】


「捨てるか! 私の愛を求めてる人たちが世界にはいっぱい居るんだから。聖女として捨てるわけにはいかないでしょ」


【聖女はん。思い出深いご飯屋さんに何かコメントあります?】


「あの料理でお金を取るのはもう詐欺だと思いますよ。反省してちゃんとした料理を作りましょう。いい加減なのは駄目です」


【鬼か】


【この様子じゃ、前に炎上した事件もマジなんだろうな】


【前に炎上した事件?】


【そう。河合風香が料理番組に呼ばれて、超有名な料理研究家に素人かと思いましたってコメントした奴。しかも、これ食べるならインスタントラーメン食べた方が美味しいですよ。って言って大炎上】


【あぁ、あれか。テレビのやらせかと思ったけど、こうして本人見ると言いそうだな】


「何の奴だろ。覚えてないや」


【二年前にテレビでやってただろ!】


【燃やされてんのに忘れんな!】


「んー。いつの事か思い出せない」


【そんな事あるぅ?】


「だってさ。インスタントのご飯って凄い美味しいんだよ。確かに昔はそんなでも無かったけどさ」


【いや、まぁそれはそう】


【なんだ。インスタント側の評価が高いだけか。やはり偏向報道……?】


「だから適当に具材混ぜただけの自称料理なんてインスタントと比べるのは失礼だよ」


【失礼なのはお前じゃい】


【やはり人間性を生贄に料理の才能を手に入れた女は違う】


【反省とか出来ないの? 今日日動物園の猿でも反省出来るよ?】


「いやいや。反省って。真面目にやってるって言いながら適当にやってる人ばっかりだから、こうやって言うんだよ。ちゃんと努力すればすぐ美味しくなるって。私だってそれで出来たんだから」


【神様って残酷だよな。なんでこんな才能だけのモンスターに感情を与えてくれなかったんだ】


【圧倒的才能に人間らしい感情を与えた聖人を作ると、立花光佑みたいに天運を失うぞ】


【ひどすんぎ】


【なら、今のまま旨い飯が食えるし良いかぁ。同職の方は犠牲になってもらうという事で】


【諦めればきっと楽になれる】


【なんて残酷な世界】


何やら落ち込み始めたコメントを見つつ、俺は適当に質問を重ねながら空気を取り戻す。


そして操縦不可能な暴走機関車を何とか枠内に収めながら俺は今日の配信を終わらせた。


元より朝陽に近づく話や佐々木紗理奈に関する話を踏み込むつもりは無かったが、そんな余裕も無かった。


地獄の様な配信だった。

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