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第3話『あえて夢咲陽菜と立花光佑に接触するのだ。』

佐々木和樹を絡めず、佐々木紗理奈へ接触する為には、やはり佐々木紗理奈が単独でやっている配信関係が良いだろう。


しかし、配信を確認したがチャンネル登録者が多い割に佐々木紗理奈もそこまでやる気がある訳でも無いらしく、配信は気分で行われている様だ。


そして、ゲストとして呼ばれているのも、夢咲陽菜か河合風香しかいない。


話した空気では、おそらく丸め込んでゲストとして出演する事や、個別に取材をする事も可能だろうが、最悪は本命に繋がる一手を失う可能性がある。


行動するには慎重にならなくてはいけない。


一番気軽に接触出来ると思いがちだが、佐々木紗理奈に気安く近づくと、虎の尾を踏むどころか、最悪獰猛な猛獣共の巣穴だったという事すらあり得るだろう。


あくまでさりげなく、近づかなくては。


しかし、そう考えるとすぐに河合風香に接触を図るのは少し露骨過ぎるな。


相手から目標を誤認させる必要があるな。と考え、ここであからさま過ぎる一手を打つことにした。


そう、夢咲陽菜に接触するのである。


ここまでの取材で、俺が立花家に関係する誰かの事を探っている事は知られているハズ。


ならばそれを逆手にとって、あえて夢咲陽菜と立花光佑に接触するのだ。


大野を切っ掛けとして佐々木に繋ぎ、本命たる夢咲陽菜。


まぁ、最大目標でも無いのに、夢咲陽菜へ接触するリスクはあまりにも高い。


わざわざそれをやる人間は居ないだろう。と思わせて、それをあえてやるのだ。


効果はある。


そう考え俺は夢咲陽菜への出演依頼をかけた。


アッサリと了承されたのは、俺の事を知っていたからだろうか。


大野加奈子からの警告も無し。


そう考えると、まだ不確定ではあるが俺の予定通りに進んでいる様に見える。


ならば、このまま上手く立ち回るとしよう。




夢咲陽菜との接触は恐ろしい程の速さで進み、俺は遂に夢咲陽菜と立花光佑に接触した。


まぁ、本命ではないと言いつつも、気にはなっていた二人だ。


情報も抜けるだけ抜く。


「こんばんは。突撃取材二十四の杉原です。そして本日のゲストはこのお二方! ご挨拶をお願いします!」


「はーい。世界のアイドル! 可愛いとこだけ集めた感じのヒナちゃんだよ! みんなよろしくね!」


「立花光佑です。特に私の事で言う事はありませんが、本日はよろしくお願いいたします」


「ご挨拶ありがとうございます。まさかお二人が出演をオーケーしてくれるとは思いませんでした」


【ホンマ】


【光と闇やもんな】


【言うほど闇か?】


【いや、まぁ少なくともテレビでも出来ん放送を何回かやってきたのは確かだろ】


【その全てがテレビの捏造への訴えばっかりだったから、どちらかと言えば正義側では】


【正義イコール光とは限らんって話じゃん?】


【まぁ少なくとも杉原の笑顔は胡散臭い】


【まぁ確かに】


「アハハ」


「まぁ笑顔は相手を威嚇する目的もあるらしいですから。恐怖を与えるというのは正解かもしれません」


「な、なるほど。勉強になります」


【立花。それフォローのつもりか?】


【お兄ちゃんも結構天然よな】


【大野の幼馴染だからな。その辺りも気が合うんだろ】


【これは加奈子ちゃんの気苦労が分かる様ですねぇ】


何だか既に妙な流れに巻き込まれている様な気もするが、気を取り直して話の主導権を取り戻しに行く。


「はい。では報道番組ですので、色々ホットなネタに触れていきますよ?」


「どんとこーい! 全部ノーコメントで返します!」


【どんとこいとは何だったのか】


【来い。相手をするとは言ってない】


【なんという自由人】


「では最初の質問ですね。夢咲さんと立花さんのご関係について。立花さんの事を夢咲さんは兄と言っていますが」


「実は将来を誓い合った恋人です」


「こら。陽菜。嘘を言っちゃだめだぞ」


「えぇー! 良いじゃん良いじゃん」


「良くないよ。心配するだろ」


「ぷー」


「はい。普通の兄妹ですね」


「大変仲が良い兄妹という事ですね。しかし、夢咲さんの母はこの人では無いか。と噂されている人物が居まして。夢咲里菜さんという方なのですが」


「うん。私のお母さんだよ。なんかファッションデザイナーやってる」


「あ。そうだったんですね。では立花さんは?」


「お兄ちゃんは立花家の人。昔から一緒に住んでるの。家族だよ。兄と妹。んで恋人」


「最後は違うでしょ」


「ぷー。気づかれた―」


【諦めない陽菜ちゃん】


【ついこの前それで立花ガチ恋勢に燃やされたのに、またやってるの笑うわ】


【まぁ陽菜ちゃんはアンチ程度じゃ怯まないし】


【そもそも一桁の時から最大のアンチ大野と戦ってるからな】


【そういやそうだったわ】


【歴戦の猛者じゃん】


「という事は義理の兄妹という事でしょうか?」


「いや、別に籍は移してないので、精神的な兄妹という所でしょうか」


「つまり結婚出来る」


「まぁ法律上はね。ただ精神的にはどうかなぁ」


「えぇー!? お兄ちゃん。陽菜の事嫌いなの!?」


「そんな訳無いだろう?」


「なら結婚出来るね」


「その二択はどうかなぁ」


【強い】


【陽菜ちゃんは相変わらず敗北を知らなそう】


【勝つまで戦うからね。そりゃ敗北知らずよ】


【最強の軍勢じゃん】


【最強の軍勢(一人)】


話を一瞬で持っていかれるが、こちらも負けない様に会話の隙を見つけて差し込んでゆく。


「夢咲里菜さんとはよく会話されるのですか?」


「うん。毎日電話してる。それに毎月なんか可愛い服くれる。それを写真に撮って送り返すと喜んでくれるから。まぁ良い関係なんじゃ無いかな?」


「父親については、何かご存じですか?」


「ぜーんぜん。お母さんも知らないって言ってたし。興味なーし。私のパパは幸太郎パパだけだから」


【うーん。なんか闇深】


【夢咲里菜ってあの美人だろ。大きくなった陽菜ちゃんって感じの人。父親はなんで捨てたんだろ?】


【いや、逆なのでは。里菜さんが父親を捨てた】


【なるほど? でも、そういう事情なら陽菜ちゃんに接触してきそうだけど】


【なんか接触禁止令とか出てるんじゃないの? それでって感じ】


【何をやらかしたらそんなの言われるんだよ】


【ストーカーとか】


【なんかいよいよ闇深な話になってきたな】


【美人は大変だよね】


俺は良い感じに話が夢咲里菜に向かっている事に安堵しつつ、その印象を強めてゆく。


あくまで俺は夢咲陽菜の秘密を探りに来た人間だ。


そう見える様にしたい。


「立花さんは夢咲里菜さんとはよく話すのですか?」


「まぁそうですね。陽菜の事で毎日というほどでは無いですが、よく話しますよ」


「えー。お兄ちゃん。ちゃんと陽菜は毎日可愛いよって言ってる?」


「あぁ。勿論」


「じゃあお嫁さんにしたいって言ってる?」


「それは言ったこと無いね」


「ぷー。じゃあお母さんから言うように言っておかないと」


「こら。里菜さんだって忙しいんだから困らせちゃ駄目だぞ」


「はぁーい」


【相変わらずブレーキがぶっ壊れてるな】


【なんか昔こういう玩具あったよな。壁にぶつかっても前に走り続ける車の玩具】


【あぁ。なんかあったわ。こうタイヤを逆回転させて走らせる奴だろ】


【まぁ確かに似てる】


「夢咲さんは立花さんと交際する事を望んでいるという事ですが、もし万が一成功した場合、配信活動はどの様にされるのでしょうか?」


【万が一で笑う】


【まぁ傍から見てても可能性は薄そうだし】


【それでも濁してやれ】


コメントを華麗にスルーしながら俺は夢咲陽菜に視線を向けた。


夢咲陽菜は特に困った様な様子も見せずに口を開く。


「うーん。どうしようかなぁ。このまま続けても良いし。お兄ちゃんだけのアイドルになっても良いよねぇ。紗理奈ちゃんとチャンネル合体して、ラブラブ奥様チャンネルとか作る?」


「それはどういう内容を放送するつもりなのかな?」


「そりゃ、お兄ちゃんとのラブラブ生活とか、紗理奈ちゃんと佐々木のラブラブ生活を配信するんだよ」


「需要はあるのかな」


「ある!」


【まぁ、少なくとも佐々木は見るだろうな】


【紗理奈ちゃんのお料理番組無くなると俺が死ぬんだが。夕飯どうすれば良いねん】


【他のチャンネル見ろよ】


【バッカ! お前! あの番組見ながら料理を作ってると、まるで一緒に料理してる気分が味わえるんだぞ。独り身なのに、まるで新婚みたいな気分になれる】


【相手既婚者ですけど】


【むしろあの童顔で幼い立ち振る舞いで人妻って良いよな。逆に興奮するわ】


【なんか佐々木が初めて憎々しく思えてきたぞ】


【ワイも紗理奈ちゃんと結婚したいだけの人生だった】


【来世に期待しろ】


【来世に紗理奈ちゃんは居ないんですが、それは】


まぁまぁ良い流れになったなと思いながら俺はさりげなくその質問を差し込む。


「そういえば夢咲さんは佐々木紗理奈さんの配信にもちょくちょく出演されているとか。料理配信だと聞いてますし。夢咲さんも料理は得意なのでしょうか」


「う」


【あーあ。地雷踏んじゃった】


【地雷ってか。陽菜ちゃんが全面的に悪いだろ】


【料理配信にアイドルが出演して、紗理奈ちゃんに甘えてご飯を食べさせてもらうだけだとは口が裂けても言えまい】


【全部言ってんだよなぁ】


「……コメントを見て察しました」


「うぅ。だってお兄ちゃんのが美味しい料理作れるもん! プロより凄いの作れるんだもん!」


「そうなのですか?」


「いやいや。私なんてまだまだ。素人料理ですよ」


【お前が素人なら、プロを自称してる料理人の半分は素人になるわ!】


【プロの料理人を何人も唸らせてる立花光佑が何か言っとる】


【この自己肯定感の低さは何なの? 化け物が人間のフリをしている様にしか見えんのだが】


【お兄ちゃん。しっぽが見えてますよ】


「だそうですが」


俺はコメントを見ながらその流れを立花光佑に伝える。


「まぁ陽菜はお兄ちゃんがなんで素人素人って言ってるか知ってるけどねー」


「ほう。是非教えていただけますと」


「ふふん。それはね。紗理奈ちゃんの師匠との料理対決に負けてるから! だよ」


「……まぁね」


「気にしなくても良いと思うけどなぁ」


「まぁ、俺も色々あるんだよ」


立花光佑は珍しく、少し苛立ったような様子を見せた。


それは嫉妬をしている様にも見える。


【あー。なるほど。紗理奈ちゃんの師匠って事は河合風香か】


【河合風香とは?】


【天才料理人】


【一口食べただけでそれの上位互換を作るプライド砕きの女】


【某国の王族が河合風香の料理が食いたくて、王族に近い人間だけが参加出来るパーティーの招待状を送ったとかいう、シンプルに頭のおかしい伝説を持つ女】


【なお】


【河合風香「紗理奈ちゃんの配信あるからいけないわー。メンゴメンゴー」】


【ちょっと何言ってるか分からないんですけど】


【あの一瞬マジで国際問題になりかけたらしいぞ】


【まぁ紗理奈ちゃんに怒られて、結局一緒に現地で配信したからセーフ】


【ホンマか?】


ちょうど良いなと思いながら俺はその一言を発した。


「中々凄い人物の様ですね。私も機会があれば取材の依頼をしてみましょうか」


そう。これはあくまでこのチャンネルから聞いた話として行くだけだ。


佐々木紗理奈に繋がる話だと気づかれる訳が無い。


そして、そんな予想の通り、特に気づかれた様な反応は見えなかった。


さらにコメントでは楽しみにしているという発言が目立つ。


理由は出来た。


いよいよ河合風香に接触するとしようか。

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