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死にたがり魔族の逃避行  作者: 米奏よぞら
第一章(アロヴィン編)

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03.衝突と邂逅

  今度は寄り道をせずに宿へ直行し、空腹を訴えるルーカスのために即席でもやし炒めを作った。細切れ肉やピーマンなども混ぜてはいるが、もやしでかなりかさ増ししているため、白い塊にしか見えない。

  テオドールは見た目より量を重視する少年だった。


「最近もやし食べすぎて、夢でも出てくるようになったんだけど」


「あと二日はこれで我慢してください。そうすれば、余ったお金でもう少し高級なものが食べられますから」


  思わず苦笑を漏らすと、ルーカスは無言で大盛りのもやし炒めを食べ始めた。さっきのことは幻覚だったのかと疑いたくなるほど、彼はいつも通りの態度に戻っている。


「あの店はね、魔法学校に通っていた時専属護衛とよく行っていたんだ」


  さらっと告げられた内容に思わず耳を疑った。


(あのルーカスが、自分から過去の話をするなんて……)


  それに加えて魔法学校だの専属護衛だの、気になる単語が一気に出てきたため、脳が処理しきれそうにない。


  驚愕に目を見開いていると、ルーカスは優しく微笑んだ。


「テオドールはどことなく、その専属護衛に似てるよ」


「…………どんな方、だったんですか?」


  突然の変化に困惑しながらも、おそるおそる尋ねる。

  するとルーカスは穏やかな表情で、昔を懐かしむように目を細めた。


「……すごくかっこいいのに女運が悪すぎて、彼女ができたら絶対に浮気されて泣き寝入りするような男だった」


「そんな残念すぎるイケメンに似てるって言われても、全然嬉しくないんですけど……」


  小さい呟きが聞こえたのか、ルーカスが声を上げて笑う。今日の彼は、本当に機嫌がいいらしい。

  本来であれば喜ぶべきことなのに、テオドールの心には大きな不安が押し寄せていた。


(俺もいつか、捨てられるのかな……)


  そこまで仲の良い専属護衛がいたのに、何らかの事情でルーカスはその関係を絶ったのだ。揺るぎない事実が彼の心に重くのしかかった。


「初めて来る街の宿で、『もやし炒めを作りたいので厨房をお借りしてもいいですか?』って言える神経の図太さとか、本当にそっくりだよ。それと、…………こんな僕の傍にいてくれるところも」


  自虐的な笑みを浮かべるルーカスを見て、無意識に唇を噛み締める。


「テオドールに助けてもらったことは、とても感謝しているよ。でも君のことを考えるなら、これ以上僕には関わらない方がいいと思う。だから、今回の依頼が終わったら」


「っ、ルーカスのわからず屋! 俺が一緒にいるのは、義務だとでも思ってんの!?」


(違う。俺が伝えたいのは、こんな言葉じゃない)


  そう思い訂正しようとするが、何かが喉に引っかかって嗚咽の声を漏らすことしかできない。


  驚いたような顔をするルーカスに泣き顔を見られたくなくて、咄嗟にその場から逃げ出した。




♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢




  宿を出てからは、大通りの人混みを掻き分けるようにしてただ只管に走った。そして気がつくと、全く知らない場所まで辿り着いていた。


「どこだ、ここ……」


  慌てて辺りを見渡すと、長身の男が視界に入った。紺藍色の髪で非常に整った容姿の彼は険しそうな表情をしている。

  普段であれば遠慮していたが、今のテオドールにとっては死活問題であり、迷っている暇はなかった。


「あの、すみません。道をお聞きしたいのですが」


  テオドールが必死な形相で声をかけると、男は驚いたような顔をして足を止めた。


「ご家族とはぐれたんですか?」


「……まあ、そんな感じです。大通りまでの戻り方が分からなくて」


「そこなら丁度私も向かうところですから、一緒に行きましょうか?」


  子供相手なのに丁寧な口調と柔和な笑みで対応してくれるイケメンに、テオドールは内心たじろいだ。日常的に接している顔の良い男がかなり面倒くさい性格をしているため、完璧なイケメンを目の前にして困惑してしまう。


「あ、えと、ご迷惑じゃなければ、宜しくお願いします……」


  しどろもどろに答えると、イケメンは爽やかに了承してゆっくりと歩き出した。


「イケメンさんは、アロヴィンの方ですか?」


  興味津々に尋ねると、彼は愛想の良い笑みを浮かべる。


「いえ、数年前に少しの間住んでいただけですよ。今日は人探しに来たんです」


「じゃあ、俺もお手伝いしますよ!どうせ夜まではやることないので」


「それはとてもありがたいです。では、黒髪黒眼の魔族の青年を探していただけますか?」


  心当たりがありすぎる特徴に驚いて、すぐに返事をすることができなかった。

  イケメンな彼がなぜ陰湿なルーカスを探しているのか。

  そもそも敵か味方かも分からないため、安易に情報を与える訳にはいかない。


「……黒髪黒眼の魔族なんて見つけて、どうするんですか?」


  あくまで自然を装いながら尋ねると、突然イケメンの眼光が鋭いものに変わった。


「しばきます」


「………………ルーカス・カディオさんのことなら知ってますよ」


  これはイケメンが彼の味方だと確信したから白状したのだ。決して先程の腹いせがしたかったわけではないことだけは心から主張したい。



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