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死にたがり魔族の逃避行  作者: 米奏よぞら
第三章

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25.ジコチュウの目的

 心底気に食わないといった顔で殺気を放つイザヤを諫めたのは、彼に白い眼を向けたフリードリヒだった。その表情には”呆れた……”という文字が見えるようだった。


「一応警告しておくけど、アイザックを殺したら、ルーカスに一生恨まれるからな」


 弟の言葉に、イザヤははっとしたように殺気をおさめて、実に悔しそうにする。

 ルーカスLOVEな彼にとって、おそらくそれは死刑宣告と同等のものだったのだろう。


「む、それは敵わんな。世界一愛らしい天使に嫌われるなど、考えたくもない」


「本気でそう思うなら、今後一切ストーカー行為するなよ」


「それは、お前が私から観賞用の水晶玉を取り上げたからだろう。私は上級魔法が使えないから、アレがないと天使の姿を拝むことすらできないのだぞ。これがどれほど罪深いことか、分かっているのか?」


 ここぞとばかりに釘を刺すフリードリヒに、イザヤが大真面目な態度で反論する。

 ”観賞”や”拝む”というなんだか怖い単語が聞こえてきたが、思案するテオドールの気に止まることはなかった。


(魔族なのに上級魔法が使えないって、どういうことだ……?)


 テオドールの知る限りでは、魔族は、魔法を操ることに特化した種族だ。その最大の特徴が、勇者パーティーの魔法使いクラスをもはるかに上回る、圧倒的な魔力量だ。

 あまりに膨大な量ゆえに繊細なコントロールは苦手と聞くが、彼らにとって最上級魔法程度は序の口のはずである。

 魔王の血を引いているというポテンシャルも考えると、イザヤの話は到底信じられるものではなかった。


「分かるわけないし、分かりたくもない。……そんなことばかりするから、ルーカスにも懐かれなかったんだろ」


「ぐっ……! 私より天使の信頼を得ていたからと、調子に乗りおって!」


 不愉快そうに麗しい顔を歪めるイザヤに、素知らぬ顔でそっぽを向くフリードリヒ。だが、どことなくルーカスに似た顔立ちは、マウント勝ちの喜びを纏っていた。


(結局、二人ともルーカスのことが可愛くて仕方がないんだろうな)


 こっそり微笑ましい気持ちになりつつ、さりげなく彼らから視線を外すと、気の抜けたような表情をしたアイザックが目に入った。

 ブラコンな兄たちをぼんやりと眺めていた彼は、やがて口角を僅かに持ち上げたのち、再び憂鬱そうに俯いてしまう。先程イザヤに言われたことを、より一層気にしているのかもしれなかった。


 自責の念に苛まれているようなアイザックの姿を見て、テオドールは思わず駆け寄って声をかける。


「あの、アイザック様……」


「……申し訳ございません、テオドール様にはお恥ずかしいところを見せてしまいましたね。……分かっているんです、ルカ様が好き好んで俺たちを拒絶しているわけではないということは」


 そう言っていつも通りの笑みを貼り付けようとするアイザック。それは彼を心配するテオドールを安心させようとする優しさからのものなのか、はたまた彼自身に自分は大丈夫だと言い聞かせるための行動なのか、テオドールには分からなかった。

 しかし、外面だけを取り繕ったようなその表情はひどく苦しそうに感じられた。


「ふん、そもそも貴様は以前から天使との距離が近すぎたのだ。此度のこともそのバチが当たっただけに過ぎん」


 いつの間にか静かになってこちらの会話を聞いていたイザヤが、不機嫌を隠そうともせずに毒を吐く。

 精神的に弱っているアイザックをそこまで攻撃する理由が分からず、テオドールは無意識に眉根を寄せた。

 すると、またもやそんな彼を見かねたフリードリヒが面倒くさそうに口を開く。


「おい、男の嫉妬は醜いぞ」


 若干の怒気を含んだ低い声に、イザヤは今度こそ黙り込んで、すっかり大人しくなってしまった。

 フリードリヒに怒られたからというよりは、図星を突かれたことで反論する術がなかったようだ。


(アイザック様はルーカスとかなり仲が良かったみたいだから、それに嫉妬してたってことか? そうだとしたら、流石にとばっちりが過ぎるだろ……)


 じとーっとした目でイザヤを見ると、気まずそうに視線が逸らされる。一応、本人もやりすぎな自覚はあるらしい。


 そんなテオドールたちを横目に、フリードリヒはアイザックの傍まで歩み寄り、そっと彼の肩に手を置いた。そして、複雑そうな表情にほのかな慈愛を滲ませて、塞ぎ込んだ彼に語り掛ける。


「――全部、魔王が悪いんだ。お前がルーカスや自分を責める必要は全くない」


 優しさに溢れた言葉を聞いて驚いたように、アイザックが僅かに顔を上げる。

 しかし、フリードリヒの思いの吐露はそれだけでは終わらなかった。


「黒魔法の覚醒なんてくだらない目的のために、小さな子どもの心を歪ませるようなことばかりしやがって……」


 仄暗い赤色の瞳に憎悪をみなぎらせる様子に、テオドールはおそるおそる懸念事項を口にする。


「魔王は、ルーカスを手駒にして、人間界に攻め込んでくるつもりなのでしょうか?」


 魔王があらゆる手を尽くしてでもルーカスの黒魔法を覚醒させようとした理由は、最早それくらいしか思い浮かばなかった。

 しかし、意外にもフリードリヒはきっぱりと首を横に振って否定する。


「いや、ただの復讐だよ。……自分を捨てた寵妃――ルーカスの母親へのな」


「え……?」


 淡々と告げられた衝撃的な内容は、テオドールの思考を完全停止させるのに十分な威力を持っていた。





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