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死にたがり魔族の逃避行  作者: 米奏よぞら
第二章

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14.アフターストーリー

「フェリクスは僕を本当の息子のように扱ってくれたんだ。彼の過保護が働いて、僕につけられた専属護衛がアイザックだよ」


「え、お前のことを鍛えてやると仰られていたのに、専属護衛がつけられたんですか……?」


「うん。どんどん過保護が加速していって、最終的には思春期の敵みたいな存在になってた」


 うえー、という顔をするルーカスに、思わず吹き出してしまう。

 勇者に猫可愛がりされて全力で拒否するルーカスの姿は容易に想像できた。



「───でもね、多分全部、偽物なんだ」


 憂いを帯びた黒い瞳を不安そうに揺らすルーカス。

 その姿は哀愁が漂い、触れたら壊れてしまいそうだった。


「……偽物って、どういう意味ですか?」


 できるだけ冷静な声で問いかけると、ルーカスが悲しそうに目を伏せる。


「フェリクスたちに関する記憶は、全て幻だったんだよ」


「はあ?」


 ますます理解不能なことを言い始めた彼に、思いきり眉根を寄せた。

 しかし、ルーカスの話は構わずに続けられる。


「魔界を追放された後は、シャルル……第一王子の幻覚魔法にかかっていたんだ」


「……仮にそれが事実だとしたら、アロヴィンの食堂前でお会いした方やアイザック様はどう説明するんですか?」


 彼らの気持ちを無視したような発言に対する怒りがふつふつと込み上げてくる。

 二人ともあの時までルーカスのために心を酷く痛めていたはずだ。

 それにも関わらず、当の本人はこの意味不明な理由から拒絶したというのか。

 ベッドから体勢を起こして厳しい目を向けると、彼は途端にしおらしくなる。


「ワーグナーに声をかけられた時は、僕も『ルーカス・カディオは幻じゃなかったんだ』って喜んだよ。……けど、シャルルの幻覚魔法にかかっていない保証もないし」


「あーもう! さっきからそのシャルルという男に囚われすぎなんですよ! そもそも、どうして第一王子はそんなことをしたんですか!?」


「……僕の中に眠っていた黒魔法を、目覚めさせるためだよ」


 抑揚のない声からは、何の感情も読み取れない。

 その時、テオドールの頭に一つの仮説が浮かんだ。


 もし、黒魔法覚醒の引き金が"絶望"のような、大きな負の感情であるならば。


 信じていた実の父親に掌を返されて、魔界から追放されたこと。

 そして、漸く手に入れたと思った幸せが虚構だったこと。


 第一王子の狙い通り、ルーカスが残酷な現実を目の前にして絶望し、黒魔法に目覚めたのであれば。


 黒魔法は、誰かの命を奪うことしかできない魔法だ。


 とても心優しいのに、それ以上に不器用な彼は、何を思うだろう。


『……ルーカスのことを大切に思ってくれる人がいるのに、どうして死のうとするんですか?』


『───大好きな存在を、守るためだよ』


 今まで散らばっていたピースが繋がり、思わず言葉を失った。



「…………テオドール。どうしたの?」


 ぎこちなく抱きしめられて、背中を優しい手つきで撫でられる。

 その温もりに、自然と熱い涙が溢れた。


「ルーカス。死ぬ前に、黒魔法を無効化できる方法を一生懸命探してみませんか……?」


 テオドールより大きな背中におそるおそる手を回すと、彼の身体がびくりと震える。

 それでも抱擁が解けないのは、お互いに孤独の寂しさを知っているからだろう。


「どうしても死にたいというのなら、俺も一緒に死にます」


「え、な、なんで?」


「こう言えば、ルーカスはこれから簡単に"死ぬ"という言葉を使えなくなるでしょう?」


 にこっと笑ってみせると、ルーカスが困惑したような顔をする。


「どうして、そこまで」


「それが分からないところとか、色々と放っておけないからですよ。俺は母から"お節介すぎる"という長所を受け継いでいるんです」


「……いつか、黒魔法で痛い思いをさせるかもしれないし」


「うじうじうるさいですね。男に二言はありません!」


 ぱっと身体を離すと、いそいそと毛布のなかへ戻る。

 少し恨めしそうなルーカスは見ないようにしながら、おずおずと口を開いた。


「自分で言っておいてなんですが、ルーカスは無効化する方法に心当たりはありますか?」


 ちなみにテオドールは完全にお手上げだ。

 なにせ、黒魔法のことも詳細は何一つ分からないのだから。

 ちらっとルーカスの顔を伺うと、真っ黒な瞳がこちらを見下ろしていた。

 縋るような気持ちで見つめていると、すぐに視線は逸らされる。


「ないことはない、けど」


「何かあるんですか?」


「黒魔法についての情報を持ってる可能性が高い魔法書があるんだ」


 妙に回りくどい言い方を疑問に思いつつも、テオドールは目を輝かせた。

 彼はれっきとした魔法オタクだった。


「この世にそんな魔法書が!? 一体どちらにあるんですか!? まさか、魔界ですか!?」


「ちょっと、一旦落ち着いて。……魔法書があるのは、カディオ邸だよ」


 その答えに、テオドールの思考が一時停止する。


(これまで散々アイザック様を拒否してきたのに、今更カディオ邸へ赴くってことか……?)


 同じことを考えているのか、ルーカスも渋い顔をしていた。


 しかし、どれだけ厚かましいことでもやり遂げなければいけないのだ。


 それが、ルーカスを救うための唯一の方法なのだから。



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