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死にたがり魔族の逃避行  作者: 米奏よぞら
第二章

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12.デレのターン

 目を覚ますと、見慣れない部屋のベッドの上に横たわっていた。

 そして何故かルーカスがテオドールの右手を握り、静かに眠っている。

 しかし、その掌から黒い染みは綺麗に消えていた。


「ルーカス……?」


 何があったのかと疑問に思い呼びかけると、ルーカスがはっとして起き上がった。


「テオドール、目が覚めたんだ。良かった……」


 今にも泣き出しそうな顔で優しく抱きしめられて、本気で困惑する。


(誰なんだ、この男は)


 完全に硬直してしまったテオドールに構わず、ルーカスにそっくりな魔族は涙声で話を続けた。


「一週間以上眠ったままだったから、すごく心配した……」


「……ぇ?」


 驚きを口にしようとするが、喉が枯れて声を出すことができない。

 思わず顔を顰めていると、ルーカスがぱっと身体を離した。

 そして微かな温もりを名残惜しく思うテオドールに衝撃的な言葉がかけられる。


「そっか、喉乾いてるよね? すぐに水持ってくるから、ちょっと待ってて!」


「は……?」


「あ、あと、お粥も作ってみたんだ。少し焦がしちゃったんだけど、…………食べる?」


 こてんと可愛らしく首を傾げるルーカス(十八歳の男)。

 その請求力に耐えられず無言でおずおずと頷くと、彼の顔がぱっと明るくなった。


「絶対にそこから動かないでね!」


 風邪を引いた一人暮らしの彼氏の家に看病にきて色々と世話を焼こうとする彼女って、こんな感じなんだろうか。

 あまりにも信じがたい光景を目の前にして、そんなことをぼんやりと考える。


 暫くしてルーカスが運んできたお盆には、水の入ったコップと、焦げ目の見えるお粥がよそわれた器がのっていた。


 おそるおそるコップを手に取り、水を口に含むと普段より何倍も美味しく感じられた。


「このたまご粥は、自信作なんだ」


 ちら、と期待するような目に促されて、大きなスプーンでお粥を少量掬う。

 それは不思議と、幼い頃に母が作ってくれたものを彷彿とさせるような温かみがあった。


「……美味しいです、とても」


「良かった。アイザックに嫌味言われながらも教わったかいがあったよ」


 ふんわりと笑うルーカスの言葉に、スプーンをもつ手が止まった。

 ふと意識を失う前の光景が思い返される。


「……もしかしてアイザック様が、俺をここまで運んできてくださったんですか?」


「うん。めちゃくちゃ怖い顔して、怒られたよ」


「怒られ、たんですか……? どうして?」


「『これほど健気なテオドール様を大切にできないのなら、カディオ邸で引き取って思いきり甘やかして育てます!』って。…………ごめんね。テオドールが体調悪かったのに気づけなくて」


 心底反省しているようなルーカスの態度に、思わず目を丸くする。

 これまでのルーカスを"ツン"とするなら、今のルーカスは完全に"デレ"だ。


 殆ど初対面のアイザックに心配されてしまった。

 それがなんとなく恥ずかしくて、嬉しい。


 でも、テオドールはまたルーカスと一緒にいる。

 この現実が示す答えは、問いかけるまでもなかった。


 頭では冷静に状況を整理できるのに、何故か胸の内で熱い思いが溢れて呼吸が浅くなる。


(これくらいのことで嬉しいなんて、チョロすぎるだろ……)


 突然泣き始めたテオドールを前に、ルーカスが動揺したようにおろおろする。


「ご、ごめん。まだ体調わるくてつらいはずなのに、色々と話しかけて。もう黙るから、ゆっくり休んで」


「違い、ますよ。……ルーカスがアホすぎて、泣けてきたんです」


「え、それどういう意味?」


 何も分からずに困惑した様子のルーカス。

 テオドールは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている顔を見られたくなくて、そっぽを向く。


「……『ルーカス・カディオ』って、誰なんですか?」


 おそるおそる尋ねると、ルーカスは息を呑んだようだった。

 しかし暫く待っても返答はなく、思わず大きな溜息がこぼれる。


(やっぱり、何も変わってない)


 半ば諦めたような気持ちになりながら口を開きかけた時、震えたような声が耳に届いた。


「……『ルーカス・カディオ』は、生きる意味を見失って死のうとしていた僕に、フェリクスがつけてくれた名前なんだ」


 はっとしたように振り向くと、そこには儚い表情をしたルーカスがいた。

 過去を懐かしんでいるはずなのに、哀しみや切なさが滲んでいるように見える。


「フェリクスって、勇者フェリクス・カディオのことですか?」


 前のめりに問いかけるテオドールに、ルーカスが苦笑する。

 そっと優しい手つきでベッドへ押し戻され、毛布をかけられる。


 正直身体は健康そのもので眠気も全くなかったが、これ幸いと弱っているふりをしておく。


「ルーカス。俺の寝落ちするまででいいので、フェリクス様と出会った時の話を聞かせてください」


 寝落ちる気は更々ありませんが、と心の中で付け加えた。

 その一方で、デレモードを発動したルーカスは穏やかな顔つきでテオドールの頭を撫でる。


「話を聞きながらの方が落ち着いて眠れそう? 言っておくけど、あまり面白い内容じゃないよ」


「大丈夫ですよ。面白かったら、むしろ目が冴えてしまいますから」


「それもそうだね」


 静かに頷くルーカスを見て、毛布の下でガッツポーズをする。

 そうとは知らない彼は顎に手をあて、何やら考え込んでいた。


「アロヴィンでした魔族の話は、覚えてる? あれがフェリクスに出会う前のアーデルハイドの話なんだけど」


「アーデル、ハイド……?」


「うん。…………とっくに捨てた、過去の名前だよ」


 吐き捨てるように言うルーカスの横顔は、ひどく苦しそうに歪められていた。



いつも「死にたがり魔族の逃避行」を読んでくださり、誠にありがとうございます!

意外にも応援してくださる方が多くいらっしゃって、とても嬉しいです。

これからも頑張らせていただきますので、引き続きルーカスたちの物語を見守ってくださると幸いですm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
 最新話まで読ませていただきました。  徐々に明かされてきたルーカスの過去ですが、遂に核心に触れる時が来るのかとワクワクしてきました。  これからも応援しています!
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