11.テオドールの夢
テオドールの父親は、彼が生まれる前に病気で亡くなったという。
それでも母親は強く生きて、一人息子に沢山の愛情を注いでくれた。
生活は貧しかったけど、毎日笑顔が絶えなかった。
父親は地元ではかなり有名な魔法使いだったらしい。
絵本の登場人物に過ぎないと思っていた憧れの存在になれるかもしれない。
父の才能と母の努力家精神を存分に受け継いだテオドールは、あっという間に魔法の虜になった。
村で魔法を扱える人間はいなかったから、全て独学で突き進むしかなかった。
亡き父の書斎で膨大な数の魔法書を読み漁り、ひたすらに腕を磨いた。
寝る間も惜しんでやっていたから当然他の子どもたちからは色々言われたけど、何とも思わなかった。
(最上級魔法まで扱えるようになったらそこそこ稼げるようになるし、お母さんを楽にさせてあげられる!)
そして十二歳になって数日が過ぎた頃、ついに光属性の最上級魔法が成功した。
小さな光の粒子が降り注ぐ幻想的な景色を前にして、生まれて初めて嬉しさから込み上げる涙を流した。
「お母さんにも、早く見せよう!」
軽い足取りで家へ戻ると、玄関に見知った女性が焦った様子で立っていた。
彼女はテオドールの姿を認めると、慌てて駆け寄ってきて力強く抱きしめる。
「テオくん、落ち着いて聞いてね。実は、お母さんが───」
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大好きな母親が亡くなってからは、とにかく生きるのに必死だった。
村の大人たちに心配をかけないように、常に愛想笑いを浮かべて生活した。
それでも一人の夜はやっぱり寂しくて、枕を濡らしながら寝ることも少なくなかった。
あんなに夢中になっていた魔法も、無意識のうちに避けるようになった。
(家族も、友達もいない。それなら、何のために生きたらいいんだ……?)
村はずれの道でぼんやりと考え込んでいたテオドールの歩みが止まる。
その視線の先には地面に突っ伏して倒れている人の姿があった。
慌てて駆け寄りしゃがみこんで声をかける。
「あの、大丈夫ですか?」
黒いローブのフードを真深に被っているため、表情は分からなかったが、血色感のない唇が僅かに動いた。
しかし掠れた声で音量もないため、うまく聞き取ることができない。
「もう一度、言ってください!」
耳に手を当てて再び尋ねると、今度は中低音の声が比較的はっきり聞こえた。
「食べ物を、恵んでほしい……」
突如強い風が吹き、彼の頭からフードを取り去る。
思わず見惚れそうになるほどの美貌に映える黒髪黒眼。
その姿はかつて絵本で見た初代魔王の特徴と完全に一致していた。
テオドールが言葉を失っている間に、力尽きたように目を閉じる魔族の青年。
────これが、長い旅を共にするルーカス・カディオとの出会いだった。
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ルーカスが孤独だと知った時、心のどこかで淡い期待を抱いていたのかもしれない。
母譲りのお節介が発動して同行を願い出たつもりだったが、そこには仄暗い下心もあったのだ。
『秘密主義の彼を詮索するつもりはない』なんて言って、いつも物分りのいい子どものふりをしていた。
だって、ルーカスに捨てられたら、俺の居場所はどこにもないから。
アロヴィンでアイザック様がきつく拒絶された時も、本当はほんの少しだけ、嬉しかったんだ。
それなのにアイザック様はシストラまで主を追ってきて、今度はルーカスのお兄さんっぽい魔族もいた。
この二人は、俺が知らないルーカスの良き理解者なのだろう。
勝手に懐いて浮かれていたのは俺だけだと、見せつけられたようだった。
(なんだよ……。俺が入れる隙間なんて、最初からなかったんじゃないか……)
テオドールにとってルーカスは唯一の存在だが、ルーカスにとってテオドールは───




