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最低王国、最低少女。

『俺達、二人になっちまったな……』

「……うん。」


 ここは戦場。魔法軍は私とアラン以外、全滅してしまった。


 ここまでずっと続いてきた戦いの中で、精鋭が生き残り続けてきた。その人達は、超広範囲な炎魔法のトラップに身を焼かれて死んでしまった。他の人を守ろうしたが、ダメだった。自分の身を守る事で必死だった。


 アランは、とても優秀な魔法使いだ。私が天才なのであれば、彼は秀才だ。魔力量は一般的に少し多いくらい。だけど、彼は魔法の操作や魔力量の管理に長けていて、上手く立ち回ることで戦争でも大いなる活躍を遂げた。だから今回も、生き残れた。


 私は人間兵器として味方にも怖がられてきた。だけど、彼だけは最初から仲良くしてくれた。


 二人で、あたり一帯の焼け野原と、仲間の焼死体を見て呆然としていた。


『俺達で、生き残って故郷に帰ろう。きっと俺達なら勝てる。』

「うん……そう、だね。一緒に頑張ろう。」


 私がアランに微笑んだその時、アランの体は焼けていた。


 相手を全員倒した。そう思ったんだ。思い込んでいたんだ。敵の一人が、死ぬ間際に炎魔法をアランに対して唱えたのだ。


 すぐにアランに水魔法と治癒魔法を唱えた。私の魔力を最大限に込めて。


 それでも、無理だった。アランはそのまま死んだ。私はただ、アランが母親と一緒に撮った写真と共に、消えていくのを見ていることしか出来なかった。


 ***


「……っはぁ!」


 どうやら戦場の夢を見ていたらしい。もちろん実話だ。


 久しぶりに少しだけ眠れたと思えば、最悪の目覚めだ。


 私は重い体を引きずって、朝の身支度を終えた時、国王からの手紙が届いた。


 内容を見るとそれはまぁ酷かった。


 国に勝利をもたらしてくれてありがとう。報酬だ。

と、だけ。労いの言葉も無ければ謝罪の言葉もなかった。どうやら国王は語彙力も人の心も持ち合わせていないようだ。


 手紙と一緒に送られてきた報酬の入った袋を開ける。一生遊んで暮らせる程の額はなく、三年間働かずに生きていけるくらいの金が入っていた。


 命を懸けて戦ったのにこれだけ。怒りが込み上げそうになったが、国も戦争に国家予算をつぎ込んだんだ。これが精一杯なんだろう。……そう思ってないとおかしくなりそうだ。


 というかそもそも、こんなものを郵便で届けるものでは無い。本来であれば国王が信頼を置く人間に届けさせるものではないのか?……まぁこれも、戦争の後処理で大変だったんだと思っておこう。


 この国の上層部はとにかく腐っている。九歳の私を戦場に立たせるくらいなのだから。


 本当に吐き気を催す…吐き気を……


 戦争中に何度も味わった感覚に襲われる。私は咄嗟にトイレへ駆け込んだ。

 

「オエッ……」


 私は前世の年齢も合わせると二十五歳だ。精神年齢的には既に大人である。だとしても、人を大量に殺したんだ。夜もまともに寝られない。その上、ここまで不誠実な態度を取られたんだ。ストレスが溜まって仕方がない。


 私は、前世でなにか悪い事をしたのか?病室でほぼ一生を過ごしただけじゃないか……


 幸せを望んだだけだった。健康な身体で、皆のように元気に生きたかった。ただそれだけだったのに。


 異世界へ飛ばされて、魔力を大量に持った健康すぎる身体を手に入れた。とても幸せだった。戦争が起こるまでは。


 ……こんな事を考えても幸せにはなれない。今日はもう寝よう。


 ってあれ、手が痺れて……唇も……胸が苦しい……あ、これヤバいやつだ。


 私はそのまま気を失った。


 ***


 ……ここは、病室?


 目の前に女の子が座っている。ポニーテールと眼鏡が特徴の、可愛いらしい女の子。この子は……美香だ。


 美香は前世の私の……友達だった。よくお見舞いにも来てくれた。懐かしい。ん?なんで私はここに居るんだ?


 周りを見渡そうとすると体が動かせない。喋ろうとしても、喋れない。一人称視点の映画を観ている様な気分だ。


『美香にはどうせ分からないよ!』


 勝手に私が喋った。……これは、あの日の記憶?


「分かんないよ!分かんないけど……だけど…夏鈴ちゃんの事助けてあげたい!夏鈴ちゃんの笑顔をもっと見たい!」


 夏鈴(かりん)、私の前世の名前だ。


『ならさ、その体を私に頂戴よ!その健康な体を!』


 大きくキンキンとした声がする。私の弱々しい体から発せる、限界の声。


 この時の私は、自分の体のことを恨んで、人や物に当たり散らかしていた。


「それは無理だけど……でも!」


 この年代の子が出せる精一杯の勇気を振り絞って、美香は話そうとした。


『他に何ができるんだよ……それ以外、なんもいらねぇんだよ……』


 私は遮った。聞く耳を持たなかった。健康に暮らせている美香が、私の気持ちなんてわかるわけが無い。助ける事なんて出来るわけがない。


「……私は、夏鈴ちゃんを幸せにしたいの。」

『どうしてそこまでするんだよ……』

「それは私が……私が夏鈴ちゃんの事、好きだからだよ。」


 美香は涙を堪えて、そう言った。


『そうかよ……そうだよな!どうせろくな理由なんてなくて、そうやって親友だからとかくだらねぇ言い訳で人の心に踏み込もうとすんだよな!どうせカスみたいな自己満足で……』


 頬に痛みが走る。美香が、私を叩いた。


 じんじんとした痛みに耐えながら、また最低な言葉を吐こうとした。美香の顔を見て、それは引っ込んだ。


 美香は今までに見た事の無い、言葉で表せない顔をしていた。悲しみ、悔しさ、怒り、全ての負の感情が混ざり合い、とてもとても苦しそうだった。涙を流し、声すらも思うように出せないのだろう。


 この時の腐っていた私も、流石にまずいと思った。私は咄嗟に口を開こうとした。


『ご…ごめ』

「もう……二度と来ないから!」


 美香は、食い気味でそう言い病室のドアを力強く閉めた。


 私は、取り返しのつかないことをしてしまったんだと。自己嫌悪に陥った。


 美香はこの後、何度か手紙をくれた。きっと、どうにかして仲をなおそうとしたんだろう。本当に、本当に優しい子だ。


 だけど、私は一度も見なかった。とてつもなく、気まづかった。申し訳なかった。苦しかった。

 

 私は、逃げたのだ。ここから一度も美香と関わらず、死んだ。


 ***


 目を覚ました。体も動かせる、異世界に戻ってきたようだ。


 とてつもない量の汗をかいている。最低な、悪夢にうなされていた。かなり長い時間気を失ってたようだ。外はもう暗くなっていた。


 ここは病院のようだ。子供の頃からのかかりつけの病院だ。おじさんの先生が優しく診察をしてくれる。


「目が覚めたみたいだね。」


 私の知っている看護師でもかかりつけ医でも無い、眼鏡をかけた綺麗なお姉さんがそこにいた。白衣を纏っているので、医者ではあるらしい。


 私が戦争に行っていた時に新しい医者でも雇ったのだろうか。薔薇色の髪にオッドアイ。とにかく可愛い。


 ……どこかで見た事があるような気がする。


「こうやって会うのは久しぶりだね。ルチルちゃん。」


 

 

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