ただいま故郷、さよなら平穏。
私は日本に病弱な少女として生まれ、人生のほぼ全てを病室で過ごした。
すごく身体が弱かったから、成人する前に死んでしまうだろうと医者からも告げられていた。そして私は、十四歳で死を迎えた。想像よりも早かった。
病室のテレビで見た、海外の綺麗な島国に住んでみたい。来世は病室では無い何処かで生きたい。そう思っていた。
だが、望みは叶わなかった。私は、異世界へ転生をしてしまったのだ。
***
カーン……カーン……
王国に鐘の音が響き、軍の帰還と勝利を知らせ、人々は喜びに満ち溢れる…
『おい!王国軍が帰ってきたぞ!』
『英雄達の帰還だ!』
「……」
『………一人……?』
…はずだった。
私は下を向いてフードを深く被り、重い体を引き摺って帰還した。
『む、息子は!私の息子はどうなりましたか!』
一人の女性の息を荒らげた声が聞こえる。目だけを上に向け、その顔を確認する。
この顔をどこかで見た事があると思い、記憶を遡ってみる。そうだ。アランが大事にしていた写真に写っていた人だ。自分の自慢の母だと、いつも私に言っていた。
「……貴方の息子、アランさんは名誉の戦死を遂げました。」
『え…』
母親の顔は絶望に満ち、そして瞬く間に怒りへと変わった。
『貴方なら…貴方なら息子を守れたんじゃないんですか!』
私よりも何回りも大きなアランの母親は私の肩に握りしめ、更に大きく荒らげた声をあげる。群衆の目線が私に深く、冷たく刺さった。予想はしていた。
戦争。私は戦争から、一人で帰ったのだ。
軍は、私以外全員死んだ。
私が転生した世界には魔法や魔物といった、ゲームやアニメに出てくるような物が存在していた。
私がこの世界に産まれた時、地域一帯の魔物の接近を察知する機械が壊れたらしい。私の魔力量が、異常な程に多かったからだ。
魔法を使うための魔力量は生まれつき決まっていて、魔力量が増えることがない。だから、人々は私を神の子と呼んだ。
両親は、私に魔法を教えた。人と自分を守るために。私を優しい英雄のような存在に育てたかったんだと思う。私は直ぐに魔法を覚えた。
成長速度は早いものだから、両親では教えきれなくなり、途中からは本を見て独学で魔法の習得を始めた。マニアックな本にしか書いてないような魔法も、七歳の時にマスターした。
そして、同時期に父が病を患い三十二歳にしてこの世を去った。
私が九歳の時、この国と敵対国による戦争が勃発した。理由は、敵対国が祖国の領地を攻撃したことだ。
この世界の戦争は、物理と魔法の両方を使う。私は魔法の才能が凄かった。だから戦争の時、私の家に国王軍が押し入り、誘拐のような形で軍に派遣した。無理矢理。
そう、九歳にして私は戦場に立たされた。戦場に立つなんてことは、絶対にしたくなかった。争い事は何よりも嫌いだったし、両親からも人を傷つける目的で魔法を使ってはいけないと厳しく私に指導をしていた。
両親は勿論、私は強く抵抗をした。軍がそれを聞き入れるわけもなく、私は人を守るために教えられた魔法を、人を殺めるために使わされた。
いつしか、人を殺すことに対して、何も感じなくなってしまった。
そして私は感情のない人間兵器とよばれ、敵軍は勿論のこと、味方にまで恐れられることとなった。
現在、十一歳。戦争は終わった。終わらせた。敵対国を、滅ぼした。戦場からは、人が消えた。そして、人間兵器だけが残った。
私は、祖国へ帰還した。
人間が帰ってくると思われていた。だが、実際帰ってきたのは私、人間兵器だけだった。もちろん喜ばれるわけもなく、今はこうやって糾弾されているのだ。
『息子を返してよ……どうして…どうして!』
『おいやめろ!殺されるぞ!』
どこからかそんな声が聞こえてくる。確かに、私からすればこの人を殺すことなんて、赤子の手をひねるよりも簡単だ。だからと言って、殺すわけがないのに。
私は、アランの母親の腕をふりほどき、その場を素早く立ち去った。
『…悪魔!』
『だからやめろって!』
悪魔。そんな言葉はもう聞き飽きた。悲しい、とすら今は思えなくなってしまった。人間兵器、悪魔。そう呼ばれるのが、日常だったから。
***
私は、走ってある場所に向かった。
その場所に着くと、私は深呼吸をした。扉を開けて、口を開いた。
「ただいま…お母さん。」
私は顔を下に向けて実家に入った。
お母さんの顔を、見れるわけが無いのだ。人を守る為に教わった魔法を、人を殺めるために使ったのだ。
「……」
お母さんは家に居るはずだ。気づいているはずだ。だけど、何も声がしない。
少しすると足音がして、私が見つめていた床に、懐かしい足が見える。
お互い、言葉を発さなかった。沈黙が流れた。私はそれに耐えきれず、恐る恐る顔を上げた。
そこには、泣いているお母さんがいた。悲しい顔ではない、とても嬉しそうな顔で。
私は悲しまれると思っていた。魔法で人を沢山殺めたから。お母さんはとても優しく、人の事を誰よりも考えている人だった。誰かの訃報が入る度、涙を流すような人だったから。
想定外の反応に、とても驚いた。その様子を見て思わず私は口を開いた。
「お母さん…っぐっ!?」
お母さんは私に飛びついた。小さな子供が母親に飛びつくように。
「おかえり…おかえり……ルチル…………」
お母さんは泣きながらそう言った。ルチル……そうだ、ルチル。それが私の、この世界での名前だ。
「…ただいま……ただいま………お母さん…………」
視界がぼやけた。今までなにかによって殺されていた感情が、溢れだすように。涙が流れた。
お母さんは、背中をそっと、優しく撫でてくれた。あの時のように。
こんな気持ちは、何年ぶりだろうか。敵からも味方からも恐れられた。
三年間、私は悪魔として、人間兵器として扱われてきた。私は赤子のように声を荒らげ、泣き叫んだ。
久しぶりに、人間になれた気がした。
最後までご覧頂きありがとうございます。
学生のトオリアメと申します。
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