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一、ナレーション(3分40秒)
ナレー 「とある者によって、地球は46億年前に創生された。
その創生から現在までを1年と考えた時、生物の元となるたんぱく質や拡散 が生まれたのが
39億年前、2月末。
最初の超大陸ヌーナが誕生し、分裂をはじめたのが19億年前、8月。
多細胞生物の誕生は12億年前、9月末。
超大陸ロディニアが形成されたのが10億年前、10月半ば。
11月に入る前、創始者が創造しなかったバグが発生する。
そこから地球は創始者の思いもよらない方向へと向かうことになった。
創始者はバグを修正しようとするが、元々能力が足りない中で作った世界だ からか、修正を
及ぼすことは未だにできなかった。
それでも時は、無常に進んでいく。
カンブリア紀に、生物の多様化が始まり、魚類が誕生するのが、5億年前、 11月末。
そこから魚類と両生類が分かれ、超大陸ゴンドワナが分裂をはじめる。
両生類から爬虫類が分化し、気温が下がり氷河期となり、4億年前を過ぎ1 2月へと突入
する。
爬虫類の多様化、超大陸パンゲアが形成されるのが3億年前、12月11日頃。
海洋全体が酸欠となり、生物の大量絶滅が起こり、恐竜時代へと突入。
哺乳類最古とされるネズミのようなアデロバシレウスが登場。
パンゲアが分裂をはじめ、再び生物の大量絶滅が起こり、鳥類が出現するのが12月15日。
パンゲアが分裂をし、現在の大陸の基礎ができるのが12月21日。
巨大隕石が地球に衝突し、恐竜が滅び、哺乳類の中からリスに似た原始霊長類が誕生するのが
12月26日。
一年も終わりに近い、12月29日。類人猿の先祖となる狭鼻猿が登場し、12月31日の午
前10時40分頃、類人猿から分かれた最初の猿人であるトゥーマイ猿人が登場し、ホモサピ
エンスが午後11時40分に誕生する。
創始者は進みすぎた時の中、自らがソースを書き換えることを断念し、望んでいなかった存在
である人間の能力へと賭けた。
二、聖堂
聖堂の中にいるシリウス、アーナンダ、ジャックリーン、テンペ(ジャックリーンに抱かれて
いる)。
アーナン「シリウス、この人物とは」
天地創生の他にある、扉の上にある絵を見るアーナンダ。
シリウス「やっとわかったんだ、この人物が最後の使徒だと」
シリウスが絵をじっと眺める。
ジャック「使徒が生まれた時にできたこの聖堂の絵に描かれている人物は存在するんですね」
シリウス「ああ、そしてこの人物は確実にこっちに近づいてきている。そしてその時こそ、テンペが鍵と
なり、神の領域へとみんなは導かれることになるだろう」
一同が天地創造の絵を見る。
三、コンピュータールーム
滑走路に一台の飛行機が止まっている。
乗り込んでいく従業員たち。
ウインザーとロメロが話をしている。
ロメロ 「それでは、私たちはこれで帰らせていただきます」
ロメロが頭を下げる。
ウイン 「今まで膨大なプログラムの解析をしてもらい、助かったよ」
ウインザーが握手を求め、二人が手を結ぶ。
ロメロ 「それは社長のプロジェクトでしたからね」
微笑む。
ウイン 「使徒などという、信じられない物の解析はかなり大変だったと思うが、ここのパソコン以外で
はそんなものの解析はできないだろうからな」
ロメロ 「そうですね、私たちもこの地球上に、一般人たちが知ることのない回線があるなどと思っても
みなかったですからね」
ウイン 「まあ会社に帰ったら、元の仕事ができるように手配はされているから、よろしく頼む」
軽く頭を下げる。
ロメロ 「わかりました」
一礼して飛行機へと乗り込むロメロ。
飛び立っていく飛行機。
ウイン 「さて、あとは神の領域へ行くための準備と、バグの修正の知識を今一度確認しておこう」
歩いていくウインザー。
コンピュータールームの中にいる薫、湯田、シェフチェンコ。
薫 「かなり膨大な量だな」
巨大モニターを見て言う。
シェフ 「そうだな、46億年分のプログラムだしな」
湯田 「バグが発生したのが、このデータによると10億年前くらいか」
呟く。
薫 「湯田さん、じゃあバグをなくすためには、そのもっと前から訂正していかないといけないとい
う事ですよね」
薫が湯田を見て言う。
湯田 「このデータが本物であれば、大本のプログラムからやることになるだろう。
ただ訂正していく過程で、どれだけ後のデータが変わってしまうかもまだわかっていないから
な」
腕を組んで悩む湯田。
ウインザーが入って来る。
ウイン 「ある程度のシュミュレーションはできていますが、途中途中で神が修正をかけようとした跡が
あります。その途中からでも現在のバグを小さくすることは可能ですね」
シェフ 「ウインザー、初期の頃からデータをいじるとしたら、このバグが起きる10億年前から現在ま
でが変わってしまう可能性があるのだろう。そうなった時に人間はどうなるんだ」
心配をするように言う。
ウイン 「私たちが解析している中では、生物の誕生に影響はないと思われます」
薫 「じゃあ俺たちの存在はそのままなのか」
安堵の表情を見せる。
ウイン 「今の状態は保たれると思います。ただ突然変異した能力の高い人たちが、どのくらい保たれる
かはわかりません。
もしかすると、私などもこのような知識は乏しくなっているかもしれませんね」
笑顔を見せる。
シェフ 「じゃあ俺もフェンシングの力もなくなる可能性はあるのか」
ウイン 「ありえるだろうね」
湯田 「ただこれだけ化学が発達した現代の基礎が失われていたら、人間自体の在り方が変わっている
かもしれないな」
難しそうに言う。
薫 「なんだか想像もつかないな」
首を横に振る。
ウイン 「そうですね、なんと言っても創造主である神ですら、このバグがある現在の地球の姿を想像し
ていなかったでしょうから、私たちはもっとわからないですね」
湯田 「まあ、最終決戦の前に、しっかりとこれをやっておかないと、逆に修正者である私たちの手
で、地球の存在を脅かしてしまうことになるからな」
気を引き締める。
薫 「そんな脅かさないでくださいよ」
苦笑する。
ウイン 「脅しではないが、可能性はある。
ただ神が修正できなかった物を、今の私たちの化学技術で修正するのだから、責任は重大だろ
うな」
シェフ 「薫が言うようにちょっと怖いな。
ウインザーと湯田さんは知識があるからいいが、俺たちは急造だからな」
ウイン 「大丈夫ですよ、修正者としての能力がある分、あっという間に覚えられますよ」
笑顔で答える。
薫 「そうかもしれないな、俺ですらバグの修正ができるようになったんだからな」
湯田 「とりあえずはじめるか」
個々にパソコンの前に座る。
四、神の領域
姿形はなく、意識だけの存在の神
神 「さあ、私の創造を超えた人間たちよ。
今更地球を一から作り直すことは困難故に、一部の能力を与えた人間たちよ。
果たして私が作った世界をどのように作り変えてくれるのか……」
ソースが空間に現れる。
神 「使徒と修正者たちよ。どちらが生き残ったとしても、それはそれで面白いことになるだろう」
五、刑務所
面会室にフレイジャーとマリンガがいる。
刑務官 「入れ」
椛島が入ってきて席へと座る。
マリンガ「どうだ、刑務所の中は」
笑顔で話しかける。
椛島 「何だか同じような臭いのする人間たちだな。もしかして使徒の人間か」
眉をしかめる。
フレイ 「ああ、バグは修正されて、君と同じでもう使徒ではないがな」
ぶっきらぼうに言う。
椛島 「そうか、最終決戦はいよいよか」
無表情で言う。
マリンガ「俺たちが見ることのできなかった世界への扉が開かれる時が来るようだ」
宙を見て言う。
椛島 「見られなかった世界か……まあ使徒である俺たちは、こうやって死ぬことなく、修正後の世界
も見る事ができる可能性があるからな」
フレイ 「それは俺たちが殺した相手を思っての事なのか」
真剣な眼差しを椛島に向ける。
椛島 「まあな、いくら神が使徒と修正者を創ったと言っても、その最終目的はわからないままだ。
ただ今の世界を守るための使命を与えられた俺たちは、犠牲を出すことは仕方がなかったのだ
ろうが……」
後悔の念を浮かべる。
マリンガ「たとえ人を殺めたとしても、か」
椛島を正面から見る。
椛島 「そうだな。それが使命に逆らえないようにプログラムされた俺たちの命だからな」
椛島が首を縦に振る。
フレイ 「そこまで悟っているのか」
椛島 「悟っているわけではない。ただ使徒としての能力がなくなった時に、良く考えてみたら、そん
な結論に至ったってことさ」
淡々という。
マリンガ「結局俺たちは、神の手の平の中なのか」
フレイ 「元々その神にもっと能力があったならば、バグなどを産むことはなかっただろうからな」
鼻で笑う。
椛島 「だからこそ、その神が作った世界を尊重して守ろうと俺たち使徒は行動したのだろう」
マリンガ「まあ最後の戦いを見ることはできないが、その結果、俺たちの存在がどのようになるのか、お
互い楽しみに待とうじゃないか」
椛島 「消えるのか、残るのか……」
フレイ 「もしも消える時は、ただ無になるだけか……」
無表情で宙を見る。
六、コンピュータールーム
薫、ウインザー、湯田、シェフチェンコが個々のパソコンを見ている。
ウイン 「これで終わりですね」
ウインザーが肩の力を抜く。
湯田 「色々なパターンのシュミュレーションが終わったという事か」
湯田が苦悶の表情を緩める。
薫 「結局はどうなるんだ」
ウイン 「46億年前の立ち上げのプログラムで、修正すべき点がありますね。
そこを修正すると19億年前の超大陸ヌーナが誕生せずに、9億年先送りされ、超大陸ロディ
ニアがこの時期に形成されることになりますね」
パソコンの画面を確認しながら言う。
シェフ 「9億年も時間が削られてしまうってことか……」
驚くシェフチェンコ
ウイン 「その後はほぼ同じのようですね」
薫 「じゃあ人間も生まれるということか」
安堵の表情を見せる。
ウイン 「そうです、ただヌーナが誕生した頃のプログラムに新たなバグが見られます」
湯田 「そこを修正するとどうなるか」
湯田がキーボードを叩き、修正をかける。
ここに見ている画面の状況がかわる。
ウイン 「七億年前の寒冷化と温暖化がなくなりますね。
エディアカラ生物群と呼ばれた大型多細胞生物が出現せずに、カンブリア紀動物群が出現する
のが早くなりますね」
湯田 「そこで約1億年が削られるのか」
薫 「何だか難しいな。ただカンブリア紀動物群が出現するという事は、人間も生まれるということ
なのか」
ウイン 「神はプログラムを修正しても、人間の誕生は求めていたという事になるのですかね」
シェフ 「神はバグを修正することによって、人間を早く生み出したかったってことになるのか」
首を捻るシェフチェンコ。
ウイン 「さあそこまではわかりませんが、シュミュレーションではそうなるね」
薫 「人間が生まれるのであれば、今のままでもいいような気がするけれどな」
薫が脱力する。
ウイン 「ただ突然変異の人間が生まれる確率が減るようですね。やはり神は人間の能力をある程度平等
にしたかったのかもしれないですね」
納得するように言う。
湯田 「争いをなくす、もしくは少なくするためにも、能力差を無くして、共存する道を選ばせるつも
りだったのか……」
顎に手をやる。
薫 「平等な社会か……なんともわからないな」
シェフ 「まあ争いがないというのはいいことなのだろう」
シェルチェンコが納得する。
ウイン 「そうですね、後は神のプログラムがある領域に、どのように行くかですね」
疑問を表情に浮かべる。
湯田 「その件ならば、何となく私なりの解析ができている」
力の入った言葉を投げる。
シェフ 「湯田さんはそんなことまで調べていたのですか」
驚くように言う。
湯田 「何となくわかっただけだけれどな」
ウイン 「湯田さんの能力はかなり高いという事なのでしょう」
湯田を見る。
湯田 「いや、ただの経験値の差だろう」
笑顔で軽口を叩く。
薫 「それでどうやったら神の領域へと行けるのですか」
湯田 「残りの使徒5人と、私たち4人は確実にこの後会うことになる。その時にその奇跡は起こると
されている」
湯田が宙を見る。
シェフ 「残りの使徒との戦いの場でという事か」
ウイン 「そうですか、神の領域まで、あと少しという事なのでしょうね」
七、聖堂
シリウスが一人、立ちすくんでいる。
シリウス「神よ、私たちを試す時がまもなく来るという事ですか」
強く言い、聖堂を出る。
アーナンダ、テンペを抱えたジャックリーンが待っている。
アーナン「シリウス様、導きはもうそろそろ来るのですね」
シリウス「ああ、神が呼んでいるようだ」
空を見る。
ジャック「神の領域へ行くのですね」
シリウス「いや、まずはその前にある亜空間へ行くようだ」
アーナン「亜空間ですか、なぜそのような場所へ……。
一気に神の領域へは行けないという事なのですか」
シリウス「人間がその領域へと入るためには、今の状態では無理という事なのだろうな」
ジャック「もしかして、精神のみという事なのでしょうか」
シリウス「さあわからない。ただもう一人の使徒によって、鍵が開かれることになるのだろう」
抱いているテンペを見るジャックリーン。
八、コンピュータールーム
ウインザーが立ち上がる。
薫 「どうしたウインザー」
驚くように聞く。
ウイン 「何だか呼ばれているような気がする」
薫 「呼ばれている……誰に」
ウイン 「さあ、わからない、ただ転送装置が呼んでいる気がする」
湯田が振り返りウインザーを見る。
湯田 「私も装置の異変には気が付いた。確認してみたほうがいいのかもな」
シェフ 「もう最後の時が来ているという事ですか」
ウイン 「可能性はある。みんなで行ってみよう」
立ち上がり、歩き出す一同。
九、宝田家
村木と峰がいる。
村木 「今日はすみません、わざわざ来てもらって」
頭を下げる村木。
峰 「まさか村木さんが宝田さんの家の鍵を持っているとは思わなかったですよ」
村木 「お兄さんが旅立つ前に預かったのです」
峰 「それで今日は何を」
村木 「いや、何だか胸騒ぎがして来てみたのですが、この写真を見てください」
両親の遺影と百合の遺影がある。
のぞき込む峰。
峰 「この写真がどうかしたのですか」
村木 「何となく、写真の人物が薄くなっているような気がしたんです」
改めて写真を見る峰。
峰 「影ですか、ご両親の写真は年数が経っているから劣化なのではないですか」
村木 「それはわかるのですが、百合の写真までこのようになるものでしょうか」
村木が百合の遺影を見る。続く峰。
峰 「う~ん、確かに不思議ですが、薄くなっていると言えばそうかもしれないです
が……」
悩むように言う峰。
村木 「やはり私が気にしすぎているのですかね」
峰 「そうではないでしょうか。ただ気にはなりますね。
ちょっと確かめたいことがあるので一度署に戻ります。
それがわかったら連絡します」
村木 「わかりました。私はここで待っていますので」
頭を下げる村木。
一〇、警察署
祖恵村と峰がいる。
宝田家で聞いた写真の話を聞いた祖恵村。
峰 「不思議なことが起こるものですね」
祖恵村 「そんなことが本当に起こるということは、何かあるのか」
祖恵村が首を傾げる。
峰 「いや、確かに椛島や宝田さんの不思議な戦いを眼にしましたけど、もっと不思議なことが、こ
れから起こるのでしょうか」
祖恵村 「私たちにはわからないのだろう、ただ知っているとしたら」
峰が思いつたように言う。
峰 「椛島ですか」
祖恵村 「知っているかも知れない、という程度だが……」
峰 「椛島のところに行ってみますか」
祖恵村 「そうだな」
立ち上がり、歩き出す二人。
一一、刑務所
椛島と祖恵村、峰が面会している。
椛島 「そうか、そんなことが起きているのか」
無表情で答える。
祖恵村 「何か知っていることはあるのか」
椛島 「カメラは持っているか」
峰がスマートフォンを取り出す。
峰 「これで良ければ」
椛島 「それで俺を写してみな」
写真を撮る峰。
椛島 「俺がどう写っている」
写真を見る峰と祖恵村。
峰 「これは宝田さんの家の写真と同じようだな」
薄く画面に写る樺島。
椛島 「そうか、今のままだと修正者のほうが強いという事になりそうだな」
淡々と答える。
祖恵村 「修正者というと、宝田さん側の事か」
疑問の表情を浮かべる。
椛島 「ああ、そういう事になる」
峰 「それで、なぜ写真が薄くなっているんだ」
覚悟をした表情を見せて口を開く椛島。
椛島 「神が、存在を消そうとしているからだよ」
祖恵村 「存在を……」
驚く祖恵村と峰。
一二、転送装置前
転送装置が点滅している。
転送装置の前に一同が集まっている。
ウイン 「こんな状態になっているのははじめてですね」
ウインザーが驚くように言う。
湯田 「もしかして、私たちをどこかへ導こうとしているのか……」
シェフ 「そうだとしたら、最後の時が近づいているのか」
薫 「俺たちをどこへ運ぶのか」
息をのむ一同。
ウイン 「どうしますか」
薫 「もしもどこかへ送られるのであれば、行ってみよう」
覚悟を決めた表情でみんなを見る。
湯田 「下手な場所に行った時には、またここへ戻ってくればいい」
一同を見渡すウインザー。
ウイン 「では、みんな覚悟はできていますか」
みなが頷く。
シェフ 「忌まわしい使命とやらを、とっとと終わらせてしまおう」
湯田 「行こうか」
薫 「修正プログラムは頭の中に入っているからな」
ウインザーがみんなを見て、覚悟を決めた目を向ける。
ウイン 「では、行きましょう」
ウインザーの問いかけに、一同がうなずく。
ウインザー、薫、シェフチェンコが転送装置の中へと入っていく。
入ろうとする湯田が一瞬頭を押さえる。
ウイン 「湯田さん、大丈夫ですか」
湯田 「ああ、平気だ」
苦悶の表情で転送装置に入る湯田。
転送装置が激しく光りはじめる。
シェフ 「いよいよだな」
光りが大きくなり、集約されて消えると一同がいなくなっている。