刃交える時、誓いは燃ゆる
夕暮れの廃都ローデン。
燃えるような空の下、ひとつの影がエファトの元へと現れた。
「……エファトさん。僕を、魔族討伐に連れていってください」
それは、数年の修行を経てなお、変わらずまっすぐな瞳を持つリアンだった。
「ほう、いきなりだな」
エファトは岩に腰をかけ、背後にそびえる廃城をちらりと振り返る。
「ずっとここに残っていたのは、お前の意思か。それとも未練か?」
「……誓いです。
僕はここで生き延び、鍛えられて、剣の意味を知りました。
でも、この国はまだ、魔族に支配されたままなんです。
だから――今度は僕が、この剣で取り返す番だと思っています」
リアンの腰に佩かれた剣――《セイグランス》が、ほんのわずかに光を放った気がした。
「なるほど」
エファトはゆっくりと立ち上がる。
「じゃあ、俺に証明してみせろ。――今の“お前の剣”をな」
◆ ◇ ◆
訓練場――かつて騎士たちが剣を交え、誇りを磨いた場所。
今そこに、二つの剣が静かに向き合っていた。
「遠慮はいらん。お前のすべてを見せろ」
「……お願いします!」
リアンは息を整え、一気に踏み込む。
【初太刀――破魔閃】
団長の技を応用した斬撃。
だがエファトは一歩の足運びだけでそれを紙一重で躱し、リアンの側面を突く。
「躱されて当然だ。技に頼るな、間を読め」
「っ……はい!」
リアンは跳び退き、すぐさま次の一手を繰り出す。
今度は縦横斬りを絡めた剣舞――【輪風連舞】。
「おっ……やるな。流れができてる。だが!」
エファトが一閃、風すら断つような踏み込みでリアンの背後を取る。
リアンは咄嗟に刃を交差させ、防御の構えで受け止めた。
ガキィィィィィィィン!
火花が飛ぶ。
「悪くない。力だけじゃなく“守りたい”って心が剣に乗ってる。だが――」
その瞬間、エファトの剣がリアンの剣を弾き飛ばす。
リアンは体勢を崩し、地面に膝をついた。
「まだ迷いがある。誓いだけじゃ、命は守れない。
剣を構えた者は、いつだって“殺し合い”の渦中にいる」
エファトの声には、一切の温情がなかった。
だが、それはリアンの背中を押すものだった。
「もう一度、来い。今度は、“覚悟”を見せてみろ」
リアンはゆっくりと立ち上がる。息は荒く、腕も震えている。
だがその目は、真っ直ぐだった。
「……僕は、剣士です。誓いを継いだ者です。
だから――守るために、斬ります!」
【穿閃・極】
それは、かつて団長リュセルが使っていた技の“進化形”だった。
鋭く、そして柔らかく。剣先が弧を描き、空を切り裂いた。
エファトは、それを真正面から迎えた。
不老剣が一度だけ煌き、火花を散らしながら――止まった。
静寂の中、ふたりの剣が交差していた。
「……これが、“お前の剣”か」
「はい。今の僕の、すべてです」
数秒の沈黙ののち、エファトはふっと笑った。
その顔には、満足と安心が入り混じった表情があった。
「ならば、行こうか。リアン。
この世界に残る“闇”を断つ旅にな」
「はいっ!」
リアンの声が、夕暮れの空に響いた。
その背には、かつての騎士団の影が、確かに重なっていた。
こうして、不老の剣士と、誓いを継ぐ者は並び立つ。
いま、ふたつの剣がひとつとなって、滅びかけたこの世界に光を取り戻すために――