誓いの継承者
魔族の影を斬り払った廃都ローデンに、静かな時が流れていた。
リアンは不思議だった。
かつてあれほど死の気配に満ちていた都が、今はどこか穏やかで、温かさすら感じられる。
それは――一人の不老の剣士が、その場所に“命の重さ”を取り戻したからだ。
「よし、始めようか」
エファトは岩の上から軽く跳ねるようにして降り、剣を腰に下げたままリアンの前に立った。
「今日からお前を“数年”鍛える。実戦、技術、そして誇り――全部だ」
「……お願いします!」
リアンの目に迷いはなかった。団長の剣は、まだ重い。
だが、それを振るう覚悟だけは、もう出来ていた。
◆ ◇ ◆
最初の一年――それは、「土台を整える」年だった。
身体の使い方。間合いの取り方。剣の軌道。構えの意味。
戦いとは何かを学ぶ日々だった。
エファトは一切手を抜かなかった。
時には雷のように厳しく、時には黙って見守るだけの存在。
「誇りは技に宿る。技がなければ、誇りも偽物だ」
その言葉を、リアンは痛みと共に身体に刻んでいった。
二年目――「剣を学ぶ」年。
リアンはようやく、《セイグランス》を“振るえる”ようになっていた。
彼は、団長が使っていた技――【光穿の構え】を、自分なりに再現しようとしていた。
だが、うまくいかない。団長のように剣が走らない。
「それは、“誰かの技”だからだよ」
エファトが言った。
「お前の誓いは、お前だけの剣に宿せ。受け継ぐのは“形”じゃない。“心”だ」
その日から、リアンは団長の技を模倣するのをやめた。
かわりに、自分だけの構え、自分だけの剣の意味を探し始めた。
三年目――「戦いの意味を知る」年。
かつての騎士団領の跡地を旅しながら、リアンは様々な戦いを経験した。
魔族の残党。かつての仲間を失った復讐者。盗賊に落ちた元貴族。
剣を振るうたびに、彼は自分の“芯”を試された。
「本当に斬るべき相手は、誰だ?」
「剣は“誇り”を守るためにある。でも、誇りとは何だ?」
エファトは問いかけた。
そして答えは、戦いの中でしか見つからなかった。
ある時、リアンは、泣きながら剣を振るった。
目の前にいたのは、かつて世話になった老騎士の成れの果て――魔族に操られた亡骸だった。
「これが、俺が進むってことなんだよな……団長……」
そのとき彼は、初めて剣を“誇りのため”に振るったのだった。
リアンは決意を持ってエファトの元に向かった。