表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/24

不老騎士争奪戦

村の空気が張り詰めていた。

 広場には、村人たちが数百人単位で集まり、静かに見守っている。

 その中央、円形の闘技場のような空間に、二人の少年――エファトとゼイヴが立っていた。


 


 不老族の「騎士争奪戦」。

 それは、ただの剣の勝負ではない。


 試されるのは技、心、そして**“時への覚悟”**。

 勝者はインフィニットソードを継ぎ、村の外へ旅立ち、不老族の時を守る“守人”として生きる。


 


 エファトは目を閉じて、息を整えた。

 隣に立つ弟の気配は、まるで鏡を見ているように静かで、鋭かった。


 この戦いは遊びじゃない。

 どちらか一方が、村に残り、もう一方は永遠にここを去る。


「始めよ」


 長老の声と同時に、風が止まり、時間が凍るような感覚に包まれた。

 そして――


 ゼイヴが先に動いた。

 しなやかで無駄のない踏み込み。腰の短剣を抜き、一閃する。


「――速いな」

 エファトは身を引きつつ、木剣で受け流す。


 互いの武器は訓練用の木剣と短剣。致命傷にならぬよう工夫されたものだが、それでもその速度、力、気迫は尋常ではない。


 連撃、躱し、突き、払い、そして距離をとる。


 周囲からは歓声も罵声もなく、ただ静寂が流れていた。


 


 二人の戦いは、まるで舞のようだった。

 呼吸すら同調するかのような動き――それは、互いに何千時間も共に剣を振るってきた証だった。


 そして、ゼイヴが言った。


「兄さん、俺じゃ……ダメか?」


 その一言に、エファトの瞳が揺れた。

 だがすぐに、瞳の奥に深い静けさが戻る。


「……そんなことはない。お前は誰より強く、優しい」

「だったら!」

「だからこそ、この剣は俺が持つ」


 エファトの木剣が、真っ直ぐに伸びた。

 ゼイヴの短剣を絡め取り、回し、そして――落とす。


 カラン、と音を立てて短剣が地に落ちた。


「……!」

 ゼイヴの目が見開かれる。


 その瞬間、空が少し赤く染まり始めていた。

 村の空は変わらぬもの――その色が変わることは、何かの兆しだった。


 


「勝者、エファト・ストライヴ」


 長老が告げる。

 観衆は静かに、深くうなずくような雰囲気に包まれた。


 ゼイヴは、膝をついたまま俯いた。

 そして、小さく笑う。


「……やっぱり、兄さんだよな。俺には、外の世界を背負う覚悟が足りなかったんだ」


 エファトは黙って弟の前に立ち、手を差し出す。

 ゼイヴはそれを握り、立ち上がった。


 


 祭壇の前。

 村の神殿の奥から、長老の手によって、一本の剣が取り出される。


 黒い鞘に収められたその剣。

 手にした瞬間――時間の流れが、わずかに“止まった”。


 不老剣インフィニットソード


 エファトがそれを握った瞬間、風が、世界が、村の空気が変わった。


「エファト・ストライヴ。汝は今より“不老騎士”なり」


 


 その夜、村の空に星が瞬いた。

 双子は、丘の上に並んで座っていた。


「……ありがとう、ゼイヴ。お前と争って、初めて分かったよ」

「何を?」

「俺は、守るために旅に出るんじゃない。“知る”ために、旅に出たいんだ」


 ゼイヴは、目を細めて頷いた。


「その言葉が言えるなら、兄さんはもう、本物の騎士だよ」


 


 夜が静かに更けていく。

 やがて、明日には旅立ちの日が来る。


 不老の村を出るということ。

 それは、時を手放す者にとって、最も大きな決断だった。


 だが、エファトの背には今――


 一本の剣と、確かな“覚悟”が、ある。


 


 そして、物語は動き始める。


 時を超え、物語を渡る、悠久の旅へ――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ