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すべての物語の序章

魔族王ザガロスの死とともに、黒く染まっていた空が晴れ渡る。


風が吹き、静寂が辺りを包む。

それは世界がようやく安堵の息をついたような、穏やかな空気だった。


リアンは膝をつき、腕の中で眠るセリナ――いや、“彼女の亡骸”をそっと地に横たえる。


「……ごめん。

でも、ありがとう。お前の言葉が、俺に世界を変える力をくれた」


彼の頬を一筋の涙が伝う。

そしてその隣に、ゆっくりと歩み寄る影があった。


「お前はもう、“ひとつの戦い”を終えた」


エファトの瞳は深く、どこか遠いものを見つめていた。


「だが、これは始まりに過ぎない」


「……?」


リアンが顔を上げると、エファトが腰から取り出した古びた地図を広げて見せた。


そこには、これまで見たどの地図よりも遥かに広大な“世界”が描かれていた。


「この大陸は、“第五環境域”。

人族と魔族が争ってきた歴史の中心だが、ここは世界のほんの一部にすぎない」


「……第五?」


「ああ。第一から第七まで。七つの大陸が存在している。

そのうち、“ザガロス”が支配していたのは、この一つだけだった」


リアンの顔から血の気が引いていく。


「まさか……他にも、“魔族王”がいるのか?」


「いる。もっと深く、もっと古く、もっと強い者たちがな」


「……じゃあ、セリナが……犠牲になったのに、世界はまだ……!」


「終わっていない。

だが――お前の戦いが、確かにこの大陸の夜明けを呼んだ。

それが、どれほど大きな希望か……俺は知っている」


リアンはゆっくりと立ち上がる。剣を見つめ、そしてその先を見た。


「だったら、行こう。

この世界に残る“闇”を――すべて斬る。誓いの剣で」


エファトが笑った。久しぶりの、穏やかな笑み。


「お前がそう言うと思ってたよ、リアン。

……旅の続きは、まだ始まったばかりだ」


そのとき、空の彼方から、一羽の黒い鷲が舞い降りてきた。

その足に結ばれた封筒には、異国の印章――第六環境域・アエストリウムの紋章が刻まれていた。


「世界は、呼んでいる。

剣士よ、勇者よ、時の旅人よ。お前たちの戦いを――まだ誰も知らない未来が、待っている」


リアンはエファトと視線を交わす。


「エファト。……共に行こう」


「もちろんだ。お前が“守る剣”なら、俺は“時を繋ぐ剣”で在る。

すべての物語を見届けるまで、俺の旅は終わらない」


ふたりは歩き出した。


魔の支配が終わり、希望の風が吹き始めた大地を、

まだ誰も知らぬ新たな物語へと、静かに進んでいく。


 


――これは、世界を変えた小さな誓いの物語。

そして、すべての物語の、ほんの序章にすぎない。


リアンの手に握られた《誓鋼剣セイグランス・レガリア》。

その刃が、静かに輝きを放ちはじめる。


「……これは……?」


エファトが目を細める。

セイグランスから、まるで心臓の鼓動のような脈動が広がっていた。


ギィィン……!


高く、澄んだ音が大気を震わせる。

そして――剣の柄に浮かび上がる、ひとつめの紋章。


「これが……覚醒……?」


エファトが近づき、剣を手に取る。


「間違いない。

この剣は“段階的に解放されていく構造”を持っている。まるで鍵のように……七つの封印が施されているようだ」


「じゃあ……これは、その一つが解けたってことか?」


「おそらく、感情と誓いの強さ――それが鍵だ。

今のお前の“想い”が、セリナとの絆が、それを一段階引き出したんだろう」


「七つ、解き放つことができれば……?」


「……そのときは、“俺の不老剣”にさえ並び立つ剣になるかもしれないな」


リアンは剣を見つめた。


「セリナ……。俺の想いは、まだ終わってない。

お前が残してくれたこの力、使ってみせる――世界を守るために」



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