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リボン・カノン-―首輪で“かわいい”を-  作者: NOVENG MUSiQ
輪唱航路 ──ゼロから∞へ、終わりなきビートはついに「海」へ滲み出す。

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13/24

第1話 潮騒ハミング・プロローグ

挿絵(By みてみん)

 黎明(れいめい)でも(あかつき)でもない窓際の時刻。瓦礫に埋もれた帝都アズル=ローは、かつて首輪で測られた“かわいい”を洗い流すように、銀砂(ぎんしゃ)の霧を海へ送り出していた。

 私は崩塔の縁に立ち、砕け散った双月(そうげつ)の欠片が水平線へ沈むのを見届ける。香坂(こうさか) 美流久(みるく)――首の火膚(ひふ)に残る黒曜(こくよう)の痕跡を指先でなぞるたび、そこに響く拍は確かに“私自身”のものだと確認できる。

 背後で桜井(さくらい) 心愛(ここあ)孔雀翼(くじゃくよく)を畳み、浅い呼吸を整えた。肩傷を(かば)う仕草には痛みが滲むが、瞳の奥はまだ鏡刃(きょうじん)のように鋭い。(いちご)沈丁花(じんちょうげ)の様な甘香が潮風と混ざり、胸骨をくすぐった。


 「海が呼んでるわ。奪われた可愛性値(かわいい)が声になり切れず漂ってる。放っておけば、また誰かが首輪を鍛える下地になる」

 彼女の言葉は淡々としていたが、その奥では()げた硫黄(いおう)の痛みが脈を打つ。


 白鷺(しらさぎ) 珈平(かへい)は喉を押え、声を失った代わりに(ひのき)と油の匂いで意思を示す。走査虫(スキャン・ワーム)を仕込んだ残響罐(リバーブ・カン)を肩に掛け、銀糸の一端を私へ手渡した。


 〈ビートは続く?〉頭蓋(ずがい)に棲む合唱隊(ドールシェイド)が囁く。私は踵で二拍、金属を鳴らし、霧散する甘藍(キャベツ)の様な匂いを肺いっぱいに吸い込む。

 「ゼロから∞へ。終わりじゃなく序奏だ」


 霧の向こうで虚聲海(ヴォイド・オーケアン)潮騒(しおさい)を鳴らした。その波音はいつしかハミングへ転じ、私たち三人の胸骨を叩くドラムへ重なっていく。

 塔の影が夜光で長さを伸ばし、海へと続く瓦礫の坂道を指し示した。私は短剣の(つか)を握り、ノド痕の鼓動を唱歌に変えて跳躍。瓦礫が楽器となって跳音(ステップ)を刻み、霧の彼方で始まる“海篇”の拍子を高らかに告げた。

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