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婚約破棄まとめ!

[短編➕おまけ追加] 伯爵家に婿入りする私は奴隷扱いされています。が、我慢の限界を超えたので幼い頃の夢を叶えたいと思います。では皆様、さようなら

作者: 村則

誤字報告ありがとうございますm(_ _)m

バサッ、バサッ!!


「さっさと文句言わずにやりなさい! お前は本当にクズでのろまね!」


婚約者である彼女に罵倒され、学園から出された課題を私の目の前に投げ渡された。私は今まで文句なんて言ったことないのにな、と思いながら課題を拾い集める。

本来なら自分でやらなければいけない。もしバレたら単位が取れず留年してしまう。でも、やらさ(・・・)れている。だって私は……



「婿なんだから、わたくしの命令通りやればいいの。嫌なら婚約破棄するわよ! ふふ、お父様に言えば、お前なんかすぐに破棄できるんだからね」


そう、私は彼女の家へ婿に入る。子爵家次男の私は、政略でゲール伯爵家の彼女と婚約している。我が子爵家は貧乏貴族。いつ潰れてもおかしくない状況だった。もう爵位を手放そうと両親が考えているとゲール伯爵が融資してくれると打診がきた。融資を受ける代わりに私を婿に入れろと。

両親はすぐに了承した。これで平民にならなくて済むと喜んでいた。

自分は貧乏子爵家次男、だから絶対に婿入り先がないと思っていたのに……婿入りしたら私の夢が叶わない……でも、家族が喜ぶ姿をみると何も言えなかった。



12歳で婚約が決まった日、久しぶりの豪華な食事が食卓に並んだ。家族は、

『これから毎日豪勢になるぞ』

と、父さんがはしゃいでいた。もちろん母も兄も。私は、この時の豪勢な食事をいただいても、まったく味がしなかった。


なぜなら、もう私の夢は叶わない……まだ見ぬ世界を旅をし、動植物図鑑に載っていない動植物を探す……幼少の頃からの夢が……。










◆◆◆


婚約する前の自分は何も縛られることなく自由だった。

既に兄が子爵家を継ぐことは決まっていたのだ。だから私は家に縛られることはなく、自由奔放に育ち、野山を駆け回り、誕生日プレゼントで貰った動植物図鑑を手に虫、動物、植物を夢中で探しまわった。図鑑に載っているものを全て見つけるんだ! と胸を弾ませたことを今でも覚えている。

幼い頃の私は全てを見つけることはできなかった。父さんに聞いてみると、


『この国には生息していない。この図鑑はね、世界中の動植物が載ってるんだ。それにね、この図鑑に載ってない動植物も沢山いるんだよ』


『えっ! ここに載ってる以外にも!』


『ああ、そうだ。もしお前が新種を発見すれば自分で名前をつけられるぞ』


『本当! 絶対に見つけて僕と同じ名前つける!』


『ハッハッハッ、楽しみだな。お前の名前が世界中に知れ渡るかもな』


『うん。僕、早く大きくなりたい。そしたら世界中の動植物を探し回って僕の名前を世界中に広めるんだ』


『いい夢じゃないか。お前は次男だ。何のしがらみもない。だから好きなことをしなさい』


『うん!ありがとうお父さん』


そして6歳の時、私の夢が決まった。世界を旅しながら図鑑に載っている動植物を全部見つける。そして、まだ見ぬ動植物を発見する!


この瞬間から私は夢に向かって図書館に通い始めた。色んな世界を知る為に。

その過程で海、雪、溶岩などの存在を知った。海は広大で海の水はしょっぱいらしい。雪は空から細かい氷が降ってきて地面を真っ白に染める。溶岩は、真っ赤な熱い液体がドロドロと山から噴き出すらしい。

私は興奮してしまった! この国には海、溶岩地帯もない。もちろん雪だって降ったことない。知らない知識を知ることがとても楽しかった。もっと、もっと知りたいし、いつか自分の目で確かめるぞ!と、期待に胸を膨らませていた。

そんな時、車椅子に乗った女の子が話しかけてきた。

『何をおもしろそうに見てるの?』


とても弱々しい子だったが、向日葵色の髪にサファイヤ色の目をしている可愛らしい子だった。


『うんとね、鯨を見てるんだ』


『くじら?何それ?』


『海にいるんだけどね。とても大きいんだよ』


『えっ!どのぐらい大きいの?』



『うーんと、そうだね。大きい鯨なら僕の家ぐらいかな。あっ!僕の家の大きさ知らないね』


「ふふっ」


彼女の笑顔は髪色と同じく向日葵のような笑みだった。私は見惚れてしまった。


周りには自分らと歳近い者がいなかったので、すぐに仲良くなった。そして一番聞きたかったことを女の子に聞いた。

『何か病気なの』と。

すると、女の子は顔を伏せ黙り込み、元気がなくなってしまった。横にいる女の子の侍女を見ると悲しい顔をしている。

きっと、重い病気なんだろうと当時の私は子供ながらに思った。だから私は、そんな彼女に元気を出して欲しく、図書館で知ったおもしろそうな知識を彼女に話した。すると、彼女は元気を取り戻し私の話を聞いてくれた。そして、彼女はまた向日葵のような笑顔で笑ってくれた。その笑顔を見る度に私の心臓が高鳴った。きっと当時の私は彼女に恋している。だから彼女と会えるこの時間がとても楽しかった。


でもそんな楽しい時間は長く続かなかった。なぜなら彼女が図書館に急に来なくなってしまったのだ。

今思えば、あの言葉が別れの挨拶だったのだと理解した。来なくなる前日に、

『あなたのおかげで元気が出たわ。ありがとう』

と、告げられたのだ。私の心残りは彼女の名前を聞けなかったこと。彼女の方が爵位が上だと思い自分から聞けなかったのだ。この当時の私は子供ながら後悔した。

もしかしたら病気が酷くなったのかもしれない。もし、亡くなっていたらどうしようと最悪の結果を想像してしまう自分がいた。だから私は彼女が近い将来完治し、元気な姿で再び私の前に現れてくれる。そして、あの向日葵のような笑顔を再び私に見せてくれると自分の心の中で強く思うことにした。


そして、私は再び本を読み漁った。彼女にまだ知らない世界を教えてあげるために。

また、いつかきっとあの向日葵のような笑顔を見る為に。













バチン!


「ねぇ!聞いてるの!」


彼女に叩かれ現実世界に引き戻された。そうだ、私は彼女の課題に取り組まなければいけないんだ。彼女に叩かれた頬を摩りながら課題に取り組んだ。


彼女は学園を卒業したら女ゲール伯爵になる予定だ。でも領主教育が滞ってる。だから代わりに私が彼女の分まで受けているのだ。この課題を済ませた後、ゲール伯爵の元へ向かわなければいけない。私に休みなんてない。だから以前、意を決しゲール伯爵に休みをくださいと相談したことがある。すると、

『他にも我が家と結ばれたい者が沢山いるのだぞ。解消されたくなければ死ぬ気で娘の分までやれ!』

と、私を脅す。もし解消になったら子爵家は確実に潰れてしまう。だから私は我慢することにしている。婚約者やゲール伯爵から奴隷のように扱われていても。







バチン!再び叩かれた。





「返事はないようね! ご主人様が命令してるのよ」


悲観していると彼女が騒ぎ出した。無視や口答えすると何回も叩かれる。だからいつものように謝ることにした。


「申し訳ありませんご主人様。私を捨てないでください」


下げたくない頭を下げる。いつもの決まり文句(・・・・・)を言えば、彼女は上機嫌になる。


「ふふ、わたくしに捨てられたら平民になってしまうものね」


毎回言われる言葉だ。自分が平民になることなんてわかっている。

私は文官試験に合格する自信はあるがきっとなれないだろう。なぜなら、娘を溺愛しているゲール伯爵の圧力で潰される。だから私の選択肢は彼女と結婚するしかない。


……ピキ、ピキ、ピキン!


すると、私の何かがヒビの入る音が身体の中に響き渡った。

いったいどこにヒビが入ったのだろうか?

この時の私はわからなかった。




◆◆◆

6年ぶりの休日。






婿に決まってからゲール伯爵家で暮らしている私は久しぶりに我が家に帰る日が来た。明日私は成人になる、その報告だ。


私は我が子爵家を潰さないためにゲール伯爵家へ婿に行くことが決まった一週間後に家を出た。今まで自由奔放に育った私は貴族の教育をそんなにしていなかったのだ。まぁ、家庭教師を雇うお金もなかったしね。だから、ゲール伯爵家で婚約者と一緒に受けることになった。


初めて婚約者と会った時から彼女は何か不満そうな顔をしていた。

それもそうだ。高位貴族のゲール伯爵家が、吹けば倒れそうな子爵家の次男が婿にきたのだから。


なぜ、ゲール伯爵家から潰れそうな我が子爵家に婚約の打診が来た理由が未だにわからない。父さんは政略だといってたけど絶対違う。我が家との繋がりなんてあってもなくても一緒なのだから。むしろマイナスなくらいだ。


でも、我が家が助かるなら何でもいいと自分の中で無理矢理納得させた。

私は住み込みで教育されることになった。

家を出る時、家族に見送られた。皆泣いていた。もちろん私も。

自分の気持ちを押し殺し気持ちを切り替えた。ゲール伯爵家に尽くし我が家の子爵家を建て直し、家族の幸せを守るために。


だけど、家族は私のことなんて何とも思ってなかった。6年ぶりに我が子爵家に帰るとそれがわかった。



以前住んでいたボロ屋敷は建て替えられ、懐かしい屋敷は無くなっていたのだ。よその屋敷に入るように私は言葉を発した。


「只今、戻りました」


「おお! 待ってたぞ!会わないうちに立派になったな我が息子よ」


「おかえりなさい」

と、両親が出迎えてくれた。


両親は昔のような地味な服装ではなく、金持ち貴族のようなキラキラした豪華な出立になっていた。


屋敷だけでなく、両親も変わってしまったようだ。


「今日は明日成人になる報告に伺いました」


「おお、そうか。もうそんな歳になるのか。それに、そんなよそよそしくしなくていいぞ。ここはお前の家でもあるのだから肩の荷を降ろしなさい」


「でしたら今まで通りにいたします。久しぶり父さん、母さん」


「堅苦しいのは私達に会わんからな」


「それで父さん、兄さんはいないの?」


「ああ、去年から留学してるよ」


「はぁ! 知らないんだけど。そんなお金ないでしょ」


我が家は、領民も少なく田畑もやせ細りお金がない。なのに兄が留学! ありえない。と思っていると父が何でもないように語った。



「ゲール伯爵から融資してもらったから大丈夫だ」


「全然大丈夫じゃないよ!返せるあてがあるの!!」


「ハッハッハッ! お前がゲール伯爵家の婿になったんだから大丈夫に決まってるだろう? なぁ、母さん」


「ふふ、そうよ。あなたのおかげで我が子爵家は安泰よ。これからも私達のためによろしくね」


「……」


(私任せかよ!私があのゲール伯爵家でどれだけ我慢して耐えていると言うのに……労いも励ましもなしか……)


文句を言いたかったが、歯を食い縛り我慢した。すると、母からとんでもない相談をされてしまった。



「あなたにお願いがあるんだけど、来月夜会に出なきゃいけないの。だからそれ用のドレスが必要なのよ……」


勿体ぶって最後まで言わない。少し後ろめたさがあるのだろう。


「だから何?」


我慢できなくなり語尾を強めてしまった。すると母が豹変した。


「そんなに怒らないで! 昔のあなたは優しい子だったじゃない」

そして、

バチン!

初めて父に叩かれた。ここでもゲール伯爵家と同じ扱いなのかと怒りを覚えた。


「その態度は何だ! 母さんにすぐ謝りなさい」


……ピキン……また私の何かがヒビが入った。

実の両親からも傷つけられるとは。謝ればいいんだろ。毎日何かしら謝ってるから慣れたもんだけどね。


「申し訳ありませんでした」

ご主人様である婚約者の彼女に謝るように頭を深々下げた。


「……わかればいいのよ。でね、さっきの続きなんだけど、夜会のドレスを新調したいからゲール伯爵に融資頼んでくれない。あなたなら出来るでしょ。見窄らしい格好でいったらゲール伯爵家にも迷惑かけちゃうでしょうし」


(また、融資してもらうつもりかよ。わかったよ、もうどうなっても知らないからな)


「……伝えときます……」


「そう! よかったわ。じゃあ、私はテーラに行ってくるわね」


と言った後、私の前からすぐに消えていなくなった。6年ぶりに会った息子よりドレスを優先する母。もう以前の優しいかった母はもういない。


「さすが我が息子だ」

『どこが!』と言ってやりたがったが我慢した。きっと何言っても駄目だろう。でも、最後の望みを父に託すことにした。私のことを大事にしてくれているのかと。


「父さん、()の夢って知ってる?」


父は当たり前のように答えた。


「そんなの知ってるさ。お前の婚約者を支えてゲール伯爵家を切り盛りし、我が子爵家を発展させることだろ」


「……」


絶句した。私の夢を忘れているだと……父さんの前で私の夢を語ったのに……やはり私は奴隷としてゲール伯爵家に売られたんだ……。


「どうしたんだ。顔色が悪いぞ。あと少しで結婚するんだから身体には気をつけろよ。もし婚約が解消なんてされたら我が家は破滅するんだからな」



……ピキ、ピキ、ピキ、ピキン!

結局、私のことなんてどうでもいいんだな。

もう、これ以上幻滅したくない私は、この屋敷から逃げた。ここにも私の居場所はないのだから。


「おいどこに行くんだ!今日はお前の……」


父さんが何か言っているようだがもうどうでもいい。



私は宿を取り一夜を過ごし、ゲール伯爵家へ戻った。すると彼女がいつものように罵倒した。



「帰ってくるの遅いわ!本当にお前はグズね」


こうして再び奴隷生活が始まった。




◆◆◆

学園にて。


私はボッチで学園内を過ごしている。が、私の婚約者は取り巻きを引き連れ楽しそうに過ごしている。学園では猫を被り、皆に慕われている。見た目が綺麗で次期ゲール伯爵。近付く者は多いのだ。

そんな令嬢の婚約者が私だと気に食わない奴らが多い。だから私に話しかける奴なんていない。

ふふっ、婚約者の本性を知らない奴らは幸せだな。傲慢で我がままだと知ったら皆軽蔑するだろうに。


ボッチの私は食堂で昼食を食べる。彼女は伯爵令嬢なので食堂には来ない。専用の部屋があるのだ。


だが、今日は違った。彼女が男を引き連れ私の元までやってきた。何故かニヤニヤしながら。


「あら、こんな所で一人で食べてるの」


「ハッハッハッ!俺様の婚約者と一緒だな。一人寂しく食事だなんて不様だ」


この男は確かクズで有名な男爵令息だな。向こうで一人座りながら食事してるのが奴の婚約者、子爵令嬢だ。メガネを掛け、地味な装いで彼女もいつも一人だ。彼女はいつも、クズな婚約者に罵倒を浴びせられている。だからかわからないけど彼女は無表情で感情がなく無口だ。そんな彼女と私の境遇が似てるから勝手に『同士』と心の中で呼んでいる。


そんなクズな男爵令息とクズな私の婚約者は何の用事なんだろか?


「ふふっ、驚いてるわね。ショックを受けた顔してるわよ」


「ハッハッハッ、俺様の婚約者も同じような顔してるぜ」


(何いってるんだ?驚いてはいるがショックは受けてはいない。ただ、婚約者のいる身で仲良くしてて大丈夫かなと思っていただけだよ)



「はぁー」

深く溜息を吐いた。


「何よ!その態度。ご主……じゃなくて婚約者として気にならないの?」


いいのか、本性出てるぞ!

別に婚約者が誰と一緒にいても、どうでもいい。婿で奴隷な私には関係ないのだから。


「おい、お前の婚約者の目腐って濁って死んでるぞ!大丈夫なのか?」


初対面で酷い奴だな! 勝手に俺の目を腐らせるな! まだ生きてる……たぶん。


彼は知らない。六年に及ぶ奴隷のような生活のおかげで感情を表に出さない。それに無表情で目のハイライトが消えている。それが一因して誰も近づかないことを。


「それで何の用ですか」


「実はね、私達付き合ってるの!」


食堂の中がシーンと静まり返った。



















「「はぁっ!!」」


一白を置いて俺と向こうに座っている『同士』と声が重なった。


「ハッハッハッ!いいね、その顔。どうだ、お前ら捨てられちまうぞ。フハッハッハ!」



……ピキン。

そっか……捨てられるのか。


「ふふっ、だから婚約を解消しちゃおうかなって思ってるのよね。お父様に今日伝えちゃおうかな〜っ。困るでしょ、ねぇ困るでしょ」


ニヤニヤして気持ち悪い奴らだ。


「……」


そして、彼女が畳み掛けてきた。

「何とかいったらどうなの?このまま解消したら平民になっちゃうのよ。本当グズで役立たずね。口答えもできないなんて情け無い。だから皆んなにわたくしの奴隷(・・)だと思われているのよ」


ピキ……ピキン……ガシャーーン!


ジャラジャラ……。


初めて婚約者に奴隷と直接言われ我慢の限界を超えてしまった……とうとう、彼を縛っていた鎖が砕け散ってしまったようだ。


(ああ、今まで身体中に響いていた音はこれだったのか……これが私の自由を奪っていた鎖なのか。

なら、もう私を縛るものはない。だから、我慢しなくてもいいよね。ふふ、なんだか楽しくなってきた)


「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ」


「な、何だこいつ!急に笑い出したぞ」

気味わるそうに後退りするクズ男爵令息。


「ハッハッハッハッハッハッ」


まだ笑い続ける。彼女はすぐに異変に気づいた。これはただごとではないと。



「どうしたのよ。ねぇ、もしかしてショックで壊れちゃった!」


「ハッハッハッハッハッハ! ……はぁ……はぁ……」


まだまだ笑い続ける。今まで笑ってなかった分まで。少し疲れた。笑うのも疲れるんだな。久しぶりで忘れてたよ。



壊れたように笑い続ける彼を見て彼女は勘違する。狂うほど私を愛していると。


「ふふっ、そんなにわたくしと結婚したいの。じゃあ、撤回して……」


元婚約者(・・・・)の声を遮り、今まで溜めていた鬱憤を晴らした。


「ショック?はあっ!バカ言ってるんじゃねぇよ。今の言葉のおかげで()は自由になれたんだ」


「えっ!」


従順だった婚約者の代わり様に驚いた。一人称が出会った頃(・・・・・)の僕に変わっていることに……本当に壊れてしまったのかと。


「ここまで言われれば君とは結婚できない。それに、こんなにも証人がいるんだ、もう撤回なんて出来ないよ」




「な、何いってるのよ! 本当に婚約解消するわよ」


「解消にはならない」


「そ、そうよね」


ホットし喜ぶ元婚約者。



「解消ではなく破棄だよ。あーあ、もっと、早く僕を解放してくれたらよかったのに。ふふっ、2人は恋人なんでしょ。婚約者のいる身でありながらこのクズ男爵令息と付き合ってるって自分で告白してるんだから馬鹿だよね」


「違う、わたくしは……」


言葉が詰まって言えなかった。『あなたが好きなの』と。今までいったことのない言葉、本当の自分の気持ちを正直に言えなかった。



「ハッハッハッ!言い訳でもあるのかな?でも、側から見れば不貞してるって告白してるもんだよ。だから解消じゃなく、婚約破棄だよ、君達有責でね」


「「なぁっ!……」」


 クズ二人はやっと気づいたようだ。自分達の失態を。本当にお馬鹿さんだね。



「息ぴったりでお似合いですよ 」


顔を赤くした元婚約者がいつものように脅しに入った。



「いいの!結婚しないなら、お前は平民になるのよ」


これを言えば、僕がまた平謝りをし元に戻ると彼女は本気で思っているようだ。

だが、そうはならなかった。


「そうだね。きっとゲール伯爵は僕のこと許さないだろうね」



「そ、そうよ! ねぇ、今ならまだ間に合うわ。何もなかったことにしましょ。ねぇ、ねぇ?」


彼女は必死に引き留めにかかった。このままでは彼が自分の元から去ってしまうとやっと危機感を覚えたのだ。

だが、もう遅い。



「う〜ん、考えたんだけど、平民になってもいいと思ってるんだ」


「えっ!」


「平民になれば君の課題や領主教育もやらもやらなくていいし、それに……」


「それに何よ!勿体ぶらずに早く言いなさい」


「君と結婚しなくて済む」


平民になれば貴族と結婚できないのだから。


「なんでそんな酷いこと言うのよ!」


「そんなに酷いかな?僕はいつも君に奴隷のように扱われていたのに。そんな君より酷いなんてある?」


「……」


何も言えなかった。今まで酷い仕打ちをしていたのだから。



「僕はもう成人した。この意味かわかるよね」


「えっ? ……もしかして、貴族から籍を抜けるつもりじゃないわよね?」


「そうだよ。だからこの学園も今日でおさらばだ」


この学園は貴族学園で平民は通えない。


「そ、そんなの許さないんだから!いいの、あなたの両親には返せないほどの融資をしてるのよ。わたくしと結婚しないとどうなるかわかるでしょ。子爵家が無くなるわよ」


「別にいいよ」

即答した。

「へっ?」

予想外の反応で面食らった彼女。確か彼は家族を大切にしていたはず。だから、彼が逃げれないように融資していたのに……何でそんな簡単に捨てれるの……自分の家族を。

どうしてか理由がわからなかった。

彼女は彼がもう家族に見切りをつけていることを知らないのだ。


「お二人様お幸せに」

もう、話は終わりだと席を立った。



「……好きなの愛してるの」

彼女が俯きながら本当の気持ちを彼に伝えた。が、彼には届かなかった。だって、今まで愛された記憶がないのだから。


「恋人に熱い告白だ! ヒューヒュー! 男爵令息は幸せ者だ。お互い真実の愛で結ばれてるんだね」


僕は2人が結ばれるように仕込んだ。これで『同士』もクズな男爵令息と結婚しなくて済むだろうしね。


「「違う!」」


クズ2人の声が重なった。仲がよろしいことだ。お似合いだね。



「では邪魔者は退散致します! じゃあねご主人様……いや、元婚約者様かな。さようならー!」


何だか彼女が口をパクパクさせながら顔面蒼白になっているように見えるが何でだろう?

でも、どうでもいい。


そして僕は『同士』を少しの間見つめた。いつものように無表情だったが、少し晴れやか表情をしているように見えた。

きっと同士もクズと婚約破棄できると思っているんだろうね。こんなクズな婚約者、嫌だろうし。彼女も僕のように自由になれればいいのにと心の中で思った。


最後、同士に頭を下げ立ち去った……同士に幸あれと。


急に何だか後ろでギャーギャー騒いでいるようだが振り向かなかい。もう元婚約者の顔色をうかがわなくてもいい。だって、僕を縛る鎖はないのだから。


そして門を抜けると久しぶりに清々しい気持ちなった。空を見上げると雲一つない晴天であり、鳥達が羽ばたいていた。まるで新たな旅達を祝福しているようだ。

僕は駆け出したい衝動に駆られ、走り出……せなかった。


「いぐぅえーーっ!」


なぜなら、僕の服を後ろからひっぱられ首が閉まってしまったのだ。苦しい!

誰だよ、僕の門出を邪魔するのは!

 


首を摩りながら振り向くとクリクリお目目の可愛い女性がいた。こんな生徒いたかな?

と思っていると彼女が喋った。


「私も行く」


「どこへ?それと、どちら様でしょうか?」


本当にわからない。だが彼女の次の発した言葉で理解した。


「……同士」



「……えっ! もしかして子爵令嬢!」


そして、コクリと彼女が頷いた。



「……よく見ると面影がある。ってか、その前に君も同士だと思っていたのかい」


再びコクリと頷く。


「うん、そう。だから、あなたのおかげで踏ん切りがついた。私も貴族やめる」


無表情で抑揚のない声で喋った。やはり、僕の同士だった。野暮ったいメガネを外すだけでこうも変わるとは。


「何で君までやめるんだ。いいの?君は確か女子爵になるだろ」


彼女と僕とでは立場が違う。そんな簡単に貴族籍を捨てることはできないはずだ。


彼女は少し考え、答えを出した。



「……私もあなたと同じ。もう束縛されたり搾取されるのは嫌」


切羽詰まった理由が彼女にもあるのだろう。無表情だけどもう限界だと顔に書いてあった。きっと僕と同じで我慢の限界に達したようだ。


「……わかった!とりあえず役所に行こう。その間に君が今まで何かあったか聞かせてくれるかい?私も言うからさ」


「うん、わかった」


感情を読みにくい表情だが、少し嬉しそうだった。だから私は助言してみることにした。


「こんなに可愛いいなら、初めからメガネ外せばよかったんじゃん。でも無表情は治した方がいいかな。せっかくの可愛い顔が台無しだ」


すると素早いカウンターが返ってきた。

「腐った魚の目をしてる人に言われたくない」


「グハァ」


会心の一撃を喰らってしまった。

クズ男に言われる分にはいいが、同士の彼女に言われるときつい。


「く、腐ってないし! って言うか僕の目そんなに変?」

 

今日2度も言われるなんて。



「うん、でもさっきより良くなってる……気がする?」


「なんで断定してくれないの! 本当に腐ってるみたいじゃないか!」


「……ふふ、おもしろいね。嘘、ちょっと揶揄いたくなっただけ」


今まで無表情だった彼女が笑った。ドクン! 

僕の胸が久しぶりに高鳴った。

幼い頃に出会った向日葵のような笑顔の子と似ている。けど違う……だってあの子の髪色と全く違うし、喋り方もまったく違う。

でも懐かしい。きっとあの子が大きくなっていれば彼女みたいな女性になってるだろうと想像した。


「何だよ。笑えるんじゃないか」


彼女と話していると、あの頃の自分が戻ってくるようだった。


「いつもは笑わない。あなたのおかげ、ありがとう」


「お、おう、どういたしまして」


最近感謝されたことがない僕は、気恥ずかしい気持ちになり顔が赤く染まった。

こんなストレートに感謝されるのはあの子以来だなと。


そして二人は離籍書を提出し、着の身着のまま、その日に国を出た。僕は子供の頃の夢を叶えるため。彼女は自分のやりたいことを探すために。



こうして、鎖に繋がれ、カゴの中に閉じ込められていた二羽の鳥は雲一つない空に飛び立った。もう、元の場所には絶対戻ってこない。なぜなら二羽はやっと自由を手に入れたのだから。



















◆◆◆

それから数十年後……


彼は後に世界中で誰もが知る有名人になる。未発見の動植物を次々に見つけ、中には不治の病にも効く薬草を発見する大偉業を成し遂げた。

周りの人には、どうしてそんなに発見出来るのか、コツはあるのかとよく聞かれる。

すると、彼はいつもこう答えていた。


『全て妻のおかげだよ。彼女の向日葵のような笑顔を見ると毎回、夢見たあの頃の自分に戻れるんだよ』と。










終わり












◆◆◆

おまけ、その後のお話。設定。


⭐︎実家


主人公の実家はゲール伯爵家からの融資がなくなる。婚約破棄の慰謝料で融資の件は相殺になる。が、今までの裕福な暮らしを続けてしまい借金地獄になる。後に爵位を返上し平民になる。

もちろん隣国に留学していた兄も。





⭐︎元婚約者、ゲール伯爵令嬢


⭐︎設定


実は彼が幼い頃に出会った女の子。


新薬で病気が治るが後遺症で髪色が変わってしまう。


そして父母の甘やかしで彼女は我儘娘に育ってしまう。


彼女の願いで彼を婚約者にするが、彼に気づいてもらえないため厳しく当たる。


プライドが高いため自分から正体を話せないでいる。いつか、きっと気づいてくれると信じて。

  



⭐︎彼がいなくなった後


婚約者を失った彼女に新たな婿入りに手を挙げる者は誰もいなかった。学園での醜態が貴族の間で知れ渡ってしまったのだ。奴隷になりたくないと。あと、課題を自分でやっていないことがバレ留年する。クズ男爵令息も。

結局、真実の愛?の相手を婿に入れることに。


だが、二人とも領主教育が上手くいかない。その為、ゲール伯爵は爵位を娘に譲らず親戚に譲ることに。


そして二人は田舎の小さな屋敷においやられる。

クズ二人は仲が悪い。似た者同士だから。

ただ、お互いの婚約者に嫉妬してもらいたいがために、恋人の振りをしていただけ。


唯一の楽しみは五年に一度、新たに出版される動植物図鑑に彼の名前がついた新種の動植物を見つけること。


そして、後悔する。図鑑に載っている絵姿には彼と仲良く寄り添っている元子爵令嬢を見て。

二人は夫婦になっていた。


五年に一度、これを繰り返し彼女は再び後悔する。もし、意地を張らずに自分の正体をバラしていれば、彼の隣には自分がいたと。



◆◆◆


ここまで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m


以前にプロットで書いたものがあったので投稿しました。

モチベーションが上がりましたら、主人公以外の目線を新たに短編を投稿したいと考えております。予定では元婚約者、ゲール伯爵、実家視点のさまぁ編、元子爵令嬢。投稿する場合はキャラクターの名前を付けます。



◆◆◆

5/29追加情報!

評価して下さった方々ありがとうございますm(_ _)m

おかげさまで、日間総合ランキングに入りました! 

のでおまけ情報追加します。





◆◆◆

おまけ、設定、その後。

⭐︎元婚約者の父、ゲール伯爵



下位貴族の彼を婿に入れることに反対していたが、娘のお願いだからと渋々了承する。

一応、娘に生きる気力を与えてくれた命の恩人だからと我慢。


そうは、思っていても気にくわない。なので厳しく教育する。

が、耐え忍ぶ彼をしだいに認めていく。彼を伯爵にする予定だった。だから娘の分まで教育をしていた。

だが、逃げられてしまい頓挫する。娘には女伯爵は無理だと理解していた伯爵は困ってしまう。すぐに彼を探しても見つからない。

諦め、新しい婿を探す。が、誰からもいい返事は返ってこなかった。

既に娘の醜態が貴族間で広がっていた。なので新たな婿を探しても来ない。しょうがなく、クズ男爵令息を婿に入れた。


新しい婿は娘と同じく領主教育が捗らない。先祖代々守って来た伯爵家を守る為、親戚から養子をとり、その養子に爵位を譲ることにした。


そして伯爵は後悔する。

もっと、娘の恩人を大事にすればよかったと。意地になっていた自分を呪った。

愛娘を幸せにしてあげれず後悔。



引退した元伯爵は動植物図鑑に彼の功績がのっているのをたまたま目に入る。そこには、自分らに一度も見せたことがない笑顔の絵姿が描かれていた。

その横には夫婦となった、元子爵令嬢と一緒に。


本来なら娘が隣にいたはずなのにと。娘と同じく後悔を噛み締める日々を過ごすのだった。



◆◆◆

5/31追加情報!

昨日よりランキングが上がりました。評価してくださった方々ありがとうございますm(_ _)m


また、おまけ情報を軽く追加します。



設定


元子爵令嬢の家族、男爵令息 


ただのクズ達です。以上、終わり。




読んで下さりありがとうございます。

【☆☆☆☆☆】を押して応援して頂けるともちべが上がり嬉しいです( ◠‿◠ )執筆の励みになりますのでよろしくお願い致します。


誤字報告ありがとうございますm(_ _)m



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