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おもちさんと一緒  作者: ちー
3/3

おもちさんと暴走

 あなたたちは潮風を遮る窓の内側から、巨大な木造船を眺めていた。


「わあ。大っきな穴」


「ちーちゃん見て! 海水がドバドバ入ってますわぁ!」


「そだねー」


 感情の抜けたあなたと、テンションの上がったおもち。

 木造船は横っ腹に大きな穴が空いていて、ゆっくりとだけど確実に傾いているのが見てて怖い。


「こんな事が出来るなんて錬金術やん。金属のレバーから合皮っぽいソファーまであるし」


 あなたは小型クルーザー並みの船内を見渡して言った。

 この船はおもちが木造船の横っ腹から材料をぶん取って作った魔道具だけど、素材と完成品の材料が一致しなくておかしい。作った本人は操舵席の隣にしつらえた台の上でニコニコしている。


「魔法も錬金術も同じ超常のことわりを行使しているのですわ。金を精製出来ると、国に軟禁されて死ぬまでそれだけやらされるので錬金術を名乗る人は少ないですわね」


「へぇー」


 あなたは天井のシャンデリアを眺め、豪華な簡易キッチンに目を移し、操舵席のパネルのきらめきをチラ見する。


「き――」


「気のせいですわ」


 おもちの首があなたに向き直り、


「気のせいですの」


「むう。そーゆーことなら。うん」


 強い笑顔での念押しにあなたが頷くと、優しい微笑みに変わる。


「素直過ぎるのも考えものですわ」


「む。なんか引っ掛かるなぁ。わかんないよー? 何処かに着いたら、錬金術使える人ですーて権力に突き出して報償金をゲットするかもよ?」


 軽口を叩くあなたは知らないけれど、誓約の儀が発動したら魔力の流れでわかるの。だからでしょうね、おもちはあなたの事を好ましく思っているみたい。


(くすくす。誓約が全く反応しないですの)


「嘘の下手な子。さて、後始末はその権力にお任せして、とっとと出発しますわよ」


 器用にポンと跳ねて、おもちがあなたの膝に乗る。


「舵輪で方向、立ってるレバーで加減速ですわ。推進は水鉄砲みたいなものなのでレバーはゆっくり引いて下さいまし」


「上手く転がされた気がするけれど離れるのは同意なので。はーい」


 おもちが膝に乗ったのは、あなたを介して船に魔力を供給するためで、それは理解している。


「お腹がいいクッションですわ」


「うっさい。レバー引くよ?」


「よきよきですわ」


 それは操作とお腹の脂肪のどっち? と思ったあなただけど、口にするとからかわれる気がしたので止めた。

 推進は魔力で固めたタンクに海水を過剰に取り込む事で発生する圧力を利用しているそうで、細かい調整はこれからと聞いている。要はぶっつけ本番ね。あなたはレバーを引く。


「わ、軽っ。こんなんで――」


 身体強化されたあなたには羽毛の様な軽さ。それは不安にもなるでしょう。だから、


「おっひょっわあぁ!!!」


「ぅわあ!?」


――スコン、 バキッ!


 おもちの奇声にビックリして一気に引き倒してしまった。


「え。取れた?」


――ドン!


 背後で轟音と振動。

 と認識する間も無く船が一気に進み、強烈な加速Gであなたは座席に、おもちはあなたのお腹に押し付けられて。


「「ぎゃああああああああ!!!」」


 品の無い叫びを撒き散らしながら、船は小波の山から山へと飛ぶように海上を走った。

 中波を突き破って上向きになり、次の大きな波を猛スピードで駆け上がって、


「「あああああああーーー!!!」」


 空へと飛び去った。





 賢者たっちは自分で用意したスツールに腰掛け、出されたハーブティーで喉を潤していた。なのは丼の様な器に何かのパウダーとお湯を入れてかき混ぜている。


「マッサージジェルですか」


「まあね。足の親指周りってツボが集まってるらしいの。指の股にもね」


 とぷん。

 おもちの足指をジェルに落とし、ぷるぷるの柔らかなブラシで優しく洗うように、親指、人差し指、指の股、と丁寧にマッサージしていく。

 賢者たっちはハーブティーの香りを楽しみながら、疑問を言葉に乗せてみた。


「それは何かの効果を狙ってのことですか?」


「んーー、なんとなく? もちち心細いかもだし」


「なるほど。ところでお昼ご飯は食べましたか?」


「え? どうしたの急に」


「お腹が空きました。私はカレーがいいです」


「そろそろ帰る? もちちの足指を届けてくれてありがとね」


「帰りません。私はなのさんのカレーが食べたいのです」


「もちちと一緒ならついでにね。残念でした」


「なるほど。今回は諦めましょう。ふと思ったのですが」


「うん? 何かしら」


「突然生暖かい口に足の指をチュパチュパされたらどう思いますか?」


 なのの手がピタリと止まった。

 じぃっと、おもちの足指を凝視すると、感触を拒絶しているのか震えながら閉じたり開いたりしている。なんだか知らない生き物みたいに。考えてみれば、これはおもちが見ることの出来ない指だ。ぬるぬると良いようにされて相当気持ち悪いはず。

 なのが「んんっ」と軽く咳払いをして顔をあげると、たっちは他所よそを向いてハーブティーを啜っていた。カレーの話は足指から意識を逸らすためかもしれない。やられた。

 なのは、なんとなく西の方を見て。


「てへぺろ♪」


 自分の頭をコツン、とした。


 



「ぎゃあああああ!! 足元に何か居ますわ!! あたいの足をパックンチョしてますの!!」


「ぎゃあああああ!! 墜ちる墜ちる墜ちる!! んあああ今度はお日さま直撃コース!!」


 飛び立った船の推進力は衰えを見せず、揚力も制御する装置も無いまま錐揉きりもみ状態で急上昇と急降下を繰り返している。


「この船なら簡単には壊れないから大丈夫ですわ!! それよりあしあしあしいいいいいい!! 親指と人差し指が!! ぺったんもちもちされてますのおおおお!!」


「船は良くても人間は簡単に壊れるの!! 命がポーンなの!! 足くらいあとで生えてくるから船をなんとかしてええええ!!」


「ちーちゃん!! 今のは聞き捨てならないですわ!! おもちさんの足を両生類の尻尾と一緒にしないで下さいまし!!」


「余裕あるじゃん!! 実は楽しんでるでしょ!! 文句より制御を優先してよおおおおお!!」


「んぎゃああああ!! ちーちゃんの悲鳴たまんねぇですわああああ!!」


「強がってるだけだったあああああ!!」





 なのが首を傾げて賢者たっちを見る。


「いま何か聞こえた?」


「心配し過ぎると幻聴が聞こえたりするそうですよ。気晴らしに狩り場でも行ったらどうですか? 誰かを監視役で付ける事になりますが」


「あら。デートのお誘い?」


「肝心なとこスルーしてんじゃねぇ」


「あははは、急な辛辣しんらつありがと。やっぱりたっちはこうじゃないと」


「心外ですね」


 これはいつものこと。

 元々なのか賢者の称号に合わせているのか、基本的にたっちの言葉は柔らかいのだけれど、ツッコミになると荒れた言葉を使うことがある。こういう所がまるでおもちと話しているみたいで、この師匠にしてあの弟子ありねと、なのは1人くすくす笑いながら話題に乗る事にした。


「素材も欲しいし、ちょっとだけ狩り場に行ってみるね」


「監視役は見所のある新人を付けるよう、冒険者ギルドに伝えます」


 たっちはカップとソーサーをカウンターに置いた。


「あ、新人の事はご心配なく。私が護衛につきます」


「そんな危険な所はいかないわよ?」


 なのがいぶかしげに聞くと、たっちは。


 じいーーーーーーっとなのを見て、


「では、後ほど」


 踵を返した。

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