その手は重ねられる色だよ
「だってだって!私の手は……真っ赤なんだよ」
あの日、自分の罪を告白するように、貴女は僕に怒鳴った。
「手なんて繋げるわけないじゃない……だってさ……こんな真っ赤な手を繋ぎたいわけないもの」
貴女は他人に見られないように、自分の手のひらを自分の手で包むと、俯いて涙を必死に堪えてるみたいだった。
「だから、私は普通の人の幸せが手に入らなくてもいい………貴方の背中を押したり、貴方の帰りを見送ったりしたいだけなの」
おおよそ、僕に恋しさをぶつける貴女がソレ言います?とか言っても怒られんのかな。
だから、貴女は普通の人みたいにバイバイって手を振ったりしないのか。その手の色がバレちゃうから、いつも手を後ろに隠して僕が家に帰るのを見送ろうとしていたのか?
「(…アホらし、とか言ったら僕を殺してくれたりしないだろうか……それこそ嫌われるか」
僕の好きな人は自分自身のことが好きになれないらしい。だから、他人が自分の事を好きになる未来がないと思いたいみたいだ。
なんて身勝手な人なんだろうと思った。
「僕の気持ちは無視ですか……?」
手を握るのがダメなら、僕は貴女を抱きしめて、キスして、泣かせてでも貴女の全てを奪いたい。それを全力の理詰めと難問とが僕を毎日否定した。
「アンタはかぐや姫かよw」
思わず、僕は笑ってしまった。
「え?(いま笑うところあった?」
「あったあった。僕が、夢の中に逢いに来てよって言ったの覚えてます?」
「うん」
ずっと好きでいる間、貴女が夢に出てきてほしいって思っていた。それは、実際には会えない事が明らかだったからだ。
だと言うのに、貴女が僕に「さようなら」を言った日の夜にだけ出てきて、僕に「もう!私のことなんて放って置いてよ!」と、また怒鳴ったんだ…。
なんだか、それがたいそう腹立たしかった僕は、ムキになって現実の貴女を探した。
そして、ついに貴女の家を見つけ出した僕は、貴女の家に勝手に住み着いてしまったんだ。
「結局、いつになったら貴女は、僕の夢の中に出て来てくるんでしょうかね…」
「毎日会ってるんだから、もういいでしょ…ソレ」
なかば、呆れた貴女は僕を貴女の家にあげてくれることを許してくれた。
甲斐甲斐しく餌を与えられ、一緒のテレビを見て、貴女が眠りについてから僕も眠る。
たまに、この生活が幻想なんじゃないかって思う時がある。
眠りについた貴女の手を掴んで、僕の手のひらよりも綺麗な貴女の指に自分の指を絡める。
「(やっと…………やっと眠れる、ような気がする……………………」
まるで祈りを捧げるように、貴女の手を包んだ。
「真っ黒に染まった僕の手はね。他の人間と違って貴女の赤には染まらないよ」
だから、安心して眠っていて……僕の大好きな人。
そして、貴女よりも罪深い僕をずっと蔑んだような瞳で見続けてよ。
貴女が貴女を嫌いなように、僕もこの世界で1番僕が嫌いなんだ。
貴女は一生、僕を好きにならないでいて…。貴女の選択は間違ってないよ。ちゃんと正しいよ。