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果てなき時空のサプニス  作者: インゴランティス
第5章 プルイーリの試練
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第24話 黄金の獅子

「ボチャネス、ってあいつら言ってたけど……」


「この町の偉い人でしょ!? そういえば魔晶取られたまんまだよ!」


「あたしの魔晶盗っといて、ただじゃ済まさないわ」


「逃げたほうがいい。ろくな奴じゃないぞ」


「殺せばいい話よ。手下ごと皆殺しにしてやるわ」


「やめたら? もう疲れたでしょ」


 ここで二足歩行のライオンが、大勢の兵士を連れて出現する。フサフサのたてがみを三つ編みにしている。全身を黄金のローブに包み、兵士数人に黄金の長い筒を担がせていた。


 ライオンの隣で、ブロッコリーが大声を上げる。


「お前ら、何をボーッとしてる! ここにおられるのは、この世で最も美しいお方だ。挨拶ぐらいしろ!」


「あんたがボチャネス!? 今から――」


 ターニャは威勢よくたんかを切ろうとしたが、途中でミスペンに精神操作で止められてしまった。それでもクイが盛んにバタバタと翼を動かし、ジャンプしてこの町の主に


「魔晶を返せー! ラヴァールとか、みんなで稼いだ魔晶なのに!」


「ホホホ、なんの話ですか?」


「ボチャネスさん、ずっと気になってたんです」パフィオも続いた。「町の人達は古い家に住んでるのに、どうしてあなたひとりだけ金色なんですか? 魔晶を皆さんに分けたりしないんですか?」


「無礼だぞ! ボチャネスさんの前だということを理解してないのか!」側近のブロッコリーが過剰な大声を放ったが、ボチャネスがにこやかに止める。


「ホホホ! そんなに怒ることはありません、タンジェ」


「はい」とブロッコリーはおとなしく頭を下げ、黙った。そしてボチャネスは前に出てくる。


「ワタクシごきげんですよ。あなた達、土にまみれていい気味ではありませんか? イソギンチャクにボロ雑巾のようにされて、赤い玉を投げ合って、草の上に寝転がって。いい出し物ですね」


「えーっ、ひどい言い方!」


「見てたの!?」


「そうですね、遠くから見てましたよ。ワタクシの屋敷からはなんでも見えます。あなた達の出し物、毎日見せてもらいたいぐらいですよ。泥棒に盗まれた物も、なんかラヴァールとかいうのが取り戻してくれたみたいですし。今日は最高の日ですね」


「それで、僕らの魔晶も盗ったんじゃないの?」


「そうですねぇ……」にこやかだったボチャネスの表情が、見る間に真顔になっていった。「今日は最高の日だったんです。素敵な出し物も見れましたし、盗まれた物も戻ってきました。でも、それなのに……ワタクシが人の魔晶を盗ったなんて、そんなことあり得ませんよ。だって、プルイーリはワタクシの町。ワタクシ、ただひとりのための町なのです。だからこの町にあるものは、ぜーんぶ、ワタクシのものです! もちろん、あなた達だってそうですよ。だって、あなた達はプルイーリに足を踏み入れたんですから!」


「何言ってんの、この人……」


「だから、ろくでもない奴だと言っただろう?」


 腰巾着のブロッコリー、タンジェがボチャネスに訊く。


「ボチャネスさん、どうしましょう? こいつら潰しちゃいますか?」


「そうですね、でも……こんなに素敵な時間を過ごしたんです。もっと素敵で美しくしてあげてもいいと思いませんかぁ?」


「そうですね、それは名案です!」腰巾着のブロッコリーは満面の笑みで言った。


「お前達、ボチャネス・バズーカを」ボチャネスは真顔のまま指示する。


「はい!」


 ボチャネスの後ろにいた取り巻きが返事して、彼に何かを渡す。それは、金色に輝く大きな筒だ。ボチャネスはこの筒を肩に担ごうとした。


 が――それはできなかった。ボチャネスは膝から崩れ落ち、寝息を立て始めた。金色の筒は地面を転がった。それを拾う者はいない。ボチャネスの手下もすべて、精神操作で倒れたからだ。


 一行の間に安堵が広がった。


「ふーっ、変な奴らだったねぇ」


「またミスペンのおかげで助かりました」


「魔晶、取り返せないかなぁ」


 テテ、ドーペント、クイが口々に喋るのを制し、ミスペンが仲間全員を「早く離れるぞ!」と急かす。


「なんで?」


「どうしたの?」


「ああいう手合いはしつこい。面倒になる前に行くぞ!」


 ターニャは大鎌を構えて言う。「そんな面倒になるくらいなら、ここで全員殺してあげるわ」


「気持ちはわからんではない。こいつらの被害者は少なくないだろう。が、殺すほどじゃない」


「はい。それは可哀想です」パフィオがうなずいた。


 ミスペンを先頭に逃げようとする一行。しかしテテがボチャネス達のほうを指差す。


「えっ……あいつ!」


 言われて見た時にはボチャネスの手下のひとり、青々としたゴーヤが金色の筒をつかみ、ユウト達へ向けてんでいた。


「ミスペンさん!」


 パフィオが仲間の前に走っていき、身を挺して守る。ミスペンは彼女を避けるように手を伸ばし、とっさにゴーヤに精神操作を掛ける。ゴーヤの足はぐらついて、バズーカは地面に落ちたが、しかしこのバズーカはもう発射態勢に入ってしまっていた。筒の先から金色の弾が発射され、そして――爆発音とともに、その弾と同じ色の濃霧で周囲は何も見えなくなった。ユウト達の悲鳴が響きわたる。


「うわあぁぁぁぁ!!」


「きゃーーーっ!!」


 ゴーヤは消えそうな意識の中で、霧の中に白い光が数か所、円をつくっているのを見た。霧が徐々に晴れてくる代わりに、数秒で白い光は消える。ユウト達の声がまったく聞こえなくなったことで、きっと敵を始末できたのだろうと満足げな笑みを浮かべ、ゴーヤは眠った。


 ほどなくブロッコリーのタンジェが目を覚ます。


「……ん? あぁ、私は一体……。はっ、ボチャネスさん!」


 タンジェがボチャネスの肩を揺すると、彼はすぐ目を覚ました。


「えー……ワタクシどうしたんでしょう。大きなお風呂に入っておりました。数えきれないくらいたくさんの魔晶珠のお風呂です。ワタクシ、魔晶珠が大好きなのです。まん丸いフォルム、ぼんやりした光、中で燃えてる火がキュートです。あのよそから来た冒険者どもから奪った魔晶珠では、全然足りません」


「絶対、いつかそんなお風呂に入れますよ。それより、敵が誰もいません!」


 金色の霧がだんだん晴れてくる。まだ遠くは見えないが、先ほど視界にいたユウト達が誰一人いなくなっていることはわかった。


「おおお……。さすがはワタクシのボチャネス・バズーカです」自画自賛しつつ、ボチャネス本人は戸惑いの顔をしていた。


「あんなにいた邪魔者がひとりもいなくなるなんて、びっくりです! さすがボチャネスさんです、こんなに強かったんですか。ボチャネス・バズーカは一発で何人かしか吹っ飛ばせないはずなのに、今日は一気にみんな吹っ飛ばしちゃいましたね」


 ブロッコリーのタンジェがボチャネスを称賛するが、当のボチャネスは戸惑いの顔つきのまま、固まっていた。


「ボチャネスさん?」


「えっ? ああ……」


 急いでボチャネスは勝ち誇った顔を作り、それを取り巻きに大げさに見せる。


「ホホ! きれいに吹っ飛びましたね。これがボチャネス・バズーカの威力! 今日はいつもより素敵な弾が出たようです。いい気分ですねぇ! ……ところで、ボチャネス・バズーカはどこでしょう?」


 周囲を見ると、金色の筒を抱きかかえたまま眠るゴーヤがすぐ近くにいるのに気づいた。ブロッコリーのタンジェが起こす。


「ザスパリガ! 起きろ。それはボチャネスさんのバズーカだぞ!」


「あっ……すいません」ゴーヤは片目を開けて身を起こし、バズーカをボチャネスに譲った。


 タンジェは、眠っている他の取り巻きを殴る蹴るなどして起こして回った。その間、ザスパリガは先ほど起きたことを思い返していた。


「……さっきは何が起きた? あの白い光はなんだ……。敵はなぜ、一発で全員消えた? ボチャネス・バズーカは、あんなにも強力な武器じゃなかったはず……」


「ザスパリガ! そこで何してる!」タンジェの声がする。見ると、ボチャネス達はプルイーリへ帰っていくところだった。


「あっ、はい!」


 ザスパリガは立ち上がるが、もう一度怪訝な顔をして、ユウト達がいた場所を見つめた。

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