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果てなき時空のサプニス  作者: インゴランティス
第5章 プルイーリの試練
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第23話 導く者

「あっ、ここにいた!」


 クイが歩いてきた。後ろからドーペントとテテ、ボノリー。怪我が治っていない中で、多少ふらつきながら歩いている。


「はぁー、怖かったぁー」


「ユウト! 大変、軟膏塗らないと!」テテが塗ってくれる。


「うあっ、痛てて!」


「痛いんですか? 大丈夫ですか? やっぱり回復が必要ですか?」パフィオが顔を近づけてくる。


「えっ……えー、と……」


「パフィオは大丈夫なの?」


「はい。それよりも、皆さんが心配で。ターニャさん、怪我してないですか?」


「いい。心配しなくても」


 ミスペンは黙って4人に近寄り、術で回復してやった。テテがまず気づく。


「あっ、ミスペン! 何も言ってないのに、悪いね」


「テテの軟膏は痛くなるけど、ミスペンの魔法は全然痛くないから、ミスペンのほうがいいね!」


「悪かったね……」


「魔法ではなく、術なんだがね」




 そこに、黒とグレーの獣が胸を張って歩いてくる。バクのギャゴーンだ。


「あーっ! 頂点の弟子だ!」


「あいつはギャゴーンか」


「どうしよう、パフィオ助けて!」


「はい。でも、まずお話をしましょう」


 近づいてきたギャゴーンは言う。


「やれやれ、精神操作にはすっかりやられちまったぜ。ミスペン、やるな。おっ、あそこにいるのはユウトだっけ? 大丈夫か? 血だらけだな。でも、生きてるみたいだぜ。よかったな」


 ターニャは大鎌を構える。


「ノコノコ来るなんて度胸あるじゃないの。殺してあげるわ」


 斬りかかっていこうとするが、いつも通り精神操作で止められた。


「あっ……もう! ミスペン!」


「ハハハ」ギャゴーンは笑う。「おい、鎌のお前。いつも通りだな。もう戦いは終わりだってのに威勢がいいぜ」


「何? 戦いは終わり?」


「そうだぜ。お前らはラヴァール様の試練を突破したんだぜ」


「本当か?」


「信じていいぜ。ラヴァール様は嘘なんかつかないぜ」


 それを聞いたミスペン達は一気にリラックスした。


「はぁ~、よかったぁ。どうなるかと思ったよ」


「助かったぁー。もうこんなの勘弁してよね」


「ラヴァール様がお前らを認めたってことだぜ。よかったな」


「よかったです」


 しかしパフィオは真剣な目をして、ギャゴーンに詰め寄っていく。


「よくありません」


「ん? なんだぜ?」


「ユウトさんは、こんなに大怪我したんですよ。クイさん達だって。クイさんは、死ぬかと思ったって言ったんです。こんなひどいこと、やめて下さい」


「そうだよ! パフィオが助けてくれなかったらどうなってたか」


 ギャゴーンが答えようとしたが、それを遮り、オレンジ色の鳥が飛んでくる。


「その心配は要らない」


「あっ、サイハ!」


「今日の戦いは単なる試練に過ぎない。命を奪い合う戦いではないが、あたかもそうであるかのように戦うことが目的だったのだ」


「実戦のつもりでの手合わせ、か。確かに理には適っているか……」


「ラヴァール様はパフィオとピサンカージの戦い、そしてユウトとヘリトミネの戦いを見ておられた。ヘリトミネはユウトを追い込むが、ピサンカージを倒したパフィオが助けに現れ、ヘリトミネを倒すことも読んでいたのだ」


「全部あいつの手のひらの上だと? 彼はそこまで……」


「信じたくなければ勝手にしろ。だが、あの方はすべてを理解しておられる」


「それでもやっぱり、つらいです。こんな戦い、する必要があったんでしょうか?」


「だよねー」


 と、そこにまた頂点の弟子がひとり現れる。


「甘いね」それは大剣を肩に担いだてんとう虫。


「チェレッカ!」


「そんなことでどうすんだい。強くなりたくないなら、邪魔だ。戦いの場に出てくるんじゃないよ」


「わたしは戦いに、出たわけじゃ……」


 パフィオは言葉を詰まらせ、涙を拭いた。チェレッカはそれに答えず、ミスペンに片手で大剣を向けて宣言する。


「ミスペン、今回はあんたの精神操作にやられたよ。でも、いずれあんな幻に耐える心を手に入れて、あんたに勝つ。人の心を操るような軟弱者に、強い奴はいないってことを教えてやるよ」


「そうか。まあそのうちに」ミスペンは受け流した。


 そこに桃のホクと、キュウリのジャハットが現れる。


「お腹空いた~」ホクが言った。精神操作が解けていないわけではないだろうが、少し眠そうだ。


「あんたは寝てただけでしょ、ホク」キュウリのジャハットが言った。


「あー! ジャハット! よかったぁ」ボノリーはジャハットまで走っていき、楕円の身体を押しつけた。


「ボノリー、大変だったでしょう?」


「んー大変だったぁー!」


「ジャハット!」クイはキュウリの女性のすぐそばまで詰め寄った。「僕ら、ピサンカージにひどい目に遭わされたんだ! ユウトもヘリトミネに殺されそうだったし。どうして助けてくれなかったの?」


「そうだったの……。でも、私も頂点の弟子だし……。だから、ミスペンに感謝しないとね。ボノリーに試練を与えるなんて、嫌だもの」


「ジャハット、そんなこと言ってたら罰を食らうぜ」バクのギャゴーンが言った。


「強くなるための試練なら歓迎よ。私、友達が大事なの」言いながらジャハットは、離れようとしないボノリーの頭をなでた。


「そういえばさー、ピサンカージ様とかってどうなったの?」ホクが訊いた。


「パフィオがやっつけたよ」


「へー。すごいねパフィオ」


 パフィオは複雑な顔をしたが、ギャゴーンはそれには気づかず彼女を称賛した。


「そうだな! ヘリトミネをあんなぶっ飛ばす奴、初めて見たぜ。ラヴァール様との手合わせでも、あそこまではないぜ。あのどでかいヘリトミネをな。久々にスカッとしたぜ」


「ちょっと。様つけないと、もし聞いてたら面倒よ」


「でも、ヘリトミネの斧が俺の目の前に落ちてきたんだぜ。危なかったぜ」


「じゃあ、ピサンカージとダルムも回復してるのね」


「ジャハットも呼び捨てするね~」


「そのぐらいにしておけ。あの方々はレイベルビスが回復している。我々の話も聞いているかもしれんぞ」


「うわー、ヤバ」


「いくら回復が人生でも、こんな時ぐらいゆっくり回復してほしいわね」


「ジャハット、結構言うねぇ」


「ああ……でも、あいつよりはマシよ」


 ジャハットが指差した先ではアブのバンスターと、紫タマネギのピンケが小走りで近づいてきていた。


「あっ! あいつら……」


「そういえば、カエルが持ってるそれ、ピンケの槍だぜ」


「はい。ピンケさんが槍を落としたので、今から返します」


 アブのバンスターと、紫タマネギのピンケが到着する。


「ふーっ、みんな無事でよかったよ」バンスターは爽やかに笑っている。


「あんた、もういなくなったと思ってたけど」テテはバンスターに白い眼を向けた。


「ん? おれっちのこと言ってる?」


「あんた、多分頂点の弟子の中で一番性格悪いでしょ」


「なんの話? 最近会ったばっかりなのに、おれっちの何を知ってるって?」


 ヘラヘラと受け流すバンスターに、ジャハットがチクリと一言。


「あんたの性格ぐらい一発でわかるわよ、バンスター」


「え?」バンスターの顔が少しだけ曇った。「仲間だよね。どうしたの? おれっち、みんなのことが大好きなのに」


 するとサイハ、ギャゴーン、ジャハットが口々にバンスターを責める。


「まったく、わざとらしい」


「そこらでオレら全員の悪口言ってるの、知ってんだぜ」


「ラヴァール様の陰口もずいぶん言ってるようだな」


「あんたとずっと一緒にいなきゃいけないピンケの立場になって考えたことあるのかしら」


 仲間から責められるうちにバンスターの表情は、どんどん凶悪なものになっていった。しかしその顔を直接確かめた者はいない。顔つきが変化するに従って彼はうつむいていき、最終的に真下を剥いたからだ。


 真下を向いたまま、凶悪な顔でバンスターはぼそっと言い返す。


「……ずっと寝てた誰かよりは活躍したけどね」


 彼の隣でピンケが焦り始めても、サイハ達は攻勢を緩めない。


「バンスター。聞いたんだけど、あなたも寝てたんでしょ? で、ピサンカージ様に起こされたらしいわね。それでパフィオと戦わされたけど、結局何もできなくて逃げたらしいじゃない」


「はぁ? 逃げた? なんだぜ、予想以下だな。確かに俺らは寝てたけど、もし起きてたとして、逃げるのは絶対ないぜ」


「バンスター、お前のような者はラヴァール様の名誉を汚す存在でしかない。本来、自ら頂点の弟子を辞めてもらうくらいの行動が欲しいがな」


 バンスターはしかめ面になって黙った。その場の空気はすっかり険悪になっていて、ボノリーもいつの間にか姿を消していた。ドーペントが持っているピンケの槍を返すタイミングも失ってしまい、ユウト達も言葉を発する者がいない中、ある男の声がそれを変えた。


「その必要はない」


「あっ、この声は……」


 彼らの前に、空からラヴァールが降りてきた。しゅたっ、ときれいに着地する。サイハ達はのけぞり、姿勢を正した。


「ラヴァール様!」


「これはお見苦しいところを……だぜ」


「今の話、聞いてたんですか?」


「問題はない。オレの弟子、バンスター。お前がオレの弟子であることに変わりはない。その上で、しかるべき時に罰を与える」


「だってよ、よかったぜ。辞めなくてよくなったぜ、バンスター」


「いい罰を期待することだな」


 バンスターは一切答えなかった。彼はずっと、誰にも顔を見られない角度を向いて、恨みのこもった視線を地面にぶつけていただけだった。


 ラヴァールはユウト達のほうへと進み出る。


「さあ、試練は終わりだ。オレの弟子達よ、期待通りだ。お前達はオレの弟子にふさわしい戦いぶりだった」


「よかった……」


「本当に終わりなんですね」


「オレの弟子、ユウト、ターニャ、ミスペン、そしてパフィオ。戦士として合格点に達していることをオレが認めよう。確かに、ユウトとターニャは敗北した。そしてミスペンは精神操作という手段に甘え、パフィオは戦いを拒否した。しかしそれも含め、お前達は戦う者としての姿勢と強さを示したのだ」


「えっ、それって……僕も強いってこと?」


「さすがにないでしょ……」


「オレの弟子、テテ。お前は軟膏で傷ついた仲間を癒し続けた。また、パフィオを攻撃したピンケを


「なんでそんなことまで知ってるの……?」


「オレの弟子、ドーペント、クイ、そしてボノリー。お前達にはいずれまた試練を与える」


「そんなぁ! もう嫌だよ!」クイは翼を広げて抗議する。


「やっぱり駄目ですか……」ドーペントはピンケの槍を持ったまま肩を落とした。


「お前達は再びの試練の時までに、必ず今よりも強くなっているはずだ。楽しみにしておこう」


「もぉー。嫌だよぉ」


 ミスペンは進み出る。


「ラヴァール、教えてほしい。何が目的なんだ? 我々を試したかったのか、それとも鍛えるつもりか?」


「オレの弟子、ミスペン。お前の力はオレが思っていた以上だ。お前にはダルムは簡単すぎたらしい。だが、この試練を突破したお前には、新たな試練が待っていることだろう」


「えーっ! ミスペンにも試練? 試練しすぎだよ、ラヴァール」


「誰がミスペンに試練を与えるかは、オレの知るところではない。だが、必ず試練は訪れる」


「どういう意味?」


「そんなの、どうでもいいんです」パフィオは強い眼差しとともに前に出てきた。「一体、なんですか? わたし達、そんなひどいことをしましたか? もう……つらいです。こんなの、おかしいと思います」


 ラヴァールは変わらぬ険しい顔で答える。


「オレの弟子、パフィオよ」


「弟子じゃありません!」パフィオには珍しく、はっきり語気を荒げた。しかしラヴァールはそんなことでは動じない。


「お前もいずれ知ることになる。お前達にこれから待っているさだめは、こんなものではない。エクジースティなどまったく比べ物にならない強敵が、次々とお前達の目の前に立ちはだかる。逃げることは許されない。戦う意思を持たなければ、すべて終わりだ。オレはお前達を導く者として、試練を与えなくてはならないのだ」


 これには、ユウト達だけでなく頂点の弟子も困惑した。


「ラヴァール様、それは……?」


「どういう意味だろう?」


 ミスペンはラヴァールに訊く。


「ラヴァール、何が待ってるというんだ? この世界にエクジースティ以上の魔獣がいるということか?」


「オレの弟子、ミスペンよ。オレからお前に言えることはない。だが、この試練を戦い抜いたお前達なら十分な強さを持っている。胸を張れ」


 ターニャは歯を食いしばり、大鎌の柄を両手で強く握った。


「なめくさってくれるじゃないの……ケダモノが! 何を気取ってんの? 人間様に。何が試練よ! 今度こそ、その口ぶった斬ってやるわ!」


「やめよう、ターニャ!」


「ここは私が」サイハが出てくる。


「出しゃばるなサイハ、オレが行くぜ」ギャゴーンも胸を張る。しかしラヴァールは弟子を片手で制した。


「いや、オレ自らが相手をする。オレの弟子、ターニャ。いい目だ。それこそが戦士の姿だ」


「なめんなぁぁぁ!! イタチぅあぁぁ!!」


 大鎌を振り上げ、気勢とともに向かっていくターニャ。しかし初対戦時と同じように、ラヴァールは素早くターニャに近づくと、その腹に一撃を加える。以前のストレートではなく、アッパーで打ち上げた。ゴリッという鈍い音がして、声も出せずターニャはラヴァールを越えて飛び、回転しながら大の字に倒れた。大鎌は近くの地面に落ちる。それを確認することもなく、目を閉じていつもの勝利ポーズを決めるラヴァール。斧を頭の上でクルクル回転させてから、目の前で五度空を切る。


「おぉぉ……」


「素晴らしい!」


「最高ですラヴァール様、だぜ」


 頂点の弟子の後ろのほうで、バンスターは邪悪な笑みを浮かべて独りごちた。


「あーあ……やっぱりまた負けたよ。なんで何回も同じことするのかな、あいつ」


 腹と後頭部の痛み、空中で回ったことによるめまいなど、すべてが重なって目がなかなか開けられないが、目を開けたターニャは、自分がこの獣に三度挑み、すべて同じように完敗したことを知った。もはや声も出せなかった。


 敗者に背を向けたまま、ラヴァールは目も開けずに言った。


「オレの弟子、ターニャ。なんら恥じることはない。完膚なき負けを何度喫しようとも、臆することなくこうしてオレに挑んだのだ。お前は若く、未来がある。その得物にふさわしい偉大な戦士になれる可能性を秘めているのだ」


 そして彼は目を開く。


「オレの頂点の弟子よ……戦いは終わりだ。次なる戦いを目指し、旅立つ時だ」


「はい!」


 頂点の弟子がラヴァールの近くに集まり、横一列になって歩き去る。それを、ユウト達はただ見送った。ターニャの鳴きむせぶ声をBGMにして。


「うっ、……あぁ……! うぅぅ、うえぇえぇ……」


 クイが歩いてくる。


「泣くなよ、ターニャ~」


「うるさーい!」


 いつも通りミスペンは、ターニャのところに歩み寄り、回復してやった。さすがにこれだけ吹き飛ばされ、地面に叩きつけられていてはある程度のダメージがあったが、それよりも精神的に打ちひしがれているようだった。彼女は倒れたまま、表情を見られないようになのか、横を向き、顔を地面に向けていた。籠手で地面の土をつかんでいた。ミスペンは頭をなでてやった。


「もう……やめてよ……本当に」


 テテがふと見ると、ドーペントは先ほどまで持っていたはずの槍を持っていなかった。


「あれ? ドーペント、ピンケの槍どうしたの?」


「さっきターニャさんがラヴァールさんと戦ってる間に、サイハさんが受け取りに来てくれました」


「あいつ、さすがだね。いつやったのか、全然見えなかったよ」テテは感嘆した。


「『戦ってる』っていうか、一瞬で終わったのにな」ユウトはやや呆れた感じで答える。




 プルイーリの町から伝説の冒険者の雄姿を見に来たギャラリーは、ラヴァール達がいなくなっても感動でボーッとしているような感じで、ずっとその場にとどまり、口々に感想を語り合っている。


「すごいなぁ」


「やっぱりラヴァール様は最高だねぇ」


「あの角が生えた人も強かったねー」


「ああ……ラヴァール様……」


「ラヴァール様の弟子になるにはどうしたらいいんだろう?」


「イソギンチャク食いたい」




 その声はユウト達にも聞こえていた。


「ふざけてる。ふざけてるふざけてる! あいつら、あんなイタチにばっかり注目して! 何よ、あんな奴!」ターニャは地面を拳で何度も殴った。


「もういいだろう、終わったんだ」ミスペンはターニャの頭をなでる。横でパフィオがニコニコしていた。


「結局あいつら、なんだったんだろうねー」クイは地面にぺたんと腰を落とした。


「もういいわ、疲れた」テテも座る。「あたいらって、なんのためにアキーリ出てきたんだっけ?」


「アキーリは住みづらいからです」ドーペントは少し丁寧に座った。


「そうよ! ラヴァールとか、その仲間の変な奴らが暴れたからでしょ。で、なんであいつら追っかけてくんの? 意味ないじゃない」


「あいつら、これからもずっと追っかけてくんのかな。嫌だなぁ」


「あたいらがどこかに行くたびに、試練だとか言って攻撃してくんのかな?」


「うわぁー、本当に嫌だぁ」


「でも、そのおかげで僕ら、強くなれるんでしょうか?」


「駄目です」パフィオがやや厳しい口調で言った。「皆さん大怪我しましたし、ユウトさんだって死にそうだったんです」


「そうだよね……。ひどいよね」


「ユウトが死にそうになるなんて……。そんなのがずっと追っかけてくるって、最悪だね」


 ユウトはそれを聞きながら、無言でいた。ラヴァールの弟子になったら、その関係は一生続くのだろうか。だが、彼の試練だかなんだかで結果的に強くなれるなら、それも悪くないのかも知れない……とぼんやり思う気持ちもあった。それは心からというよりも、戦闘力の意味でも、人数や態度による圧という意味でも強い彼らに圧され、ただ思わされているというのもあったが、




 ボノリーがどこからか現れ、クイの羽の下にもぐりこむ。


「あ、ボノリー!」


「もふもふー」緑色の羽にまみれてボノリーは満足げだ。


「ジャハットと一緒にいたんじゃなかったっけ?」


「いや、ラヴァールが出てきた時はもういなかったよ」


「だって、怖いしー」


「……あれ? そういえばカフは?」


「あ。あいつもいつの間にか消えたね」


「さっき、『オレは悪くねーんだよぉー』とかって、あいつの声がしたよ。多分、ラヴァールがぶっ飛ばしてくれたんじゃないかな」


「うーん。よかったぁ」


「それは安心!」


「でも、またあいつと会うようなことってないかな……」


「いや、ないでしょ! それは勘弁だわ」


「これからどうするか……」


「もう疲れたから、寝ようよ」


「じゃあ、あの家に戻る?」


「あの家は嫌だよ。だって、床が土なんだから」


「ああ、ごめんなさい……。わたしのせいで、木の床が壊れちゃうからですよね」パフィオは今日だけで何度目かわからないが、悲しそうな顔になった。


「もうやめてよパフィオ、あんたが悪いわけじゃないよ」




 ユウトは、まだ地面に座ったままボーッとしていた。


「ユウトさん、大丈夫ですか?」パフィオが


「えっ? いやぁ……」


「痛くないですか? 頭、打ってましたよね」


「いやぁ……。ミスペンさんが、回復して、くれ……ました」


「でも、もう少し回復したほうがいいですか?」


「あー……っと……」


 ユウトは、パフィオに言いたいことがたくさんあった。ヘリトミネから助けてくれただけでなく、カフの件で泣かせたことも、旅の途中で何度も話しかけてくれたことも、そして、アキーリにいる間、こんな情けない人間に他の客と同じように扱ってくれたことも。彼女には感謝したい気持ちも、謝りたい気持ちも、胸が破裂しかねないほどたくさんある。それなのに、やはり言葉にならなかった。


 その時。野次馬のひとりが「あっ!」と言う。そして彼らはざわつき始める。


「あいつって、まさか……」


「ボチャネス?」


「やべ……」


「逃げるぞ!」


「見つかったら大変だ!」


「うわぁぁーー!」


 野次馬は一目散に逃げていった。

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