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果てなき時空のサプニス  作者: インゴランティス
第5章 プルイーリの試練
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第17話 挑戦の資格

 森の茂みの中で、クイとボノリーが身を寄せ合うように隠れていた。


「どうしよう、ラヴァールなんて勝てるわけないよ。だって、さっきあんなに強かったんだから!」


「うぅぅー……ジャハットぉ」ボノリーは震えている。


 この茂みの中、2人とは少し離れた場所に、メロンのカフがいた。


「なあ、オレらって仲間だよな」と言いながら、彼は2人ににじり寄ってくる。


「うわぁ、カフ! なんでいるんだよ!」


「だって、しょうがないだろ? プルイーリの町にいても兵隊に追っかけられるし、しょうがないから外に出てきたら、なんかラヴァールと弟子が暴れ回ってるし。巻き込まれたら大変だからさ」


 カフは2人に近寄っていく。


「寄ってくるな! 嘘つきメロン!」


「嘘つきー!」


 クイとボノリーは逃げながらカフを責めた。


「おい、オレがいつ嘘ついたんだよ。オレは本当のことしか言わないぞ」


 反論しながらカフがまた寄ってくるから、クイとボノリーはまた逃げる。そこで茂みの端に到達した。


「もー! これ以上寄ってくるなよ! これ以上寄ってきたら、僕、外に出ちゃう。そしたらラヴァールに殺されるよ!」


「じゃあ出ろよ!」カフが寄ってきたので、クイとボノリーは仕方なく茂みから出た。すると、そこにラヴァールが立っていた。


「え……っ? あ、ラ、ララ、ラヴァール……!」


 しかしラヴァールは斧を抜いてすらいなかった。腕を組んで、2人をにらみつけている。


 ボノリーは足早に立ち去ろうとする。だが、ラヴァールは瞬時に彼女の前に回り込んだ。


「きゃー!」ボノリーは腰を抜かしてしまった。


 ラヴァールは腕を組んだまま言う。


「オレの弟子、ボノリー。戦いにおいて、敵に背を向けることは許されない。それは死を意味する。これは試練だ。オレからお前達への贈り物だ。闘志を見せ、その力と心のすべてでもって勝利をつかんでみせろ」


 クイは震えながら言う。「なっ、なんで? ラヴァール……さっきは助けてくれたのに」


「お前達は冒険者であり、冒険者である以上は戦士だ。戦いを拒んではならない。より高い壁に挑む機会を、みすみす逃してはならない」


「うーん、何言ってんのかわかんないよぉー」ボノリーは泣き出した。


「だって、だって、ラヴァールなんか勝てるわけないし! どうしよう、どうしたらいいの! 助けてミスペン!」クイは慌てるあまり、翼をばたつかせた。




 その時、足音がした。ダッダッと、誰かがここに向かってくる。それは大鎌を構えたターニャ。


「ここまでよ、イタチ! 人間様の強さ、今度こそ思い知――ふげっ!」


 言い終わる前にラヴァールは振り返り、斧をターニャの腰から腹にかけて打ち上げた。


 ターニャは縦に回転しながら吹っ飛び、大木の幹に逆さまにぶつかって落下し、動かなくなった。大鎌は手から離れ、近くの地面に深く刺さった。地に倒れた彼女は白目を剥き、鼻血を出しており、この世のあらゆる苦しみから解放されたような、だらけ顔で気を失っていた。


 そのだらけ顔を、まったく変わらない表情でラヴァールは見下ろしてつぶやく。


「お前には成長が必要だ。いずれ、今日の敗北が思い出になる時が来る。オレの弟子、ターニャ。お前もまた、いずれオレに匹敵する戦士となるだろう」


 彼は目を閉じると、頭上で斧をくるくる回し、目の前で数度空を切るラヴァール。そのパフォーマンス中さえも隙がない。


「おぉぉぉ……すごい」


 そして、ラヴァールはクイとボノリーに向かい合う。


「え?」


「オレの弟子、クイ、そしてボノリー。武器を取れ。戦士として、勝てるはずのない敵に挑むこともまた、試練なのだ」


 2人が死の恐怖を覚えたことはいうまでもない。彼らは悲鳴を上げながら一目散に逃げた。


「うわああぁぁぁーー!!」


「待ってええええ!」


 クイはバサバサと飛び、ボノリーは地上を走って必死についていった。ラヴァールは険しい顔つきをまったく変えずに2人を見送ってから、一瞬で姿を消した。












 カフはその間に茂みから抜け出し、森の中を歩いていた。


「はぁー、助かった。あいつら馬鹿だな、結局オレのためにおとりになったんだよ。やっぱり戦いに勝つのに大事なのは頭だよな。じゃ、とっとと逃げるか」


 そしてカフは真顔になって、独り言を続けた。


「でも……オレはわかってるぞ。ユウトの奴、嘘をついてる。だって……そうじゃなきゃ、ドゥムとダイムがいなくなるわけない……。オレ達が邪魔だから、あいつ、呪いを掛けたんだ。シュケリを使って罠にも掛けて……。そうに決まってる。仲間も全員騙してんだ。だからあいつら、オレのこと嘘つき呼ばわりして――」


 しかし。彼の前に突然、ひとりのイタチが現れた。目を閉じ、腕を組んだ状態で。それが誰なのかを、カフは知らないわけがない。


「あっあ……ラヴァール……!」


「カフ。お前は不適格だ。オレの弟子となるだけの資格を持っていない」と目を閉じたまま、ラヴァールは言った。


「なんで……、なんでオレがここにいるって、わかったんだ!?」


 ラヴァールは目をカッと開き、カフをにらんだ。


「お前は欲望から取り返しのつかない事件を起こし、歪んだ思い込みで責任を仲間になすりつけた。さらに、お前がそうして罠にはめたかつての仲間に問い詰められても罪を認めず、単なる勘違いで済ませようとしただけでなく、改心した振りをしてエクジースティが多く住んでいる危険区域に誘導し、危機に陥れた」


「……なっ……お……」


 すべてを指摘されぐうの音も出ないが、認めたくもない。カフは『お前に何がわかるんだ』と言いたかった。しかし、決してかなわない相手にそんなことを口にする度胸はない。


「カフ、お前は戦士ではない。お前には特別の罰が必要だ」


 ラヴァールは斧を抜いた。殺気を放ち、カフに向かい合う。


「待っ……ま、いやその、別にオレ、違うんすよ。違うんっす。オレ、騙されてるだけで、本当はユウトが――」


 ラヴァールはカフの話を一聴だにせず、目にも留まらぬ連続攻撃をカフに浴びせた。


「ぎゃあああああ!」


 メロンは無残にも傷だらけになった。そして、最後にラヴァールは強烈な斬り上げで彼を高く打ち飛ばした。


「おっオレは、悪く、ねぇぇぇぇ!!」


 カフの丸い身体は弧を描いて飛び、悲鳴は青空にどこまでも響き渡った。




 その頃、いつの間にかプルイーリの住民が数十人も集まり、この戦いを見物していた。


「あれが、ラヴァール様!?」


「伝説の冒険者だ! 最強のラヴァール様の斧さばきだ!」


「話には聞いてたが……強い!」


「なんて動きだ! 全然見えねぇ!」


「ああ……あんなすごい人がこの世にいたなんて!」


「こんなのもう一生見れねーぞ!」


 ギャラリーの中に、先ほどカフを殴ったカマキリのアクリスがいた。彼女は鎌の形をした両手の先端をハの字に合わせ、どこか祈るような顔をして、静かに見守っていた。

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