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果てなき時空のサプニス  作者: インゴランティス
第5章 プルイーリの試練
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第15話 懐疑

「食べ物……?」


 ユウトは何も答えなかった。今までで最も渋い顔をしている。


「えっ? ユウト? なんでそんな顔するの?」


「ユウトは、レサニーグの村のみんなのことを、本当だったら焼いて食べるって言ったのよ。七面鳥は丸焼きにして食べるんだって」


「まさか……。そんなこと言ってないよね?」


 クイの確認をユウトは黙殺した。表情も変わらない。


「……ユウト」エルタは言った。「いつか、あなたが私や、大事な仲間のことを殺して食べるかも知れないと思ったら……。そんな人と、一緒にいるわけにいかない。わかるでしょう?」


「お前、本当か? 違うんだったら、そう言えよ」ミスペンも無反応ではいられない。


「だって、レサニーグの奴ら、村全員で俺のこと、人殺しって言ったんですよ。村から出てけって。俺あいつらのこと、マジで許さないですからね」


「それでも、そんな発言はするべきじゃないわ」エルタが冷たく指摘する。「頭に血が上った結果だとしてもね。初めから、あなたのような人を村に迎え入れちゃいけなかったのよ。私達は。だから、こうなったの」


「えっ……? 何、ユウトが悪いの? カフが悪いんじゃないの?」


「ユウトさんは、悪い人じゃないです」


「カフを信じなかったらよかったんじゃない?」


 ユウトの仲間のアリーア達にエルタが反論する。


「それとこれとは話が別よ。殺して食べるなんて、やることが魔獣と変わらないじゃない」


「だから、別にやらねぇって……」


「ユウト、お前にも落ち度はあるぞ」


 ミスペンが指摘しても、やはりユウトは何も答えない。


「エルタ。ユウトがその発言を謝ったら、許してくれるか?」


「残念だけど、私は人間のことは信じないと決めたの」


「そうか。それを間違ってるなんて言えるわけがない。ユウトもレサニーグの一件で、この世界の奴に不信感を持つようになったんだ」


「もう、ユウトぉ! ユウトが変なこと言わなかったら、エルタが仲間になってくれたかもしれないのに!」


「俺は、悪くねぇぞ」ユウトは怒りを混ぜて返した。


「カフみたいなこと言うなよー」


「俺が……こいつと同じだって!?」ユウトの怒気がさらに強まる。


「ああ、怒らないで下さい……」


「いや、一応謝ったら?」


 ユウトは迷った結果、「ごめん」と短く謝った。同時に一応軽く頭を下げたが、エルタとは目を合わせなかった。エルタはユウトの顔を見つめたまま、無言だった。


「許してくれなさそうですね……」


「だって、さっき言ったでしょう? 人間のことは信じないと決めたの」


 それを聞いてユウトは、口を改めて真一文字に結んだ。『俺だって信じない』と心の中で強く念じながら。


「ともかく、エルタ。今回は引いてくれるか?」


「……そうね」


「そういえば、この人らって何?」


「あなた達を倒すために雇った、ハルタスという町の冒険者よ。気が荒いほうが役に立つと思ったんだけどね。あなたの力は誤算だったわ」


「一応、起こしておくか」


 ミスペンはネズミ達の精神操作を解いた。


「んー? なんかいい夢見た気がするぞ!」


「そうだな。あれ? なんだ? ユウトがいるぞ。倒したはずなのに。あれ? ユウト倒したの、夢の中の話か? ケケケ!」


「あれ? コハク、どこ行ったんだ? ちょうちょのコハク! あいつ逃げたかな? ヒッヒヒ」


「行くわよ、あなた達」と、エルタは彼らに言った。


「どこに?」ネズミが訊く。


「どこでもいいわ。全部終わり」エルタが答える。


「終わったのか? いつの間に?」


「ちゃんと魔晶払えよ。ケケケ!」


「仕事してないから半額よ」


「なんだよ!」


「約束と違うぞ! ヒッヒヒ!」


「ぎゃっははーん」


 文句を垂れながらも、彼らはエルタに連れられて去っていった。


 レサニーグ村の件はまた一歩解決に近づいた。それは事実だが、ユウト達の間にはぎこちない空気が漂ったままだった。


「えっと、ユウト……。僕らのこと、食べないよね?」クイが恐る恐る尋ねる。


「食べねぇよ」ユウトはまだ声に怒気が混ざっている。


「本当に?」


「だって、お前ら食わなくたって、この辺にはいくらでも食いもんあるからな」


「なーんだ!」クイは笑顔になった。「そうだよね。ユウトはそんな悪い奴じゃないよね!」


「でも」代わりにテテが訊く。「本当に不思議なんだけど、なんでそんなこと言ったの?」


「だから、ムカついたからだって」


「ムカついたら、食べるの?」クイが言った。


「いや、そういうわけじゃねぇけど……」


「ユウト」ミスペンは厳しい顔つきで言った。「口は災いの元だ。感情に任せて後先考えずに喋ると、こんなことになる」


「……はい」


「ターニャ、お前もだ」


「はぁ!?」


「お前の場合は口じゃなくて直接殺そうとするから、もっと問題だな」


 ターニャは歯を食いしばってミスペンをにらんだ。何かすれば精神操作が来るとわかっているからだろう、目つきと雰囲気だけで圧力を加えようとしているらしい。だが、もちろんそんなものでミスペンは動じたりしない。ただ呆れたように微笑んだだけだ。


「何よ、その顔は!」ターニャはより強くミスペンをにらんだ。


「もう、ターニャ。怖いってー」


 ドーペントはユウトをまっすぐ見つめて言ってくれる。「僕は、ユウトさんのこと、信じますよ」


「ドーペントのことも食べないよね」テテが訊いてくる。


「食べねぇっつってんだろ」


「あぁ、よかった……」


「バッタも食べないよね?」クイが訊く。


「食べない」


「人間は食べない?」ボノリーが訊いた。


「食わねぇって」


「よかったー! じゃあユウトは何も食べないんだ。ご飯もなしでいいね!」


「いや、何も食わねぇわけじゃ……」


「というか、ボノリーっていつの間に帰ってきたの?」クイが訊いた。


「いたよ」ボノリーが答える。


「いや、いなかったじゃない」


「さっきからいたよ」


「さっき? いつ?」


 ボノリーは質問に答えず、「テテは草か木かでいったら、草だね」と言った。


「わあ! ユウトと一緒だね!」と、クイは質問など忘れて笑った。


「あっそ……」


 その時、「あっ、あれ!」とクイが言った。


 町のほうから横一列になって、またあの12人が歩いてくる。


「ラヴァールさん達!?」


「うわぁ、来たー」


「今日何回目だよ……」


「なんの用だろ?」


「そういえば、贈り物くれるって言ってなかった?」


「あ、そうですね。何をくれるんでしょう」


「どうせろくなもんじゃねぇと思うけど……」


「とはいえ、さっきは助けてくれたからな。ちゃんと、ためになるものをくれる可能性はあるぞ」


「えー? なんだろ! 楽しみだなぁ」


 しかし、徐々に近づいてくるラヴァール一行の硬い顔つきを見て、ユウトは妙な不安に襲われるのだった。

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