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果てなき時空のサプニス  作者: インゴランティス
第5章 プルイーリの試練
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第14話 一応の雪解け

 ミスペンやユウトの話に、エルタとエイウェンは耳を傾けてくれた。


「オカヤーケ……もとい、岡山にドゥムとダイムが行ったってことね……。それをユウトが罠を掛けて殺した……と、カフが勘違いした?」


「ユウトは、何も悪いことしてなかったんだ……」エイウェンは安心しているようだった。


「ユウト。ひとまず、ドゥムとダイムが生きてる可能性はあるのね?」


「運がよかったらね。俺の世界って、こっちにいるような生き物がいないから。2人がどうなったかは、俺にはわかんねぇ」


「えっ……ちょっと怖いけど。でも、生きてるかもしれないんだよね? よかった……。ドゥムとダイム、もう会えないかと思った」


 そして、エルタはカフを見た。カフは不満げにユウトをにらんでいた。


「……カフは、ユウトが呪いを掛けたって言ってたわね」


「もし呪いなんか掛けられるんなら、俺を人殺し扱いした奴ら全員呪ってやったよ。そしたら、お前もとっくに死んでるからな」


「ああ……ユウトさん、そんな言葉遣いは……」


 パフィオが涙目になって、ユウトは少し申し訳なくなるとともに、やりづらさも感じた。本当はもっと強い言葉を使いたいところなのだ。


「エルタ」ミスペンが総括に入る。「例の件は全部カフと、ドゥムとダイムが起こしたことだ。カフは予想外のことが起きて混乱したのと……自分が原因だというのがバレたくないから嘘をついたんだろう」


「そうなんでしょうね」エルタが答える。「だから、さっきもあなた達が脅したとか言って、正直に話すのを避けたんでしょう」


「なんで、こんな嘘つきの言うこと信じたの?」クイが首を傾げる。


「こいつは村にいた時は、まともだったんだよ」


 だが、エルタは同意しなかった。彼女は「いいえ」と言った。


「えっ?」


「カフはまともじゃないわ。ユウト、あなたが知らないだけ」


「マジで?」


「カフは、誠実な人じゃなかった。ユウトが村にいた頃は、割とおとなしくしてたけど……前は色々やってたのよ」


「前も同じようなことあったの?」


「結構前だけど、カフが村の食料をひとりで黙って食べてたことがあったわね」


「そんなことがあったの?」


「他にも、村に溜めた魔晶を盗んだこともあったり……」


「えーっ! 泥棒だよ!」


「しかも、それで責められた時に人のせいにしたり、誰かに脅されてやったことにしたり、泣いてううやむやにしたり……そんなことを繰り返してたのよ」


「どうりで……。こいつ、ずっと変わってなかったんだね」


「じゃあお前、なんであの日、カフを信じたんだ?」


「当たり前でしょ。問題は起こすけど、それでも、ずっと一緒にいた仲間だもの」


「エルタって……冷たい人かと思ったけど、仲間想いなんだね」


 エルタはそれには反応しなかった。


「でも、もうわかったわ。カフ、あなたはもう仲間じゃない。あなたを仲間だと思ってたのは、あなたがどれだけ泥棒をしても、嘘をついても、一緒に魔獣を倒して魔晶を稼ぐ仲だったからよ。でも、今回は違う。あなたは、レサニーグを壊したの」


「壊したって? レサニーグの村、なくなっちゃったの?」


「そういうことじゃないわ。気まずくなって、村の人はほとんど出ていったの。私もね……」


「カフ、あなたはユウトの次くらいに出ていったから、知らないでしょうね!」


「そうだったんだ……」


「そもそも、ユウトの巻貝を盗んで、ドゥムとダイムを誘ってユウトの世界に行こうとしてたなんて。それなのにユウトに全部罪をなすりつけて。どういう神経してたら、そんなことできるのかしら。今回の件は私にも責任があるわ。だって、あなたを甘やかしたせいでこうなったんだから!」


「おお……言ったねー!」


「僕らが言いたいことを全部言ってくれたよね」


 カフは何も言えないが、黒い眼でしきりにエルタを見つめ、何かを訴えかける。


「何か言いたいのね? ミスペン、喋れるようにしてあげて」




「もういいんじゃないの?」


「これが最後だ」


「エルタ! エルタ、こいつらの言うこと信じるな!」


「何? じゃあ、私を納得させられるような何かがあるってこと? ミスペンの説明は、今のところ信じられるわ。でも、一応あなたとは長い付き合いがあったから、一回話だけは聞いてあげる」


 するとカフは、また同じ主張を繰り返す。


「だから、ユウトがスマホを使って呪いをに掛けたんだよ! ドゥムとダイムに!」


「はぁ、お前いい加減にしろよ! それさっきも言ったろうが!」


「うわぁー! 嫌だぁ! オレ、呪われた! オレも死んじまうんだ! うわぁー!!」


 カフはパニックを起こしてどこかに走っていく。だが、すぐにピタッと止まった。ミスペンの左手のひらは例によって彼の背中をとらえていた。


「逃げられると思ったか?」


 カフはぎこちなく歩いて戻ってくる。


「えっ……違うよ。ハハッ」


 笑ってごまかそうとするカフだが、ここで彼の顔つきが突然動揺したものに変わる。精神操作で喋れなくなったようだ。動くことも喋ることもできないとわかったカフは、涙を流し始めた。


「カフ、なんで? せめて嘘をついてたことを認めて謝れば、この件も水に流せたかもしれないのに」


「こんなことばっかりしてたら、本当に独りぼっちになっちゃうけど、いいの?」


「こいつには何言っても無駄だよ」


「そうね……カフ。あなたとはもう、金輪際会うこともないわ」


 カフは精神操作のせいで動けず、言葉も話せないが、彼はさらに激しく涙を流した。


「あなたのせいで大勢の人が傷ついて、振り回されたの。反省してちょうだい」


 カフの涙がさらに激しくなるが、それに触れる者はいない。


「エルタ、ありがとう。君がこちらの話を信じてくれたおかげで助かった」


「全部あなた達に同意するわけじゃないけどね」


「というか、そもそもレサニーグの時にしたって、カフの話なんか滅茶苦茶すぎるんだから、なんで信じたんだよ?」


「そうだよ。カフ、悪い奴なのに」


「古くからの仲間のほうが信用できるわ。何も知らないで、何も持たずに村にいきなり来た誰かよりはね」


「ムカつくな、お前……」


「やめろ。抑えろよ」


「そうですね。お互いにもう関わることもないんだったらいいですよ」


 そして、エイウェンに移った。


「あの……」エイウェンが言った。「ごめんね、ユウト。おれ、ユウトにひどいこと言っちゃった」


「許してあげよう、ユウト」


 だが、ユウトはすねたままで何も答えなかった。


「すまんな。いずれこいつがお前達の言葉を受け入れるように、我々から言い聞かせておこう」


「ちょっ、やめて下さい。許すとは言ってないです」


「もういいだろう。お前が許さないとこの件は終わらないぞ」


 ユウトは何も答えなかった。


「やっぱり、許さないってことですか」


「君らって、ユウトとは仲よかったの?」クイがエイウェンに訊く。


「ユウトはボクが駆け出しの冒険者だった頃、戦い方を教えてくれたんだ」


「そうだったんですか……」


「おれの戦い方はカフを手本にしたんだけど、いっつもやめろって言われてた」


「えーっ! カフを手本にしたの?」


「なんで?」


「うーん……なんでだろ」


「カフもエイウェンも、よく敵にひとりで突っ走って、勝手にやられるんだよ」


「村を出た今でも直ってないのかしら?」


「うーん、そろそろやめるよ……」


 エイウェンは、今までカフの戦い方を真似していたせいなのか、反省の色がないカフの代わりに必要以上に縮こまった。それを見て、クイが言った。


「ユウト、許してあげようよ」


「許してあげましょう」


 パフィオにも促され、ユウトは「えっ。はい」と答えた。


「それとユウトさん」パフィオは続ける。


「えっ……?」


「さっきこのシマウマさんにひどいことを言いましたよね。謝ったほうがいいと思います」


「あ。えー……あー……」


「どうしたの、ユウト。えー、あーって何?」エイウェンは答える。


「ユウトはね、パフィオに話しかけられるとこんな風になっちゃうんだ」


「えっ……なんで? ユウト、レサニーグにいた時はそんな感じじゃなかったのに」


 ユウトの態度が変わらないので、ミスペンは仕方なくフォローした。


「すまないな、お前の気持ちは伝わったぞ」


「うん……。おれ、レサニーグに戻らないと。村のみんなに本当のことを教えるよ」


「アキーリとかにもユウトのこと悪く言ってる人がいっぱいいるから、それが間違いだって言っといて」


「うん、わかった」エイウェンは元気にうなずいた。


「優しい子じゃないの、ユウト」テテが言う。「カフはどうしようもないけど、他の人は案外いい人が多かったんじゃない?」


「そうですね。仲直りできそうで、よかったです」ドーペントは嬉しそうだ。


「ユウト、この際だからみんな許そうよ」


 クイの発言に、ユウトは『はぁ?』という感情を顔だけで表した。


「ユウトさん」パフィオはユウトの前に出てくる。「そんなに頑固にならないで下さい。もう、解決したんです。皆さんと仲直りしましょう」


「……はい」ユウトは、やはりパフィオに言われては反射的に答えるしかなかった。


「はいって言ったね?」


「やったね! これで仲直りだね!」


「よかったー」


 ユウトは納得できない顔のままだが、アリーア達の勢いでもって、とりあえず解決した雰囲気になった。


 ミスペンはエルタに訊く。


「……エルタ。ひとまずこの件に関しては、終わりということにしてくれるか?」


「あなた達が何もしないならね」


「それなら問題ない。カフはどうする?」


「好きにしてちょうだい。彼とはもう他人同士よ」


 カフはまだ涙を流し続け、エルタに何かを訴えかけているが、やはり誰も気に掛けない。


「でも、エルタ」クイが言う。「仲間になってくれたりしないの? ユウトと仲直りすればいいよね?」


「無理よ。たとえユウトがなんと言ったとしてもね」


「えっ、なんで?」


「ユウト。あなたはその理由を知ってるでしょう?」


「どういうこと?」


「村を出る時に、あなたが言ったことを自分で覚えてるかしら。私達が、食べ物だって言ったでしょう? その言葉を無かったことにするわけにはいかないわ」


 このエルタの発言が、また場の空気を重くさせた。

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