表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果てなき時空のサプニス  作者: インゴランティス
第5章 プルイーリの試練
87/149

第12話 悪漢

 それからしばらく経ち、夕方になっていた。ユウト達はプルイーリを出て、町の近くの森をあてもなく歩いていた。


「魔晶、結局取られちゃったね」


「仕方ないですね」


「なんだよ、ボチャネスとかいう奴! 本当にひどいよね」


「こっちに来てから散々だよな。エクジースティは山ほど出てくるし、魔晶も手に入らないし」


「クイ、あんたがこんな町に来さしたからよ」


「えー! 僕は悪くないよ!」


「そうですね、クイさんを責めても仕方がないです」


「でも、取り戻せないんでしょうか?」


「強欲な奴は少しでもカネを取ろうと、あの手この手を使ってくる。今回は諦めたほうがいいだろうな」


「みんな死ぬほど頑張ってエクジースティやっつけたのに! ミスペン、今からでもボチャネスのところに行こうよ。取り返そうよ!」


「精神操作したらいいんじゃないの?」


「効かなかった時が危ない。厄介な奴には関わらないのが一番だ。旅してれば、魔晶はいくらでも手に入るだろう」


「そうだね。魔獣、どこにでもいるもんね」


「でも、そうしたら、また魔獣さんを殺すんですよね……」


「うーん、パフィオ、しょうがないと思うよ」


「でも、アウララって見つかるのかなぁ。ラヴァールはすごいけど、透明になっちゃうし」


「あいつひどいね、ひどすぎる!」


 こんな文句を互いに言い合いながら。




 アウララが姿を消した後、ラヴァール達は彼が盗んだものを捜索するため町中を巡った。ほどなく発見したのだが、その場所が問題だった。アウララはユウト達やラヴァール達から盗んだ大量の魔晶珠と、ボチャネスから盗んだ宝石や貴金属を、中心部にほど近い古い空き家の中に、家がはちきれそうなほど押し込んであったのだ。そのため、ラヴァールがドアを開けるなり魔晶珠がザッと外へ溢れ出し、すぐに判明した。


 ようやく魔晶珠を取り戻せると胸をなでおろしたラヴァールの弟子達。しかし、盗品の中にボチャネスの持ち物が含まれていたことが問題だった。駆けつけた兵士によって逆にラヴァール達が泥棒扱いされる始末。言い合いの結果、兵士はさすがに泥棒はアウララだということには納得したものの、『町にある家はすべてボチャネスさんのもの』という強引な理屈を持ち出し、魔晶と魔晶珠はひとつ残らず兵士に奪われてしまうこととなった。


 ラヴァールは何食わぬ顔でそれを受け入れ、改めて泥棒捜索に移ると言った。弟子のほとんどは納得できていなかったが、ラヴァールに異を唱えるわけにもいかず、アウララを今度こそ捕まえて改心させるため、それぞれの方向へ散っていった。




 その頃には、もう泥棒問題からは蚊帳の外になってしまっていたユウト達は、知らん顔をして食事をとっていたが、飛んできた頂点の弟子のサイハから経緯を聞かされたので、いよいよもう関係ないということになって、町の外に出たわけだ。


 真面目なドーペントはその選択に少し疑問があるようだ。


「ラヴァールさんは泥棒を見つけるのを手伝え、と言ってたと思いますけど。町を出ちゃっていいんでしょうか?」


「任せれば問題ないだろう。アウララは捕まえようがないし、何より危険だ……これ以上、関わらないほうがいい」


「今度あいつ見つけたら、絶対に斬るからね。ミスペン、止めないでよ」ターニャはミスペンをにらんだ。


「あまり勧められないな。奴はその気になればなんでもできるだろう」


「なんでも、って?」


「奴は透明になって動き回れる上に、一瞬で大勢の持ち物を盗んだわけだ。さすが、世紀の大泥棒を名乗るだけはある……。推測するしかないが、奴がやろうと思えば、盗む代わりにあの場にいた全員を一瞬で殺すこともできたはずだ」


「えっ、全員殺す……?」


「それぐらい恐ろしい奴かもしれん」


「だったら、さっさと殺しときゃよかったじゃないの!」


「今までは少し慎重になり過ぎたかもしれん」


「よくわかんないけど、すごく怖い気がする」


「おまけに、透明になったままでもこちらの話を聞けるようだ」


「じゃあ、そこにいるの!?」


「えっ……」


 ユウト達は周囲を見回した。しかし、誰もいない。ただの森だ。それに気づき、テテが指摘する。


「って、どうせあいつ透明だから、見てもしょうがないじゃない」


「あっ! 確かに……」


「それはわからん」


「どうしたらいいんだろう……」


「奴の力をどうにかできる誰かが来てくれん限り、打つ手はないだろうな」


「ユウトさんだったら倒せるんじゃないですか?」


「いや、透明で動き回るんだったらキツいんじゃないかな……。動かないんだったらまだしも」


 言いながらユウトは、内心アウララを羨ましく思っていた。彼と同じ力を持っていれば、どんな強敵を相手にしても透明になったまま安全に倒せるのに。あんな反則のオンパレードのような能力を、よりによってあの性格の悪い生き物が持ってしまっているとは。


 文句タラタラで歩いていると、背後から声を掛けられた。アウララとはまた違う、下卑た男の声だ。


「お、いたぞ。ケケケケ!」


「ユウトだな、あいつの言った通りだ。ヒッヒヒ!」


 見ると、プルイーリとは別の方向から大勢の集団が歩いてきていた。その数、なんと100人以上。先頭にはネズミとペンギン。服を着ている者がいても全員ボロボロで、目つきも悪い。悪漢という表現が当てはまる人相だ。


「えっ……何あれ?」


「軍隊!?」


 100人以上の中でもひときわ人相の悪いネズミとペンギンはニヤニヤ笑いながら、おもむろにユウト達に近づいてくる。


「あいつが言ってた通りだな」ネズミは唾を散らした。「来たってわけか。ケケッ、ユウト! お前、とうとう終わりだぜ。ケケケ!」


「うるさい!」ペンギンがわめく。「うるさいユウト! 死ね死ねユウト! ヒッヒヒ!」


 ネズミとペンギンに続いて、悪人面の集団は口々に言いたいことを言い始める。


「おいー! こらおいー!」


「ぎゃっははーん!」


「ユウトこらぁー! 魔晶出せ!」


「魔獣倒してばっかで魔晶稼いでんだろ? 出せ!」


「魔晶魔晶!」


「ぎゃっははーん!」


 彼らはまるで統率がとれておらず、時にお互い同調しながら、時に脅しながらユウト達に威圧的に迫った。


「ミスペン、殺していい?」ターニャはいつも通り、背中の大鎌の柄に手を掛けるが、ミスペンに「今は駄目だ」と止められる。


「何、この人達?」


「目的はなんだよ?」


「もう、次から次へと! なんだってのよ!」


「ユウトの名前呼んでるけど、何? こいつらもレサニーグの奴?」


「いや、あんなの見たことない」


「よかったー。ユウトがこんな人らと一緒に冒険してたなんて、そんなわけないもんね」


 このクイの言葉を聞いて、悪人面の集団はいきり立った。


「おいコラァ! こんな人らってなんだ!」


「誰のことだぁ!?」


「ぎゃっははーん!」


「お前だろ悪人は! ユウトコラぁ!」


「ユウトと一緒にいる奴らも同じだ!」


「全員悪人だぞぉ!」


「ぎゃっははーん!」


「早く魔晶出せコラ!」


「ぎゃっははーん!」


 不穏な空気が強烈に漂う。


「なんだよこいつら、怖いよボノリー……あれ? ボノリーがいない」


「怪しい気配を感じて逃げたみたいだな」


「ぎゃっははーんって、何……?」


 会話の間に、ペンギンとネズミがユウト達の前まで迫ってくる。


「どうだお前ら、怖ぇだろ。手も足も出ねぇだろ。ヒッヒヒ!」


「ユウトみたいな奴と一緒にいる奴ぁ、全員腰抜けだな! ケケケ!」


「死ね死ねユウト! ヒッヒヒ!」


 この鬱陶しい連中に、ターニャがこらえきれず大鎌を抜いた。「うるさいからまとめて死になさい」


 悪漢どもはさすがにこの黒い大鎌を前にして、怯えた声を出す。


「おぉ!?」


「なんだあの武器……」


「おい、いいのかお前! んなことして。ペカ! あいつ出してやれよ」ネズミがペンギンに言う。


「おう、忘れてた。ヒッヒヒ! ちっこいの、出てこい!」


 呼ばれて集団の後方から現れたのは、ひとりのシマウマだった。それを見るや、ユウトが思わず声を漏らす。


「えっ!? お前……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ