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果てなき時空のサプニス  作者: インゴランティス
第5章 プルイーリの試練
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第3話 エクジースティの巣

「電影剣!」ユウトが仲間達の前に立って、剣をエクジースティの黒い鱗に突き立てる。


「グォアァァァ!」


「雷光双閃! 雷光双閃!」


 右、左と剣を斜めに繰り返し振るって、エクジースティの巨体は大地に倒れ伏した。しかし息つく暇はない、新たなエクジースティがユウトの横から近づいてくる。反応し、また剣を振る。


「電影剣! 雷光双閃、電瞬裁破!」


 デュークの技を自分なりに再現しながら、現れる巨体を一匹、また一匹と倒していくユウト。魔晶が山のように散らばり、魔晶珠になっていく。


「やっぱり強い! すごい、ユウト!」


 ユウトの後ろにはアリーア達がいて、反対側はミスペンが守っていた。彼は左手を近づいてきたエクジースティに向ける。手のひらから発射された炎や氷は次々と命中し、敵が一体、また一体と倒れていく音と震動がいつまでも響いた。


「ユウトの言った通りか……」


 術を休みなく撃ち続けながら、軽く息を吐くミスペン。確かに大した相手ではないが、問題は数だ。一発ももらわないようにしなければと、無意識にたるみかけた心を引き締める。


「ミスペンもすごい! エクジースティをどんどんやっつけてくよ!」


「精神操作だけじゃなくて、戦っても強いんだぁ!」


「そうです、ミスペンさんもユウトさんと同じくらい強いです!」ドーペントは誇らしげに言いながら弓を放つ。


「すごいミスペン! すごいすごい! 木か草かでいったら穴ぼこだね」


「なんでよ?」


 ここでカフが気楽な様子でミスペンに話しかける。


「いや、でも正直ミスペンってユウトより強いんじゃない? すごいな、後で握手してよ」


「ミスペンに触らないでくれる? あんたみたいな嘘つきはどっか行ってよ」


「えー! ……あれ? 動けないぞ」


 ミスペンは目の前に敵がいない時を見計らい、背後を振り返っていた。彼の左手はカフに向けられていた。


「えっ? オレ……」


 ミスペンは念を送り、カフの身体を操って前に出させた。


「うわぁあぁぁぁ!! 嫌だぁぁぁぁ!!」


 ユウトとミスペンの2人ではカバーできない、隙間となっている位置にカフを立たせた。カフはずっと悲鳴を上げている。


「ちょっと可哀想じゃないでしょうか……」


「あんな奴、痛い目見なきゃわかんないでしょ!」


 だが、パフィオはそのカフをさらに守るように前に出た。


「パフィオ!」


「あぁ……パフィオぉ。オレのこと守ってくれるの? 頼むよ!」カフは声が上ずっている。


「別にあんたを守るわけじゃないでしょ」


 パフィオは色々な方向から押し寄せるエクジースティの前足を手で受け止めたり、後ろ足を引っ張ったり、自身の身体を盾にしたりして身体を。


「ああ……エクジースティさん。ごめんなさい、そんなに怒らないで下さい。でも、わたしの仲間も大事なんです」


「パフィオ、何してんの。そいつら敵なんだからやっつけて!」


「そうですね……。そうですね、魔獣さんとは、今は仲良しになれませんよね……ごめんなさい!」


 パフィオは捕まえたエクジースティをそのまま遠くへ投げ飛ばすと、仲間達のもとを離れ、エクジースティの群れの中へ飛び込んでいった。


「すごーい! 飛んでっちゃった!」


「えっ、パフィオ! あたい、独りなんだけど!?」テテは驚いてノコギリを落としてしまった。


 パフィオは敵の中で奮闘しているようだ。グォォォというエクジースティの唸りが一層激しく聞こえ始めて、彼らがどんどん投げ飛ばされていく。テテは困惑してキョロキョロとする。


「うわぁぁぁ! パフィオ!」


「なんで遠くに行っちゃったのぉー!」


「おいーー!! パフィオがいないと、オレ、動けねぇんだよぉぉ!!」


 ミスペンが彼らを叱咤する。「お前らも無理のない範囲で戦えるだろう! 自分の身は守れ!」


「うぅー、頑張らないと……僕らも冒険者だもんね」


「そうよ……自分で戦っても無理かもしれないけど、足引っ張ってばっかりは駄目でしょ!」テテはフライパンとノコギリをそれぞれの手に持ち、臨戦態勢だ。


「ビカビカ満月、パシア・スピラーロ!」


 ボノリーの杖の先から発生したオレンジ色の炎の球はエクジースティの顔に当たるが、効いていないようだ。


「ペネートゥロ!」ドーペントがエクジースティの肩に当たった矢は、刺さらずに落下した。


「えっ……」


「びゃあ! ボノリーの魔法も、ドーペントの矢も効かないよ!」


「これがエクジースティか、強すぎるじゃないの……」


「僕が頑張る。ラピーダ・ムーショ!」


 クイがエクジースティに向かって勢いよく飛んでいき、体当たりを食らわせるが、ほんの少しだけその黒い巨体を揺らしただけだった。


「あっ、あれ……」


 逆にクイの体当たりでエクジースティは怒りを覚えたのか、クイに狙いを定める。


「うわぁぁー! 助けてぇー!!」クイは空を飛んでどこかへ逃げていった。


「クイ! どこ行くの!」


 エクジースティの怒りは収まらず、突進を始める。


「ぎゃああ!」カフが叫んだのも束の間、エクジースティは前足で彼をどこかへ吹き飛ばした。そしてまっすぐドーペント達に向かってきた。


「うわぁぁ!! こっちに来るよ!」


 ドーペントはボノリーを守るように前に出た。


「ドーペント!?」


「どうしよう、ミスペン! ユウト!」


 だがミスペンにもユウトにも、ドーペントを助けるだけの余裕がない。


 ここで、ドーペントを襲おうとしたエクジースティが突然何かの力に吹き飛ばされた。エクジースティは空高く飛び、森の中へ落ちていった。


「うわぁ!」


「何? 何があった?」


 エクジースティのいた場所を見ると、立っていたのは拳を真上に掲げたパフィオだった。


「あっ……パフィオ!」


「ドーペントを守ってくれたんだ!」


 なおも背後からエクジースティが押し寄せるが、パフィオは余裕をもって振り返る。


「えぇーい!!」


 パフィオは涙を散らしながら、迷いのない拳を突き上げる。渾身のパンチはエクジースティの首の付け根に入った。黒い巨体は地面から浮いて空中でひっくり返り、地面を震わせながら落ちた。すぐに大量の魔晶に変わる。


「すごい! パフィオ、強い!」


「パフィオひとりでみんなやっつけちゃうよ!」


 周囲の仲間がどよめくが、パフィオはさめざめと泣いていた。


「大丈夫か? 無理するな」


「あぁい……でもぉ……」パフィオは涙を流し続けていて、まともに発音できなかった。


「ミスペンさん、精神操作はできないんですか?」先ほどクイがした質問をドーペントが繰り返す。


「試しはしたが、やはり無理だ。倒すしかない」


「うわ、やっぱり?」


「イプサルにいた時は、人間以外には効かなかったんだ」


「ミスペンが精神操作したら、楽勝だと思ってたのにね」


「世の中、甘くないということだ。この世界の奴には効くみたいだが、不思議な話だ」


 それから、いつまでも戦いは続いた。魔晶が互いにくっついて魔晶珠に変わっていき、彼らの周囲は魔晶珠で埋め尽くされていく中、前から後ろから、次々と新手は押し寄せる。ユウトもミスペンも地道に戦っているが、敵の増える速さに追いつかない。パフィオはパンチ1発でエクジースティを確実に葬る力を持っているものの、一発一発、殴るたびに涙を流している。彼女の心が限界を迎えるのは時間の問題だ。


「や……ヤバいよ、これ……」


「逃げるべき時に逃げないと、こうなる。もし生きて帰れたら、忘れるなよ」この発言の間にも、ミスペンはエクジースティを3体魔晶に変えている。全力で術を撃ち続けていた。


「そんなこと言わないでよミスペン! ここで死ぬみたいなこと!」


「それぐらい、引き際を誤るのは危険なことだ」


「ユウト! こいつらみんなやっつけて!」


「今……やってる!」


 声を張り上げるユウト。彼は彼で、ミスペンとは反対側で剣を振るい続けていた。剣を何回振っただろう? 100回か200回か、それ以上か。数える余裕などない。前と左右から巨体が現れ、荒々しく腕や尻尾を振ってくる。それを盾で防ぎながら、隙を見て斬れるところはどこでも斬る。倒したらまた次が現れる。


 エクジースティは魔獣だ。人間とは違い、死の恐怖も、仲間を失った悲しみも感じない。それこそゲームに出てくる無限湧きの雑魚のようにどこからともなく現れ、攻めてくるだけ。


 ミスペンに言われた通りだ。キュレノイドで強化されているこの身体でも、さすがに数百回の斬撃を休みなく続けるには腕が厳しいし、攻撃だけでなく敵の動きにも対応しなくてはならないのだから、集中力が切れてくる。ユウトに長時間の集中力などあるわけがない。それは予備校での日々で痛いほどわかっていた。


「あぁぁ……あぁぁ……」


 ユウトは息も絶え絶えになり、いつしか呼吸は唸りのような音に変わっていた。エクジースティの波状攻勢は、息をする暇すらもほとんど与えてはくれない。汗が流れ、膝が笑い始める。


「ユウト、ちょっと大丈夫?」


 背後からテテの声がするが、答えることもできない。力が切れる寸前だった。


 そんな時。どこからともなく、声が響いた。


「おい、だらしねぇぞお前ら!」


「えっ?」


 直後、瞬く間に周囲のエクジースティがすべて消えた。本当に、一瞬でいなくなったのだ。代わりに、滝のように大量の魔晶があたりに降り注いだ。


「なっ……えぇ?」テテは目を見開いている。何が起きたかわからない。


「なんだ? 誰だ?」カフも周囲を見回す。


「誰かわかんないけど、ありがとう!」クイは嬉しそうだ。


「でも、誰なんでしょう?」


「まさか――」


 ミスペンの近くに、あのラヴァールがしゅたっと着地した。目を閉じて頭上で片手斧をクルクル回してから、目の前の空気を縦、横、斜めと5回切っていくパフォーマンス。


「うわぁラヴァール!」


「やはり、あなたか!」


「えっ、なんでラヴァールが? 助けに来たの!?」


 ラヴァールは目を開いて、ゆっくりとユウト達のほうを向いた。


「弟子を見殺しにするつもりなど、毛頭ない。いかに不出来な弟子であろうと」


 数拍遅れ、ドーペントやクイが喜びの声を漏らし始めた。


「うわぁぁ……!」


「すごい。本当に?」


「さすがに、感謝するよ」


「すまないな」


 卑怯者扱いされたり、ユウトの家を荒らされたりした件をすべて水に流し、一行の多くはラヴァールに心から感謝の念を抱いた。


 ラヴァールは返事をしなかったが、代わりにそれぞれエクジースティとの戦いを始めていた頂点の弟子が答える。


「喜びなさい! あなた達だけだったらきっと全滅よ」


 イソギンチャクのヘリトミネは頭上の触手で多くの武器を扱い、二匹のエクジースティを相手に有利な戦いを展開する。片方の敵を剣や斧、槍で攻めながら、反対側のエクジースティには弓矢を撃ち続ける。エクジースティはどちらも、すぐに倒れた。


「ラヴァールさんの弟子になってよかったろ?」


 ナスのダルムは三体の分身とともに一体のエクジースティの周囲を取り囲むと、曲刀で切り刻んだ。瞬時に大量の魔晶となった。


「ミスペン。君の愚かな妹分は、向こうで無様に倒れている。君の手で守ってあげたらどうかな」


 アシカはそれを可能にするように、ターニャが逃げた方向へと続く道を塞ぐエクジースティを赤い珠で止めている。珠はエクジースティの顔に当て、4つの珠で4匹のエクジースティを足止めしていた。


「助かる!」


 ミスペンはひとり、仲間と離れ走っていこうとしたが、クイに呼び止められる。


「えっ、ちょっと! 行っちゃうの? ミスペン!」


「ラヴァール、すまないが私が戻ってくるまで仲間を頼む!」


 側近3人がこれに茶々を入れてくる。


「おい、誰に頼みごとしてんだ?」


「ラヴァール様は絶対だ。君などがその行動を操ろうなど、おこがましい」


「さっさと行きなさい!」

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