第1話 余計な同行者
翌朝。
ユウト一行はプルイーリの町を出て、近くのフォリール山に向かうため街道を歩いていた。山までの道は開けた草原になっていて、遠くに森が広がっていた。
「よっし! じゃあ、とうとうフォリール山に行こう!」クイは宿屋を出てから、ずっと機嫌がよかった。
「とうとう行こう、っておかしくない?」反対にテテは眠そうに歩いている。
「そうだっけ?」クイは首を傾げる。
「ともかく、山に挑む準備ができたわけだ」ミスペンはそうした仲間達をいつもの笑顔で見ていた。
「そうですね」パフィオが答えた。彼女はすっかりミスペンの隣が定位置になっていた。
「……で……」テテは端のほうで、目立たないようにしているある人物を指差した。「なんで、あんたまでついてくるわけ?」
その人物は緑の球体、カフだ。
「ハハハ……そんなこと言うなよ。実は、あれから反省したんだ。オレ、すごく悪いことしたな、って……」
カフは答えた。確かに申し訳なさそうにしているようにも見えるが、その顔つきはどこか怪しい。
「こいつの言うこと信じるなよ?」ユウトは言った。
「そうだね、あんなことしたんだしね」「悪い奴だよね!」テテとクイがうなずく。
カフの背後から、誰かが言う。「殺されても文句言えないことやったのに、勇気あるじゃない」
恐る恐る振り返ったカフが見たのは、殺気のみなぎった顔のターニャ。
「うわぁーー!」
カフは逃げていき、どこに行ったか分からなくなった。一行は彼の後ろ姿を見て安心したが、しばらくすると彼は、いつの間にかユウト達一行に再び加わっていた。
「あれ! カフが戻ってきてるよ!」というクイの声で、全員それに気づく。
「はぁ?」ターニャは露骨に敵意を見せる。
「お前、どっか行けよ」ユウトも、汚いものを見るような目をカフに向けた。
「そんなこと言うなよ。オレ、本気で悪いと思ってるからさぁ」カフの顔つきは相変わらずだった。
「えーっと、このメロンって何?」ボノリーが能天気に訊いた。
「嘘つきだよ」クイが答える。
「えーー!! 意外!!」
大声を出してのけぞるボノリーに、カフが近寄る。
「そうだろ? 意外だよな。オレ、もう嘘つかないんだよ。いや、最初から嘘はついてない」
「あんなに嘘つきって言われてたのに?」
「あんた、ターニャに斬られないうちにどっか行ったほうがいいんじゃない」
クイとテテに言われてカフはまた離れるが、今度は一行から距離を開け過ぎないうちに立ち止まり、徐々に近づいてきた。クイとボノリーが呑気にそれについて話す。
「カフ、ずっとついてくるねー」
「うーん、でもカフは、木か草かでいったら緑だね」
「緑! その通りだね!」クイは楽しそうだ。
「あんたそれ、ずっと言ってるけど、本気で意味わかんないわ」ターニャはボノリーに白い眼を向けた。
「うびゃん!」ボノリーは再びのけぞった。
それを見て、カフはボノリーに笑いかける。
「ハハハ! 君、面白いね。レサニーグには君みたいな人、いなかったな。木か草かでいったら、か……ハハ、ハハハ。どういう意味なんだろうね、でも面白い。ハハハハ……」
カフは独りで笑い続けているが、それを見るユウト一行の眼差しは冷めていた。
「お前、さ」ユウトはカフに詰め寄った。「さっき『反省した』っつったよな? 何笑ってんだ。お前マジで、何を反省したんだよ?」
「うわぁ! もう勘弁だぁー!」
カフはダダダッと足音を立てて走っていくが、逃げずに近くを適当に走り回るだけだった。
「走ってるねー」「そうだねー」ボノリーとクイはだらけた感じで言い合った。
「ミスペン」テテがミスペンの隣、パフィオの反対側に来て言う。「あのメロン、本気で連れてって大丈夫? あたいらもやってない罪着せられたりしないかな」
「まあ、今のところはいいだろう。だが、これ以上仲間に危害を加えるようなら、本当に容赦しない」
それを聞いていたカフは、ミスペンの前に走ってくる。
「危害なんて! これからはオレだって仲間だし」
「仲間? あんたが?」テテは先ほどのターニャかユウトと同じくらい白い眼でカフをにらんだ。
「ハハハ……なんか、怖いよ。アクリスにも振られちゃったし、オレ、独りになっちゃったんだ。だから、頼むよ」
「何、その理由……」