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果てなき時空のサプニス  作者: インゴランティス
第2章 呪われた手鏡
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第14話 多感な少女の扱いについて

 険悪なまま終わった夕食の後、ユウトは家の外で、ドーペント、テテの2人と話していた。


「一緒にご飯食べたら、ターニャさんとも仲良くなれるかもって思ってましたけど、なんだか難しそうです」


 ドーペントは残念そうに言った。彼が右手に持つ灯りが、その場を青紫色に照らしていた。


「いや、無理だよあの人は」ユウトは、ほれみたことかと言わんばかりに答えた。


「ご飯ごちそうしてあげてるのに、うるさいとか殺すとか、何様? あいつ。虫けらって何回も言ってきたし」テテもご立腹だ。


「反抗期にもほどがあるよ。むしろ、家まで来たのが不思議なくらいだしな」


「すいません。僕が連れてきちゃいけなかったんでしょうか」


「いや、いいけど……」


「でさ。ユウト、あの人どうすんの?」


「どう、って?」


「あたいは、もうあんな人のためにご飯作るの嫌だよ。でも、ま、ユウトがどうしてもあの人仲間にしたいっていうんなら、考えてあげてもいいかなー、ってこと」


「そうですね。僕も、もしあの人と仲良くなれるならなりたいです」


「いや。俺、別にあいつのこと仲間にしたいって一回も言ってないけど」


「そうですか……」ドーペントは寂しそうに答えた。


「ドーペントは仲間にしたそうだね」


「ターニャさんは、ミスペンさんの仲間みたいなんです。だから、本当はターニャさんもいい人なんじゃないかと思ってます」


「あたいは、それは勘違いだと思うけど」


「そうですか……」


「あいつのこと、ミスペンは詳しいのかな?」


「わかんない。一応、ちょっとミスペンさんに訊いてみようかな」








 それからドーペントとテテは食事の片付けのために家の中に戻ってしまったので、ユウトはひとりでミスペンと話すことになった。彼を捜すのはまったく苦労しなかった。家から少し離れた道の真ん中で白く輝く光の玉が宙に浮かんでおり、その下にミスペンと、町の住人が何人かいた。


「光ってるぞー。明るいぞー!」


「昼みたいだ! うわぁー!」


「昼だ昼だ!」


「寝なくていいぞ!」


 ミスペンの光に再び引き寄せられたか、さっきのジャガイモとキャベツが光の玉を見上げて騒ぎながら飛び跳ねている。


 近くでタコもボーッと見ていた。


 しかし、キャベツがユウトを見つけ「あっ! あれって……なんか見たことあるぞ」と言った。


「えっなんだ……あれ? 誰だ!?」ジャガイモもユウトを発見する。


「あれはユウトだ」タコが冷静に言う。それでジャガイモとキャベツは互いに見合って議論を始める。


「あれが? まさか?」


「多分?」


「多分ならユウトじゃないかも」


「そうか、違うのか」


「あれはユウトじゃなかったんだ」


「いや、本物だ」とタコが言ったことで、ジャガイモとキャベツはようやく確信に至った。


「うわぁぁぁ!」


「やっぱり! ユウトだぁぁ!」


 ジャガイモとキャベツは町のほうへ一直線に走っていき、タコもその後を追った。


 彼らの背を嫌悪のこもった目で見送ってから、ユウトはミスペンに近づいて話しかける。




「あいつらに何かされませんでしたか?」


「いや、特に何も。面白い奴らだ。光を見ると寄ってくるらしい」


「虫みたいですね」


「そうだな」


 それから、少し沈黙が流れた。


 ユウトは本題に入ろうとしたが、どう話を切り出したものか迷う。


 こんなに目立つ光の中では大事な話がしづらい。


 ターニャがどこかで盗み聞きしていたら困ると思い、周囲を見回す。


 だが、ミスペンの照明術をもってしても森の中までを照らしてくれるわけではない。


 ユウトの不審な動きにミスペンが「どうした?」と話を向けてくれる。


「いやぁ……」


「何か困ったのか?」


「訊きたいことがあって」


「なんだ?」


「えーっと、あの人、大丈夫なんですか?」


「……ターニャか?」

 名前を出さずともわかってくれたので、ユウトはホッとした。


「その……なんていうか。あの人、あんな感じじゃないですか……」


 もし盗み聞きされていたら何を言われるかわからない恐怖があったので、ユウトの言い方は遠回しだった。


「あんな感じ、とは?」とミスペン。


「なんか……」ユウトは意を決して踏み込む。「怖いじゃないですか」


 ミスペンは、やれやれという表情で答える。

「まあ、予想してはいたが、やはりこうなったな」


「だから、言おうかどうか迷ったんです。別に、家族とかじゃないんですよね?」


「ああ。言った通りあの子も、おそらく私も、別々の場所から同じところに『手鏡』で飛ばされてきただけだ。私もあの子がどこで何をしてたのか、まったく知らない。聞いても教えてくれないしな」


「なら、その……わかります? あんなキツい人が武器持ってたら、何するかわかんないでしょ」


「……どうしてもと言うなら、あの子には出ていってもらうことになる。と言うより、あの子もここに来る気がないところを私が無理矢理連れてきたしな」


「無理矢理連れてきたんですか?」


「ドーペントに誘われたのもあるだろうが」


「ドーペントも、よくわかんないですね。どうして連れてこようと思ったのか」


「出ていってもらったほうが、逆にあの子も気が晴れるだろう。しかし……」


 どうもそれではミスペンは不満らしい。


「どうしてですか? だったら、あの、なんていうか……別にあの人、放っといてもよかったんじゃないですか?」


 とユウトが訊くと、ミスペンは真剣な顔つきになって言う。


「少し聞いてほしいんだが、まだあの子は子供なんだ」


「何歳なんですか?」


「それは知らない。だが、少なくともお前よりは年下のはずだ」


「それはわかりますけど。武器、でかすぎですって」


「あの性格で私と同じくらいの年だったらもうどうしようもないだろうが、ターニャはまだ子供だ。やり直しがきく。だから、少し我慢してくれないか?」


 ユウトはここまでミスペンに、とても優しくていい人だという印象を持っていたので、こんな厚かましい部分もあるのかと少し驚きを覚えた。


「やり直し、ですか……?」ユウトが訊き返す。


「あの子がどんな人生を送ってきたのかはわからないが、裕福で幸せな家族に囲まれて育ったようにはとても見えないだろう?」


「そうですけど……」


「君について訊きたいんだが、どうも君は、仲間を殺したという噂を立てられてるんだな?」


「聞いたんですか?」


「予想しただけだ」ミスペンは、その話をターニャから聞いたということは黙っておいた。


「えっ……ああ」ユウトは頭をかく。知られたくなかったことを、予想で当てられてしまうとは。


「別に、お前を疑う気はない。事実無根だろう?」


「はい」ユウトは、『当たり前だ』という意思を込め、はっきり答えた。


「ターニャをもし放っておいたら、濡れ衣では済まなくなる」


 濡れ衣では済まない、とは? ユウトがあまり理解できていないのを彼の表情だけで感じ取って、ミスペンは補足する。


「きっとあの子を放っておけば、この世界の誰かをいずれ、間違いなく殺すことになる。そうなったら……彼女の末路はきっと、孤独なままどこかで死ぬか、もしくは仇討ちされるかだ。それは……あまりに可哀想じゃないか?」


 それでユウトは理解した。


濡れ衣では済まない――つまり、彼女が誰かの命を奪うということだ。


 そりゃそうだ、とユウトは思った。


 あんな殺意まみれの子が、見た目も性格も変な生き物ばかりのアキーリで、いつまでも武器を振り回さずに住み続けられるとは到底思えない。


 だが、それがどうしたというのか――ユウトは口には出さないものの、ミスペンの言うことにうなずけはしなかった。


 孤独に死のうが仇討ちされようが、こちらには関係ない。嫌なら本人がやらなければいいだけ。


 もしやったとしたら自業自得、それだけの話でしかない。


「納得いかないようだな」

 ミスペンは言った。やはり、口にせずともユウトの気持ちを理解してくれる。


「だって、面倒見たって、もし万一俺らが殺されたら……」


「私には精神操作という力があるのは説明したな? 幸い、あの子には術が効く。あの子が手を出しそうなら、私があの子を止めよう」


「はぁ……」

 ユウトは溜息をついて少し間を置いた。確かに納得はできないが、ミスペンがここまで言うから仕方ない。


 彼は渋々「わかりました」と答えた。


「すまない。無理な頼みは承知の上だ」


「お願いします。俺、あの人と話すの、無理ですよ」

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