第13話 5人の食卓
ミスペンとドーペントはターニャを連れ、町外れに向かった。
「ちょっと、どこに連れてく気? 町から出るの?」
ターニャは不機嫌ながらも、一応ミスペンとドーペントの後ろを歩いていた。
「ユウトの家は本当にこっちなんだ」
「そろそろ見えてきます」
その言葉通り、アキーリの町を出たところにそれらしきものがあった。
ごく平凡な木造の家の軒先に、青紫色の灯りが吊るされている。
飾り気といえるものはこの灯りくらいしかないが、その代わりサイズは町の家々よりは一回り大きい。
あれがユウトの家なのだろう。
家のドアを開けると、さすがに外よりは明るいが、それでも足の踏み場を間違えそうなくらい薄暗い青紫色の中で、ミスペンもターニャも嗅いだことのない、しかしとても美味しそうな匂いがいっぱいに漂っていた。
奥ではユウトとバッタのテテが、大量の料理を囲んで待っていた。
「あ。お帰りなさい」
ユウトの声がする。そして、テテの少しテンションの高い説明が後から続く。
「待ちくたびれたよ! だから、いつもよりたくさん作っちゃった。鶏ガラあんかけカツ丼に、ぜんまいゴマサラダに、ナタデココババロアクレープに……他にもいっぱい!」
テテは太陽を思わせる、明るくまぶしい笑顔だった。どうもこの大量の料理は、彼女が作ったらしい。
「悪いね、本当に夕飯までごちそうになってもいいのか?」
「ああ! いいよいいよ。だって、行くとこないんでしょ。……ん? 後ろの、もしかしてさっき言ってたもうひとりの人間の?」
テテは後半、ミスペンの後ろにいるターニャを見て、少し怪訝になって確かめる。
「ああ、ターニャという子だ」ミスペンが答える。
「町にいたんです。見つけられてよかったです」ドーペントも続く。
「ミスペン、あいつ何?」ターニャは白い眼をして、テテを指差して訊いた。
「あーら!」ミスペンよりも先にテテが反応する。「あいつ何、とは何よ。この家のキュートな料理番よ!」
「はぁ?」
「ターニャ。せっかく上がらせてもらうんだ。もう少し態度があるだろう?」
「だって、あんなのが作るもんなんか、食べたら何が起きるかわかんないじゃない!」
ミスペンはターニャの歯に衣など着せるつもりもない言い草に、内心納得する部分もあった。
本人にまったく悪意などなかろうとも、人間に合う食事を作ってくれると誰が保証できようか。
それでも、テーブルの上の料理は大いに食欲をそそった。
「ちょっと、あんなのって言った? もう、ごあいさつ!」
「テテさんの料理は美味しいですよ」
「あんなのが?」
「ターニャ。ここにいる以上は、この場所にあるものを食べざるを得ないぞ。自分で料理するにしても、食材はこの場所のものを手に入れないといけない。テテの料理を食べるのと何が違うんだ?」
「あたしが料理下手って言いたいわけ!?」ターニャの目がつり上がる。
「そういう意味じゃないが……」
言いながらミスペンが家に上がろうとするが、テテに止められる。
「ちょっ、靴のまま上がんないで! 上がるんだったら靴脱いでよ」
「お、すまない。忘れてた。ターニャ、ここは靴を脱ぐ文化らしい」
ミスペンが片手で、風の術を添えながら不器用にブーツを脱ぎ始める。
「文化? 何それ。聞いたことない。靴、盗む気じゃないの?」
「そんなことしないですよ」ドーペントは靴を履いていないので、そのまま家に上がった。
「あいつも外歩いたのに、なんでそのまま上がるの? おかしいじゃない」
「嫌なら外に出てもらうよ」テテが言った。
すると観念したか、ターニャはハッ! と強く息をついて、結局ムスッとした顔で屈む。
そして鋼鉄のブーツにつけられた多くの留め具を、ガチャガチャいわせながら外し始めた。
「あんた、それ、何? 靴脱ぐだけで忙しいね」
「うるさい」ターニャはまた、テテに白い眼を向けた。
「あーら!」
そんな異世界の彼らの会話に加わらず、どこか不満げな顔をしてユウトは眺めていた。
それに気づいて、彼の横まで来ていたドーペントが尋ねる。
「ユウトさん、どうしたんですか? そんな顔して」
「いや……特に」
「ああ、家の主は君だったか? 勝手に連れてきたことはすまないな」
ミスペンがターニャとともに食卓の前まで来て言う。
「いや、いいんですけど」
と答えつつ、ユウトは納得していない様子だ。そんな彼にテテとドーペントが言う。
「5人でご飯食べるなんて久しぶりね」
「大勢で食べたほうが楽しいですよ、絶対」
「ああ……」ユウトはよそを向いている。
その間にターニャは、食卓に並ぶ豪勢な料理の数々を、目の色を変えて眺めていた。
「美味しそうでしょ」
彼女にテテが得意げに言う。するとターニャは、料理とは関係ないところについて指摘した。
「いや……あんた達、床に座ってるの?」
「そうだな、気にしなかったが……確かに椅子もない」
ミスペンが答える。
「あー、そういや今まで考えたことなかったね。だって椅子とか用意するのめんどいし」
「早く座って下さい、冷めちゃいます」
ドーペントはユウトの隣に座りながら言った。
3人は上座に、ユウトを中心にして座っており、家の玄関に近い2人分のスペースに、ここに座れとばかりにクッションが2つ置かれている。
「そうか」
ミスペンはテテの隣に座る。
開いている場所は彼とドーペントの間しかない。
ターニャは渋々、そこに腰掛けた。
鎧が彼女の不機嫌を代弁するようにガチャンと鳴る。
「これは、なんだ?」ミスペンは目に飛び込んだ料理を指差す。
「それは鶏ガラあんかけカツ丼よ」
ターニャの失礼な態度のせいか、テテはややぶっきらぼうに答えた。
「……不思議な名前だ」
米の上にトンカツ、そしてその上から薄い色のねっとりしたソースがたっぷり掛けられている。
ミスペンにとっては見たことがないものだらけだったが、匂いは香ばしく、とても美味そうだと感じた。
「鶏ガラあんかけカツ丼はうちの名物みたいなもんよ」
「ユウトさんにとって、すごく懐かしい味なんですよね」ドーペントが話を向ける。
「お前達は昔からこれを?」
「僕らは割と最近ですけど、ユウトさんは結構前かららしいです」
「そんなに古い付き合いなのか」
「そういうわけでもないけどね」
「ふむ?」
「えーっと、ですね」ユウトが若干恥ずかしそうに話し始める。「テテとかと会う前から俺が地元で食べてたやつにすごく似てるんです。デミカツ丼っていうんですけど、岡山の名物で」
岡山のご当地グルメに、カツを卵でとじずにデミグラス等の茶色いソースを掛ける『デミカツ丼』がある。
ユウトの好物のひとつでもあるが、この中でそんなものを知っているのはもちろんユウトだけだ。
「デミカツ? テテが言ったのと名前が違うが」
「だからユウト、いっつも言ってるけど、鶏ガラあんかけカツ丼だって」
「その名前、長いけどな」
「でも、知らない言葉よりはいいと思わない? 鶏ガラのあんかけのカツの丼よ」
「でも、ユウトさんがそう言うなら、デミカツ丼って呼ぶのもいいかなぁと思います」
「えー? 作ったのはあたいよ?」
「そうですね」
「ほら、こんな話してたら冷めちゃうでしょ」
「いただきまーす」
ミスペンは早速スプーンでこのソースをすくい、口にしてみる。
――なんとも言葉で表現しにくい味だった。
それは悪い意味ではなく、ただ単に経験したことのない味で、舌がやや混乱したのだ。
『鶏ガラ』という名前と薄い色に反し、ソースの味は和風にアレンジしたデミグラスソースといったところ。
確かに鶏の味も含まれているが、それ以上に醤油や昆布、バター、牛肉、野菜など多様な食材の味からなる複雑なものだった。
そうした日本の大衆食に触れたことなどないミスペンは、『何かわからない』という感想を抱いてしまったのだが、しかし、それはそうとしてなかなか美味い。
ソースだけでこれほどの味となると、具はいかほどのものか、嫌でも興味をそそられる。
一方、ユウト達3人は同じように思い思いの料理を口に運びつつ、会話を続けていた。
「鶏ガラあんかけカツ丼はユウトさんの地元だと、いろんな酒場で食べられるんですか?」
とドーペントが訊くと、ユウトが答える。
「いや、酒場っていうか……いろんなレストラン?」
「レストランって、美味しそうな言葉です。ユウトさんの世界にはいろんなお店があるんですよね。やっぱり、行ってみたいですね」
テテが話に加わる。
「でも、そうなるとユウトの世界の酒場って何があるが気になるわ」
「俺は知らないけど、酒場っていうくらいだから酒じゃない?」
ユウトの口調と顔つきには、なぜか若干の嫌悪がにじんでいた。
「サケ? 魚ってこと?」
「いや、魚の鮭じゃなくて飲み物」
嫌悪感を残したまま、ユウトが答える。
「どういう物なんでしょう」
「魚のジュース?」
「魚のジュース!? そんなもんないよ」
ユウトは軽く笑って答える。
「そもそも、こっちの世界って酒、ないのか。酒場も誰も酒飲んでないし、なんで酒場って名前かずっと謎なんだけど」
「酒場は酒場だから、酒場って名前なんじゃない? 知らないけど」
「そうですね、考えたことなかったです」
「酒ってそもそも何?」
「……あんまりいいイメージないな」
3人の会話に加わっていなかったミスペンは、ユウトに尋ねた。
「酒で失敗でもしたのか?」
「いや、そもそも飲んだことないです」
「ほう、酒を飲んだことがないのか。それもいいかも知れんな。あの味は知らないほうがむしろ幸せ……かもな」
「ミスペンさんも、その酒っていうのが嫌いなんですか?」
「いいや、とんでもない。あまりに美味すぎて、逆に知らないほうがよかったと思うこともある。それと、飲み過ぎた後もな」
ドーペントとテテはぽかんとした。
当然だろう、酒というもの自体を知らないのだから。
対してユウトは、やや思うところある感じで「そうですか」と答えた。
「少し難しかったかな。だが、つらいことを忘れる方法があるとしたら、酒がそのひとつなのは間違いない」
「なんだか……深いですね」
ドーペントには少し伝わったらしい。
「ユウトもその酒っていうの飲んだら、嫌なこと忘れられるかな?」
テテはいたずらっぽく笑って言う。
「俺はいい」
ユウトはムスッとしている。
「あら、冗談よ。怒んないでよ」
「怒ってない」
想像すらできないユウトの世界に思いをはせつつ、ミスペンは通称デミカツ丼、正式名称は長くて覚えられない――その料理の上に乗っているトンカツをとうとうスプーンに乗せ、その端をかじった。
サクッと軽い食感の衣がくるむのは、ほどよい歯ごたえの肉。鶏ガラあんかけと称する謎のソースが肉の風味と混ざって、生まれるハーモニーは……ミスペンの味覚が出した答えをそのまま述べるなら『なんだこれは、こんなもの食ったことがない』だった。
彼は今までの人生で、およそ人間が食べられる中では最も卑しいと思われる物体から、国内最高峰の宮廷料理まで一通りのものを食べてきた。
しかし、テテの作ったものはその中のどれにも似ていない。
にもかかわらず、不思議とスプーンが進んでしまう。
そしてトンカツの下に敷かれている白米はソースとよく絡み、トンカツとの相性もいい。
こんなもの、アキーリに来なければ決して味わえなかっただろう。
この先何が起きたとしても、『手鏡』には感謝しなくてはなるまい。
少なくとも、今はそう思えた。
「どう? 美味しい?」
テテはミスペンに顔を近づける。
「ああ、美味しいよ」
「んっふふー! よかった!」
テテは満面の笑み。バッタだろうがなんだろうが関係なく可愛いと思わせてくる笑顔だ。
「スプーンで食べてるんですか?」
そうドーペントに言われ、ミスペンはとっさに彼がどんな風に食べているのか、その手元を見た。
彼は木でできた二本の細い棒を、カエルの手で器用に食べているらしい。
ユウトとテテも同様に、そつなく箸を扱っていた。
ミスペンは皿と一緒に出された二本の棒を、何に使うかわからないから見なかったことにしていたのだが。
「この棒……私の前にも置いてあるが、どう使うんだ?」
「えーっと、そうですよね。箸の文化じゃないんですよね」
「はしの……文化?」
「箸ってこう持つんだよ」
テテが箸を持つ手をミスペンに近づけて見せてくれたが、どの指がどうなっているのか、まったくわからない。
織物でも作っているようだと思った。
「無理に箸使うことないですよ」
「ああ」
「どんどん食べて。ほら、そのぜんまいゴマサラダとかどう?」
「なんだそれは?」
「あんたの目の前よ」
テテはミスペンの目の前に並ぶ皿のうち、鶏ガラあんかけカツ丼の横にある皿を指差す。
小さな黒っぽい粒が山盛りに積まれており、サラダらしさはまったくないどころか、食べ物にも見えない。
手を付けるのがはばかられるが、ユウト達は抵抗なく食べているようだ。
青紫色に染まった薄暗い家では色の違いがほぼ判別できず、彼らの皿を見てもこの『サラダ』の正体はよくわからない。
「美味いのか、これは?」
「そりゃーあたいが作ったんだから」
「食べてみて下さい」
ドーペントも勧めるので、ミスペンは意を決し、なんとか丼を食べたスプーンをそのままサラダに差し込んだ。
中から湯気が立ち上る。
出てきたのはマッシュポテトや玉ねぎ、アボカド、そして細いひものようなぜんまい。
食してみると、素材を生かし、塩と胡椒での最低限の味付けにとどめてあるようだ。
しかし後からワサビのような辛みがやってくる。
これもミスペンにとっては初の味覚だった。
柔らかいものばかりの中に、コリコリというぜんまい、そして心地よく潰れるゴマの粒と、複数の食感を混ぜてくれている。
「こんな……」
ミスペンはそれ以上の言葉が出てこなかった。
「口に合いませんでしたか?」
ドーペントが訊いてくる。
「とんでもない。素晴らしい」
「あーら! 嬉しい! ありがとね!」
またテテはミスペンにまぶしい笑顔を見せてくれる。
テテの料理が気に入ったことにユウトは何も言わないものの、夕食が始まる前の不満も忘れ、どこか嬉しそうだ。
さて、明るく楽しげな雰囲気だが、この場にいる5人のうち、ひとりだけその雰囲気に入っていない者がいることにドーペントが気づき、その名を呼ぶ。
「あれ、ターニャさん……」
名を呼ばれた少女は、目の前の鶏ガラあんかけカツ丼に手をつけることもなく、ドーペントの隣で口をへの字に曲げ、苦々しい顔で下を向いていた。
「あんた、一口ぐらい食べてみたら? 自信あるんだけど」とテテ。
ターニャはテテをにらむ。
「だからさ、お腹空いてるんでしょ。違うの?」というテテの問いに、やはり無言を崩さない。
「ターニャ、今のところ問題はなさそうだ。食べてみろ」ミスペンも言った。
「なにー? 問題なさそうだ、って」
「いいや、違うんだ。すごく美味しい、という意味だ」
「うふー。そうならそうって言ってよね!」
テテはミスペンに抱きついて、彼の頬に自分の頬をくっつけた。
テテの皮膚はガサガサしていて、雑草の汁に似た渋い匂いがかすかにする。
やはり虫には違いないようだ、とミスペンは思う。
「ミスペン」彼らに冷たい視線を向けながら、ターニャが名を呼ぶ。
「どうした?」
「もし嘘だったら殺す」
「うわ~。怖い! 食事中に言うことじゃないでしょ」テテは口に手を当てる。
「嘘じゃないぞ、ターニャ。とりあえず食べてみるといい」
ミスペンに言われ、ターニャは鶏ガラあんかけカツ丼のソースに軽くスプーンをつけ、なめてみる。
すると、一口で顔つきが変わった。信じられないという思いが心に浮かび上がる。美味しすぎる。
今まで食べてきた物はなんだったのか?
ただ、実のところ、あのアウララの部屋で食べた蒸しパンには劣る。
感じたことのない、変な風味も混じっている。
だが、それはあの蒸しパンにはない、どこか心にしみるものがあった。
スプーンが止まらない。泣きそうになりながら、テテの料理をかき込むように口に送った。
「……すごい食べるな」
そうぽつりと言ったのは、ユウトだった。
この一言でターニャは一瞬恥ずかしそうな顔をしてから、それを隠すように彼を軽くにらんだ。
何か、彼女の目に涙が浮かんでいるような気がした。
青紫色の薄暗い光の中でそう見えただけなのかもしれない。
「どう? 美味しいでしょ?」
「ふーん。まあ、まあ……じゃないの?」ターニャは伏し目がちで答えた。
「そんなに食べてるのに?」
ターニャは答えない。
「美味しいでしょ? そう言ってよねー」テテが続けた。
「……うるさい」
「あら、もう! せっかくごちそうしてあげてるのに」
「この子は素直じゃないんだ」と、ミスペン。
ターニャは、今度はミスペンを一瞬にらんで、また食事に戻る。
「ねー、そんだけ食べたんだから教えてよ」
「ふあ?」ターニャはデミカツ丼を口に含んだまま応答した。
「ユウトは岡山の矢掛から来て、ミスペンはイプサルから来た。で、ターニャは、どこから来たの?」
ターニャは食べるばかりで、何も答えない。
「聞いてる? ちょっと? 聞こえてますかー?」
やはり、食べるだけで何も答えない。
「ターニャさん……言いたくないんですね」
「言いたくない」彼女はようやく発言したが、それは発言を拒否するためだった。
「あんた、元の世界で何してたの?」
テテが尋ねても、ターニャは答えない。
「冒険者やってたの? それとも他の何か? あんた強そうだし、冒険者っぽいね」
テテはしつこく尋ねるが、やはりターニャは答えない。
「なんか言ってよねー」
ターニャは答えなかったが、目をぎゅっとつぶった。
ユウトには、それが何を意味しているのかよくわからなかった。
「何? 目、ぎゅってつぶったね」
するとターニャは突然目をカッと開き「うるさい!」と一喝した。
「わあ。急に大声」
「虫けらのくせに、うるさい!」
「あー! また虫けらって言ったね? じゃあいいよ、食べなくて」
ターニャはテテをにらみつけてから、また食べ始めた。
「あんた、食べるのはしっかり食べるんだね」
「はぁ?」
「態度悪いねー。美味しいかどうかぐらい言ってくれてもいいでしょ」
「もういいよ、何も喋んなくて」ユウトが少しうんざりした様子で言った。
「あら。ま、そうかもね。あたいらで楽しくやりましょ」
そのテテの言葉を最後に、ターニャに話しかける者はいなかった。
触れづらい空気を発しながら黙々と料理をほおばるターニャは、食卓の空気を険悪にし続けていた。