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果てなき時空のサプニス  作者: インゴランティス
第2章 呪われた手鏡
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第11話 愉快なアキーリ住人

 街路には住民の姿はない。満点の星空と静かな夜の時間が流れる。


 時折、そこらの建物の中から楽しげな話し声が聞こえてくる。


「宿屋はどこ?」


 ターニャはぽつりと、いら立ちとともに吐き出した。


 木造建築は今まで彼女にとってなじみ深いものだが、この町の建物は、木造は木造でもデザインがまったく違った。


 例えば屋根ひとつとっても、端に星の形の飾りがついていたり、ハート型をあしらってあったりとオリジナリティがあって、全体のフォルムもどこか可愛らしかった。


 ターニャが今まで見てきた建物は無骨か、荘厳か、さもなくば今にも崩れそうな粗末な家という三つのうちのどれかだったので、家に星やハートの飾りをつける発想がなく、どうにも幼稚に思えてしまった。


「変な家ばっかり……」


 つぶやいた直後、近くの家のドアが開き、手足のついたジャガイモがえらく楽しそうに、小さく跳ねながら飛び出してきた。


 ターニャと鉢合わせしたジャガイモは、一気に表情を変えて緊張し「えっ!?」と一声発する。


 ターニャは背中に伸びる大鎌の柄に手を掛け、いつでも戦えるように気を引き締めた。


 ジャガイモは背中を見せ、逃げながら「ユウトが来たぞ!」と近所に大声で呼びかける。


 彼が家に逃げ込むのと同時に、二軒隣の家から栗が出てきた。


 栗はターニャを見るなり絶叫する。


「うわぁ! 本当にユウトだ! 怖えーーー!!」


 するとこの絶叫を聞き、ジャガイモは再び家から出てきて栗と合流した。


「だろ? ユウトだよな?」


「ユウトだ! ユウトだぞ!」


「完全にユウトだ!」


 ターニャはいよいよ臨戦態勢となった。


 背中から大鎌を抜き、威嚇するように3人の前に構えて見せた。


 それ以上近づけば真二つにするという意思を込め、にらみつける。


「うわ、襲ってくるぞ」


「どうしよーー!」


 ジャガイモも栗も慌てふためくが、ここで栗はあることに気づいたようだ。


「え? 待て。ユウトじゃねーぞ」


「あれ? 違う?」


「ユウトの武器は剣だ。こんなデカいのじゃねーぞ」


「ん? そうだっけ?」


「そうだよ。普通の剣だ」


「あー。そうだな。ちょっと似てるけど、違うな。ユウトはあんなに髪長くない」


「じゃあ大丈夫だな」


「なーんだ。びっくりした」


「ハハハ」


 笑い合うジャガイモと栗。


 大鎌を抜いて威嚇しているつもりなのに、彼らはもはやターニャを警戒していないようだった。


 白けた目をして、ターニャが武器を背中の鞘に納めようとした時。


 騒ぎを聞きつけてか、周囲の家から住人がわらわらと出てくる。


「ユウトか!?」


「いや、ユウトじゃないかも」


「何? 何?」


「おっかねーぞこりゃ!」


「大変だ大変だ!」


「ユウトユウト!」


「どーしよー!」


 彼らはバリエーションに富んでいた。


 まずスイカ、タコ、カバ、キツネ、キャベツの5人。


 その後ろにはオレンジ色の楕円の果物と、スズメに似た体形を持つ緑色の鳥もいた。


 先ほどからいたジャガイモと栗に合流し、合計9人となった町の住人はあっという間にターニャの周囲を、半径3メートルほどの円で取り囲んだ。


 彼ら9人は飛び跳ねたり周囲を見回したりしながら、過剰な大声でターニャの印象を指摘した。


「すごい! 強そう!」


「やっぱりユウトだ!」


「殺されるぞ! おっかねーぞ!」


「大変大変!」


「武器おっきーい!」


「すごい! でかい!」


「こわーい!」


「ラヴァール様よりどっちが強いかな?」


「ラヴァールさんに決まってんだろ!」


 やかましい住人に囲まれ、ターニャは最後通告のつもりで「それ以上近づかないで!」と言った。


 その一言で集まった生物は絶叫し、半分以上が逃げていく。


「ぎゃああ!」


「うわー! 怖い!」


「やっぱりユウトだーー!」


「ユウトより怖いかも!!」


「うっぴゃー!」


「ラヴァール様助けてー!!」


「おやつ食べよう!」


 口々にわめきながら家に帰ったが、4人はその場に残った。ジャガイモとタコ、キツネ、そしてキャベツ。


「おい、帰ろうぜ」キャベツが言う。


「俺、ユウトに会ったことあるよ。こんな武器持ってない」タコが答える。


「あれ? じゃあこいつってユウトじゃない?」ジャガイモが言った。


「うん」タコはうなずく。


「じゃあこいつ、なんだ?」


「知らない」


「そっくりさんだな?」


「そっくりさんってことは、どういうことなんだ? 半分はユウトってことか?」


「違うよ」


 そこで、4人の中でも落ち着いた性格らしい、簡素な服を着たキツネがターニャに尋ねる。


「君、ユウトの仲間か?」


「ユウトなんて知らない」ターニャは答えた。


「でも、似てるぞ」キャベツが言った。


「俺は犬と違うよ。お前もサツマイモじゃないだろ」キツネが言った。


「んー、どう違うんだ?」


「どう違うかって? うーん……訊いてみよう。君、この町には何しに?」


 キツネの質問に対し、ターニャは話をするのすら嫌だと思いつつ、仕方なく


「ただ、宿屋がどこか知りたいだけ」


 という用件を伝えた。すると、ジャガイモ達は先を争い説明してくれる。


「宿屋? ああ、ここをまっすぐ行って、7個目の通りを右に曲がったら……」


「7個目なんてわかりづらいだろ、ミントンさん家を左に曲がって……」


「左じゃないんじゃないか?」


「左も右も一緒だろ」


「全然違うよ!」


 この4人の説明では、結局ターニャは宿屋への行き方がまったくわからなかった。


「あれ? 君、鎧光ってるな」


「すごい! かっこいいぞ」


「それ、鍛冶屋に作ってもらったのか?」


 返事の代わりに、ターニャは懐から魔晶を1個取り出した。


「おー! そういうことか。魔晶の光だったんだ」


「えー、じゃあ光る鎧じゃないのか」


 ターニャは、彼らにもうひとつ情報を与えることにした。


「魔晶っていうやつ、全部で3個あるんだけど」


 すると、不思議な町の住人4人は大声で話し合う。


「3個かー」


「3個だとどうかな、ちょっとだけ足んないかな」


「えっ? 足りないんだっけ」


「ちょっとどころじゃないぞ、魔晶10個ぐらい要るんじゃないか」


「10個!? そんなに高かったっけ?」


「まー、でも俺らが説得すりゃなんとか……」


「無理だよ! 説得しても7割引きは無理!」


「9割だろ! あれ? 5割だっけ?」


 ターニャは話を聞いていられず、不思議な生物4人のもとを離れた。


 4人はターニャがいなくなったことに気づかずしばらく議論し、彼女がまったく見えなくなってから気づいた。


「あれ? あの人どこ行った?」


「行っちゃったみたいだなー」


「俺らの家に泊めてやってもよかったんじゃねーの?」


「嫌だよ。ユウトだったらどうすんだ」


「だから、あいつはユウトと全然違うんだっての」


「ユウトと何が違うんだ?」


「だって、ユウトは剣持ってたろ」


「えー! でも人間だろ!」


「いや、でも武器が違うぞ」


 と、彼らは先ほどの会話を再び繰り返すのだった。

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